40代、50代で結婚を望む男性のほとんどが「子どもが欲しい」と言うが、成婚までの道は険しい(写真:Kazpon/PIXTA)

昨年から、40代、50代男女の入会者が増えている。コロナ禍になり、人との接触や行動が制限される中で、孤独を感じるようになった独身の40代、50代が多くなったからではないか。しかし、40を超えてからの結婚は、とても難しいのが現状だ。

仲人として婚活現場に関わる筆者が、毎回婚活者に焦点を当てて、苦労や成功体験をリアルな声とともにお届けしていく連載。今回は、54歳男性が、10カ月の婚活の末に37歳の女性と結婚した奇跡を綴る。

53歳でスタートした、「子どもが欲しい」婚活

吉田(当時53歳、仮名)が、私の相談所を訪ねてきたのは、昨年7月初旬のことだった。面談にきて、彼は開口一番に言った。

「結婚をして、子どもを授かりたいんです」

(ああ、彼もか)と、私は心の中で小さなため息をついた。40代、50代の初婚、または再婚でも子どものいない男性のほとんどが、「子どもが欲しい」と言う。吉田は、初婚だった。

50代の結婚率をご存じだろうか。国立社会保障・人口問題研究所2019 年のデータによると、50歳から54歳までの結婚率は、男性が0.76%、女性が0.32%、55歳から59歳までの結婚率は、男性が0.33%、女性が0.11%と、極めて低いのだ。


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結婚率がこれだけ低いのに、そこに「子どもが欲しい」という希望が入ると、結婚する女性の年齢に制限がかり、さらに結婚しづらくなる。婚活においては、50歳を超えた男性が一回り以上下の女性と結婚するのは、至難の業だ。

また、50代で父親になるとすると、子どもが小学生のときに還暦を迎えることになる。人生100年時代と言われているが、どこまで現役で働けるのか。子どもが成人するまでには、莫大なお金がかかるのだ。その金額は、教育にどれだけお金をかけるかでも違ってくるのだが、2000万円とも3000万円とも言われている。

ただ話を聞くと、吉田は経済面においてはまったく心配がなかった。彼は投資の世界でかなりの成功を収めていて、高額な年収と一生暮らすのに困らない資産があった。

しかし、お金があれば結婚がスムーズにできるわけではない。54歳だとお見合いがなんとか組めたとしても、アラフォー女性になるだろう。彼女たちには彼女たちなりの理想がある。巨額のお金を持っている年の離れた男性よりも、年収は平均でいいからなるべく年の近い男性と結婚したがる傾向にあるのだ。

こんな話をして、「どうして、今になって急に結婚を考えるようになったのか」を聞いた。

すると吉田は、結婚が今になってしまったこれまでの経緯を話し出した。

34歳まで、休みもなく働きづめだった

吉田は、理工系の有名私立大学を卒業していた。

「私の大学時代は日本経済がバブル期で、卒業するときにはもう後期になっていたのだけれど、まだまだ景気がよかった。大学で学んだことを生かすなら技術系の仕事に就くのが順当だったのだけれど、メーカーだと30歳で年収が500万円程度。でも、金融関係に就職をすれば30歳で1000万円を超えると言われていた時代だったんです」

そこで就職先に、大手金融機関を選んだ。

「入社してみたら、とにかく忙しかった。休みの日も研修、研修。20代後半に営業管理職になったら、朝8時に家を出て、毎日深夜12時まで働いて最終電車で帰宅するような日々でした。それが、月曜日から土曜日まで続いて、休みは日曜日のみ。そうなると日曜日は、1日中寝ている。寝溜めしないと、体力が翌週もたないから。あの頃、ワークライフバランスなんて言葉もなかったんですよね」

そう言えば、当時の滋養強壮ドリンクのCMソングに、「24時間戦えますか、ビジネスマン〜」という歌詞があった。休まず動ける、働ける男性が素晴らしいというような風潮があった時代なのだ。

「恋愛とか結婚をしている時間もなかったし、それを考える余裕もなかった。そんな生活を34歳まで続けていてたら、自分がどんどん疲弊していくのを感じました。年収1000万円はいらない。500万円でいいから、働く時間を半分にしたいと思ったんですね」

そして、会社を退社することを決めた。退社後は、本来やりたかった技術系の仕事で独立をしたいと思った。

ただ、そんなことをしているうちに、株式投資の世界で頭角を現すようになっていた。投資雑誌の取材を受けたり、執筆を頼まれるようになったり、投資番組に呼ばれて出演したりするようになった。

「株式投資を始めたのは、高3のときなんですよ。父や叔父が株式投資をしていて、興味を持ったんです。バイトで貯めたお金と3つ上の兄にお金を借りて、元手25万円で始めました。そして、退職した年に、1000万円を元手にして本格的に始めたんです。それが38歳のときには、億を超えた。その後、リーマンショックがあって大暴落するんですが、そこからまた盛り返して、今は38歳当時よりも3倍の金額になっています。ただ暴落の目にあって株式投資だけだとリスクの大きいこともわかったので、不動産投資も同時に始めるようになりました」

結局、技術系に就職をすることはなくなり、投資家としての道を歩むようになった。

本気で結婚をしたいと思うようになった理由

投資家として成功をし、40歳を過ぎてからは、金銭的にも時間的にも余裕が生まれた。しかし、遊び仲間が皆独身で自由に遊び回れることが楽しく、結婚に興味がいかなかった。そうこうしているうちに、母親の介護が始まった。時間的な余裕があったので、母親を病院に連れていったりしながらも、休みの日は仲間と遊びに出かける日々。

「結婚は、いつかはしたいと思っていても、あっという間に50歳になっていました。そして52歳のときに母が亡くなったんです。最後の3年は介護施設に入っていたのですが、もう見舞うこともなくなった。父は今でも健在ですが、母が亡くなったときに、このまま独身でいることを急に寂しく感じるようになりました」

また一緒に遊び回っていた仲間たちが、40代後半から50歳にかけて、軒並み結婚をしていったのも、結婚を現実としてとらえる気持ちに拍車をかけた。

こうして、本気で婚活をしようという気持ちになったというのだ。

しかし、なぜ子どもを授かりたいのか。これからの人生を一緒に歩んでいく同世代のパートナーでは、ダメなのか。そんな私の問いかけに、吉田は、こう答えた。

「母が死んで、人の命は限りあるものだと実感したし、このまま吉田家を閉ざしたくない。自分が今結婚をしたら、子どもを授かれるチャンスがあるかもしれないと思ったんですよ」

こうして吉田の婚活がスタートした。

年収のいい吉田には、同世代の女性からの申し込みはたくさんきた。しかし、彼が希望しているのは、子どもを授かることのできる年齢の女性だ。

「その層からは、まず申し込みはこないと思ってください。ご自身でどんどん申し込みをかけていきましょう」

私の相談所は4つの結婚相談所協会に加盟しているのだが、そのすべてに彼を登録した。そして、各協会で1カ月に申し込みがかけられる上限ギリギリまで、申し込みをかけた。

これは今回の原稿を書くにあたり、吉田からもらったデータなのだが(彼は婚活スタート時から、記録をつけていた)、活動していた約10カ月の期間のうち、A協会287人、B協会421人、C協会164人、D協会36人と、合計で908人に申し込みをかけていた。

そのうちお見合いになったのが56人(相手からの申し込みは6人)で、仮交際に入った女性が、25人いた。

こうした中で、お見合いや仮交際を断られる理由は、だいたい決まっていた。

「お話をしていて、ジェネレーションギャップを感じました」

「何か会社の上司と話をしているみたいで、結婚相手としては見ることができませんでした」

ただ仲人から見ていると、見合いになったり、仮交際になったりした56人の女性たちの中には、かなり変わった人たちもいた。

「今日の女性は、お見合いの間中、こちらと一度も目を合わせませんでした」

「何か聞いたことのない新興宗教を信仰していました」

「今回交際に入った女性は、携帯を電話をかけることにしか使っていなくて、携帯メールやLINEを知りませんでした」

「お酒が好きだとお見合いのときから言ってたんですが、夜、電話をすると、飲みながら話をしているんです。あんなに毎晩お酒を飲んでいて、体を壊さないのかな」

婚活を始めて3カ月が経った頃だっただろうか。吉田が、私の前でポロリと言った。

「結婚を甘く考えていたな。婚活で結婚していくって、本当に大変なことなんですね」

56人目にお見合いした37歳の女性

それでも諦めずに出会い続け、56人目にお見合いしたのが、今回結婚を決めた雅子(37歳、仮名)だった。

雅子は、私の相談所の会員で4年近く在籍していたのだが、ここ2年間はほとんど活動をしていなかった。日々仕事が忙しいうえに、やりがいがあって面白い。最初の2年はそんな中でも果敢に活動していたのだが、後の2年は、やや婚活疲れを起こしていた。

そんな彼女が4月に入って、私に連絡を入れてきた。

婚活を後まわしにしていたけれど、ぼやぼやしていると38歳になってしまう。私、もう一度本気でやります!」

そして、驚くほどがツガツと申し込みをし始めた。そんな彼女に、吉田を勧めてみた。

「年は17歳上だけれど、人間的にはとても面白い人よ。会ってみない?」

すると、彼女は、「会ってみます!」と快諾した。早速5月1日にお見合いを組んだ。

お見合いを終えた吉田から連絡が入ってきた。

「今日の方は、ぜひ交際希望でお願いします。これまでお見合いした女性の中で一番よかった。趣味も合うし、好きになってしまいました。交際希望でお願いします。彼女からも交際希望が来るといいなぁ」

吉田の返事を聞いて、すぐに雅子に連絡をした。すると、彼女も弾んだ声で言った。

「今までお見合いした人の中で、一番話が合いました。これまで交際希望を出してきた人って、お見合いを終えたときに、どこか違和感があったんですよ。だけど、吉田さんには、違和感とか疑問が、1つもなかった。とにかく話が面白くて。交際希望でお願いします」

「いろんな経験を凝縮した期間だった」

仲人をしてきた経験から言うと、こうやってお見合いのときに、探していたピースとピースがカチッとはまるような感覚になった2人は、成婚まで進んでいくことが多い。私は、2人の言葉を聞いたときに、うまくいく予感がしていた。

交際に入った2人は、週2のペースで会い、5月20日には、真剣交際に入った。そして、6月12日には、プロポーズ。そこから成婚退会をして、7月7日、七夕の日に入籍をした。

吉田は、自分のしてきた婚活を振り返って、こんな感想をもらした。

「昨年、こちらに入会したのが7月8日なんですよ。婚活をしていた期間は、10カ月でしたけど、入籍したのが7月7日なので、ちょうど丸1年経ったことになる。何か彼女に出会ったことに運命みたいなものを感じます。婚活をしているときにはなかなか決まらなかったし、先も見えなかったから、“長いな〜“と思っていたけれど、今振り返ってみるとあっという間でしたね」

そして、しみじみと言った。

「正直婚活は大変だったけれど、いろんな業種の会社で働いている女性、女医さん、歯医者さん、水泳のインストラクター、ピアノの先生、学校の先生、CAさん……普段生活していたら出会えないような人たちと多く出会って、いろんな話をした。婚活をしていなければ、こんな女性たちとは会えなかったわけだし、人生の中で、いろんな経験を凝縮した期間だったと思います」

婚活が苦戦しているときは、出口の見えないブラックホールをさまよっているような気持ちになる。いったいこれがいつ終わるのか。本当に結婚できるのか、半信半疑になって苦しくなることがある。

しかし、成婚できたときには、これまでの道のりの景色が変わり、その経験があったからこそ今の幸せに出会えたと思えるようになる。吉田も然りだ。

「吉田さん、雅子さんおめでとう! 幸せにね!!」

そして、50歳から54歳までの男性結婚率、0.76%の仲間入りを果たした吉田の快挙に、仲人として、大きな拍手を贈りたい。