シャッターが閉じられたままの51本社事務所(写真:筆者撮影)

運送業として今年最大規模の倒産は、「借金地獄」を絵に描いたような内容だった。

通販商品を主体とした軽貨物運送を手がける「51」(神奈川県川崎市)は6月18日、東京地裁から破産手続き開始決定を受けた。負債は約14億5000万円で、このうち借入金は16の金融機関に対して10億円にのぼった。ドライバー出身の代表が起業して10年あまり。51の倒産までの顛末を追った。

設立7年で年商16億円突破

会社設立は2011年12月で、軽貨物ドライバー出身の現代表が起業した。設立後3年ほどは運送会社勤務とかけ持ち状態が続いたが、2015年2月期からは当社の業務に専念するようになった。独立後は当社が受注した業務をドライバーに任せて歩合を支払う形で事業を展開。大手運送会社や地元運送業者からの手配業務を担い、搬送自体は主に外注業者を利用していた。

主として書籍や食品などの通販商品を個人宅向けに配送するほか、2トン・4トン車を利用した法人向けや、緊急的な配送を請け負うスポットチャーターも手がけた。神奈川県をはじめ埼玉県、東京都など首都圏をカバーし、代表の業界経験と独自のネットワークを背景に、ピーク時の2018年度には年間売上高は16億円を突破。翌2019年度は年商20億円を目標に掲げるなど、拡大路線を敷いていた。

しかし、いざ蓋を開けてみれば、2020年2月期の年売上高は約11億300万円、翌2021年2月期も約9億800万円にとどまり、大幅な債務超過に転落。ついには資金繰りも限界となり、ゴールデンウィーク中の5月1日に事業停止を決断し、破産申請に至った。わずか2年前まで対外的には順風満帆だったはずの当社の舞台裏で、いったい何が起きていたのだろうか。

結論から言えば、「自転車操業」の資金繰りが続いていた。高利金融業者からの借り入れに手を染め、その返済と利息の支払いに追われた。破産時に裁判所へ提出した代表者の「陳述書」に、詳しい経緯が記載されている。

今から6年前の2015年夏のこと。当時の年商は2億円弱にとどまり、赤字続きで金融機関からの借入余力は乏しかった。このため、知人の紹介で知り合った金融業者Aから会社として300万円を借り入れた。利息はなんと「月1割」。翌月330万円の返済のためにお金が必要となり、他の金融業者から借り入れ返済に充てた。「そのとき既に、高利業者への返済が泥沼化していた」と代表が振り返るように、借入金額は年々膨らんでいった。Aからの借り入れだけでも、「記憶している範囲だけでも合計3億4800万円以上」にのぼったという。

それでも、業績が右肩上がりの時期は良かった。売り上げにともなう現金回収が相応にあったからだ。業績の伸びに比例して、地銀や信金からの借り入れも一気に増えた。最終的な借入総額は16の金融機関に対して10億円あまり。これら融資金の一部が金融業者への返済原資にもなった。地銀や信金に約2000万円の毎月の返済を続けながら「自転車」をこぎ続け、資金ショートをなんとか回避し続けた。

「ドライバー厚遇」が仇に

そもそもなぜ、当社の資金繰りは「自転車操業」が続いたのか。主な要因は大きく2つ。ひとつは「人件費の高さ」。そして2つ目は2019年後半以降の「主力部門の売上激減」だ。ドライバーへの支払い=人件費はあえて高くしていた。

当社が本格稼働した2015年当時から、代表は「人件費を高くして、他社よりも魅力的な会社と思ってもらい、人を集めようと考えていた」。このため慢性的に支出が多額になりがちだった。

そして2019年5月頃、当社が下請け受注していた運送会社で顧客への水増し請求が発覚。その件以降、その運送会社からの下請け受注が落ち込み、月商4000万円ほどあった主力部門の売り上げが激減した。これに代わる柱となる部門はなく、経営上大きな痛手となった。

2019年8月には東京国税局による査察調査が行われ、架空売り上げ計上による粉飾決算が発覚。決算内容の修正を余儀なくされ、大幅な債務超過に転落した。コロナ禍直前の2020年1月、金融機関に対する毎月の返済ができなくなり、リスケジュール要請に至った。銀行団との交渉を経て弁済計画案を作成し、2021年1月から毎月定額の弁済を再開したものの、最後は4月末の支払いができず事業継続を断念した。

この間、金融機関とのリスケ交渉が難航していた2020年秋には、取引先から支払われる予定の売上が一部地銀によって差押えられた。主力得意先からの入金が途絶えた際に頼ったのは「給料前払いサービス」を提供する金融業者だった。

従業員の給与やドライバーへの支払いにこのサービスを利用したが、すぐ翌月には利用金額に5%の手数料を上乗せして返済しなければならなかった。たとえば3000万円を利用した翌月には、3150万円を返済することになる。苦しい資金繰りの中で、この手数料も大きな負担となった。

倒産6年前に利用した高利金融をきっかけに、多額の利息や手数料の支払いに追われ、返済のためにまた別の借り入れや金融サービスを利用する「自転車操業」は断続的に行われた。大手運送会社の下請けとして売り上げを伸ばすなど、事業そのものへの評価は低くなかったからこそ、これだけ長きにわたって「自転車」をこぎ着け続けられたのだろう。

経営者に必要な「立ち止まる勇気」

厳しい言い方になるが、高利金融の利用は問題を先送りしているだけの「その場しのぎ」に過ぎない。いつか破綻することは火を見るより明らかで、多くの経営者が頭では理解していることだ。問題は自社の経営が傾いたとき。当社の場合もそうだが、そういうときに限って貸金業者の営業FAXが届くものだ。

「ここさえ乗り切れば」「すぐに返せるはず」と安易に飛びつくのではなく、いちど冷静になって“立ち止まる勇気”“周囲に相談する謙虚さ”も経営者には求められる。