若いリスナー急増「ラジオ復権」導いた3つの要素
リスナーが増えているラジオ。その理由を解説します(写真:Princess Anmitsu/PIXTA)
コロナ禍の先行き不透明な状況下で、リスナーと本音で向き合う、あるいは寄り添う「コミュニケーションメディア」として、ラジオの力が見直されている。現ラジオ委員きってのヘビーリスナーである永須氏に、その背景について分析してもらった。
コロナ禍でラジオを聴く時間が増えた
「ストレートに、結婚しました。どうしてもラジオで伝えたい、ということがありまして。今日まで何とか協力してもらいながら、リスナーのみなさんに、一番に伝えたいと思って。(婚姻届は)この生放送に合わせたかったので、それまでバレないようにということで、すごく遠いところに出しに行きました」(ニッポン放送「ナインティナインのオールナイトニッポン」2020年10月22日放送分より)
『GALAC』2021年9月号の特集は「ラジオのポテンシャル」。本記事は同特集からの転載です(上の雑誌表紙画像をクリックするとブックウォーカーのページにジャンプします)
「ということで、結婚しまして。今からじゃんじゃん、お祝いの恐喝をしますから!(笑)」(JFN系列「有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER」2021年4月4日放送分より)
【2021年8月11日15時00分 追記】記事初出時、「有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER」の放送局、放送日の記述に誤りがありましたので、上記のように修正しました。
「私、星野源、新垣結衣さんと結婚する運びとなりました。(中略)僕はこれまでも『結衣ちゃん』と呼んでまして、彼女のほうは『源さん』だったり、まだたまに『星野さん』が混じる感じ」(ニッポン放送「星野源のオールナイトニッポン」2021年5月25日放送分より)
2020年初頭から始まった、新型コロナウイルス問題。原稿を書いている7月後半は、東京オリンピック・パラリンピックの開催前で、ワクチン接種がやっと本格化したような状況だ。
現時点では先が見えないコロナ禍だが、そんななかで今、ラジオの力が見直されているという。そこで最近、話題となった人気パーソナリティの番組をひもときながら、その背景について探っていきたい。
実際、2020〜2021年にかけ、ラジオの復権をうかがわせるデータは多い。ビデオリサーチの調べによると、首都圏民放5局の1分当たりの平均聴取人数は、2020年2月ごろから増加し、4月中旬には90万人となった。2021年3〜4月にも、約85万人が定着しているという。
同社はまた、12〜69歳の男女約5000人を対象とした調査で、コロナ禍での行動の変化について「ラジオを聴く時間が増えた」と答えた人が12.6%に上ったとも発表している。
さらに、2020年に設立10周年を迎えたラジコは、同年4月に利用者が月に910万人を記録した。利用時間で伸びているのは午前9時〜午後6時の時間帯というから、在宅作業をしている人が仕事をしながら聴いていたのだろう、ということが想像できる。
また、有料の「ラジコプレミアム」の会員数も、約90万人に達したという。たしかに最近、地方のラジオ番組をラジコで聴いていると、東京をはじめ、まったく別の地方のリスナーからのメッセージが紹介されるといったケースが増えている実感はある。
個別の番組もリスナーの増加を認識
データだけでなく、個別の番組も感触として、リスナーの増加を認識しているようだ。大阪市のFM COCOLOでは、大阪府に初の緊急事態宣言が出された2020年4月上旬、「新たに聴き始めた」「聴いていたがリクエストをするのは初めて」といったメールなどの反応が、急激に増えたという(読売新聞大阪本社版・2020年7月11日夕刊)。
TOKYO FMの「Skyrocket Company」ではコロナ禍を受け、番組終了後、不定期に「オンライン飲み会」を開催しているが、ときには参加者が1万人以上になることもあるという(同東京本社版・2021年5月24日夕刊)。
若い層でも、17歳の女優・奥森皐月が「週に30時間聴く」とラジオ好きを公言。また2020年のラジコによる調査では、15〜19歳の若者のうち約3割が「コロナ禍以降にラジコで番組を聴き始めた」という。個人的な感覚だが、職場などでも20〜30代から「日常的にラジオを聴いている」という話をよく聞くようになった。
そこで思い出されるのが、2020年度のギャラクシー賞DJパーソナリティ賞を受賞した落合健太郎だ。自身の番組「ROCK KIDS 802」(FM802)で、コロナ禍で行事のイベントが相次いだ若者たちに向け、「ラジオで卒業式」を企画し、門出を祝った。コロナに振り回されたこの年に、落合がDJパーソナリティ賞を受賞したのは、ある意味、非常に象徴的ともいえる出来事だった。
ではなぜ、コロナ禍でラジオは力を見せつけているのか?
その理由のヒントとなるものがあるかと思い、冒頭で3つの番組を引用させていただいた。
コロナ禍で、人との接触は明らかに減っている。リモート出社、オンライン授業が当たり前となり、介護や医療の現場は疲弊している。テレビを見ても、その状況を伝えることが中心で、自分のほうを向いているようには思えない。しかもテレビは制約が多いからか、極端な意見が聞かれることは少ない。
SNSで簡単に人と繋がれる時代ではあるが、こちらはむしろ感情がむき出しになりがちで、注意して受け取らなければ、自分がますます疲弊してしまうことになりかねない。
本人の(文字通り)声がはっきり伝わり、メディアとしての適度なモラルが保障され、何より自分の心に接触して、語りかけてくれている気がする……こうした欲求に合致するメディア、それがラジオなのだ。
そして、これまでラジオに触れなかった人たちが、そのことに気づき始めたということだ。
本音と節度と距離感から生まれる信頼関係
そしてこの欲求は、送り手の側も同じように求めているものだと思われる。SNSでの発信はダイレクトかもしれないが、どんな人が受け取っているのかわからない部分も多い。しかしラジオなら、リスナーは最低限「自分のファンである」というフィルターにかけられているので、自分の声で素直な感情を伝えても、わかってもらえるよさがある。そして、メディアに乗るものなので、いい意味で緊張感を持って発言できる。
本音と節度と距離感の3つの要素、そしてそれによって生まれる信頼関係が、送り手と受け手に共有されているのが、ラジオのよさではないだろうか。それを伝える手段が「生の声」であるという点も大きい。
そのうえで、あらためて冒頭の3番組の発言内容を見ると、いずれも「結婚」という喜びの本音が、節度を持って、リスナーとの絶妙な距離で語られているように感じるのだ。
この3番組以外にも、自身のラジオ番組で、自らのプライベートに関する発表をする芸能人は多い。また、ほかでは決して語らないようなエピソードが語られることもある。コロナ禍以降で、主なものを挙げてみると……。
・2020年7月、桑田佳祐が、放送当日に亡くなった三浦春馬さんについて触れ、「彼と会えてうれしかった。春馬君、安らかに休んでください。本当に残念です」と追悼した。
・2020年8月、小島瑠璃子が、人気マンガ『キングダム』の作者・原泰久との熱愛報道について「そのとおりです」と発言。事実上の交際宣言となった(※その後破局報道)。
・2020年8月、おぎやはぎ・小木博明が、初期の腎細胞がんが発見されたことを告白。「(がんが)5センチ以上ある」と相方・矢作兼を驚かせた。
・2020年10月、イモトアヤコが、急死した竹内結子さんを追悼。「本当にたくさんたくさん、愛をもらったなと感じております」と、涙声で感謝の思いを語った。
・2020年11月、1週間前の乗馬シーンの撮影中に骨折したMISIAが出演。「骨は折れても心は折れていません」と、明るい声で近況を報告した。
・2021年3月、V6・三宅健が、同年11月でのグループ解散を報告。ファンからのメッセージを新幹線内で読み、号泣したと明かした。
・2021年6月、BUMPOFCHICKENの直井由文が、番組の冒頭で10分以上にわたり、自身の不倫報道について謝罪。「失ってしまった信頼を取り戻せるかどうかわかりませんが、誠心誠意を込めて曲を届けていきたいと思います」と語った。
木梨憲武に至っては、ナインティナイン・岡村隆史の結婚のニュースを受け、早朝の生放送中に岡村本人へ直接、電話し、祝福の声を伝えた。「いや〜、出たね!」と、木梨は大喜び。急に電話された側はたまったものではないかもしれないが、リスナーにとっては、木梨の感情が最もよく伝わる方法だった。
ラジオが見直されている理由
このように、パーソナリティの本音を面白い、と感じてくれれば、そこに固定ファンが生まれる。パーソナリティとリスナーの距離感が信頼できるものと感じさせてくれるのが、今ラジオが見直されている理由の一つだと思うのだ。
もちろん信頼関係を続けるためには、裏切らない努力が必要だ。冒頭で引用した「ナインティナインのオールナイトニッポン」は2020年4月、岡村が単独でパーソナリティを務めていた際に出たある発言が「女性蔑視ではないか」と、社会的にも大きな問題となった。これなどは、節度を逸脱しリスナーを裏切る結果となった典型的なパターンだと思う。
ラジオの「文字起こし」だけでなく、音源そのものまで当たり前のようにネットで飛び交う世の中では、発言の責任はこれまでになく大きなものになっている。何気ないひと言が誰かを傷つけ、信頼を失うという点に関しては、送り手側がスタッフとともに常に意識していく必要があるだろう。
もちろん、トラブルは起きないにこしたことはない。しかし、ラジオはトラブルから回復するための「武器」にもなりうる、ということも、この番組は教えてくれた。
「公開説教」で信頼関係を取り戻した
発言の翌週から、番組で岡村は謝罪に徹し、そこに相方の矢部浩之も登場。放送内で女性蔑視問題だけでなく、今2人がいかにコンビとして問題のある状態かについて「公開説教」を行った。
岡村はその説教を真摯に受け入れ、その後コンビでのパーソナリティが再開するに至った。節度を見直し、リスナーとの失われかけた信頼関係を、同じ番組で取り戻すことに成功したのだ。これも、そこに「生の声」があったことが大きいだろう。
ラジオの力が見直されつつあるというニュースの一方で、ラジオを取り巻く環境が厳しくなっているという話も依然多い。国内のラジオ広告費は2020年までの12年間で3割減少した。2020年6月には、新潟県と愛知県の県域FMラジオ局が相次いで閉局したが、その大きな理由は、どちらも経営の悪化と報じられている。
しかしコロナ禍で、確実にラジオは新しい信頼を手に入れた。今後新しい生活様式とともに、ラジオはよりその存在意義を増していくのではないか。