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村上さん、存分に思い知らせていただきました!

東京五輪において特にクローズアップされる動きのひとつに、アスリートに対する誹謗中傷があります。コロナ禍における東京五輪開催に関して、中止を求める声、懸念する声、それがエスカレートする形でアスリートを「悪」とみなす風潮があったこともその遠因かもしれません。従来の大会でも負けたアスリートを責める動きは多々ありましたが、より苛烈に、もはやプレーへの論評を逸脱した人格否定・差別の声と言えるものが散見されています。

それに対してアスリート側からも声をあげる動きがあり、卓球の水谷隼さんはSNSのメッセージに看過できない声が寄せられていることを指摘していましたし、フェンシングの太田雄貴さんは選手に対する誹謗中傷を止めるように呼び掛けていました。そうしたアクションを起こした選手のひとりに体操の村上茉愛さんがいました。

村上さんは記者の質問に答える形で、長年に渡って寄せられてきた誹謗中傷の声に対しての問題意識を表明し、そうした誹謗中傷を寄せる人を見返したいという気持ちを吐露していました。ところが、一部報道において、村上さんが「五輪開催反対派を見返したい」と言ったかのように意図を捻じ曲げて伝えてしまい、さらなる誹謗中傷を招くといった事態が起きていました。そういうものから距離を置くためにSNSはやっていないという村上さんですが、大会期間中のまだ試合を残す段階において心ない誹謗中傷を受けたことは、非常に残念で理不尽な出来事でした。

↓JOCもアスリートを守るために動くとのことです!

デイリー:「いかんのぉ」
デイリー:「誹謗中傷はアカン」
デイリー:「NO誹謗中傷」
デイリー:「阪神への辛口は愛」
デイリー:「誹謗中傷やなくて愛」
デイリー:「愛を込めて伝えなアカン」



そのような普通ではない空気のなかで、村上さんの今大会最後の試合、女子種目別ゆか決勝の日がやってきました。かつて世界選手権で金メダルも獲得した得意の種目。今大会でも予選・団体・個人総合といい演技を並べ、14点台も記録していました。メダルラインは14点を少し超えたあたりでしょうか。これまでの演技よりさらに上げていけば届き得るけれど、決して簡単ではない……微妙なところでの競り合いが見込まれていました。

最初の演技者ロシアのリストゥノワは演技に乱れあり、メダル争いという意味では脱落。2番手で演技したアメリカのジェイド・キャリーはI難度・H難度の大技を組み込んだDスコア6.300点という一段高い構成で臨み、出来栄えも文句なしの内容。14.366点の高いスコアで、早くも金メダルは決まったという内容でした。その後も、イギリスのジェシカ・ガディロヴァ、ロシアのメルニコワ、イタリアのフェラーリと14点台の演技がつづき、ハイレベルな戦いがつづきます。

6番手で村上さんが演技に臨む時点で、メダルラインは14.166点。個人総合で14.000点を出している村上さんは、さらに「一段上」の戦いとなる種目別決勝で、まさに0.1点を削り出すように丁寧な演技を見せます。冒頭、足持ちの3回ターンから、得意のH難度シリバスへ。個人総合では大きく跳ねたシリバスの着地を小さな一歩で抑えました。伸身の後方2回宙返りは大きく弾みますが、序盤はいい滑り出し。そのあとの組み合わせのアクロバットも着地を小さな弾みで止め、減点を最小限に抑えていきます。

笑顔いっぱいの演技、ターンやジャンプも軽やかで確実に個人総合のときよりもいい実施です。ただ個人総合より0.166点上げるには小さな小さな取りこぼしも許されません。最後のアクロバット、後方の屈伸2回宙返りは、わずかな足の開きと小さな弾みだけで止めました。「着地ピタリ」と言ってもいい出来栄え。解説からも思わず「素晴らしい!」という声が上がります。スタンドの日本選手団はスタンディングオベーションをしています。本人も小さくガッツポーズで降りてきます。届いたかどうかは定かではありませんが、届いたかもしれない演技でした。あとは公正な採点を待つだけ。はたして。

↓渋い顔で見守る採点結果は、14.166点の3位タイ!


このスコアは3位に位置していたメルニコワと同じもの。しかも出来栄えのEスコアも、難度のDスコアもまったく同じです。体操のタイブレークのルールでは、同スコアだった場合、まずEスコアが上のほうが勝ちとなり、Eスコアも同じならDスコアで比べるという順番。今回はそこまでピッタリ同じの「真の同スコア」でした。ぬか喜びをしないようにオリンピックでのタイブレークのルールを確認しますが、EスコアもDスコアも同じだった場合「同じ順位とする」とあります。つまり、これは3位タイ、このままいけば「ふたりが銅メダル」ということです。

つづくブラジルのアンドラージの演技、Dスコアでは村上さんと同じアンドラージですが、実施の部分でエリア外へのハミ出しや、着地での大きな踏み出しが見られます。Dスコアが同じ構成なら、これだけ減点があれば村上さんにはもう届きません。そして最後の演技者はイギリスのジェニファー・ガディロヴァですが、こちらはDスコア自体が低く、完璧な実施をしても届かないだろう構成です。祈るように手を合わせながら見守った村上さんも、届かないということを悟ったか、サムアップして大きく「マル」のサインを作ります。

↓そして村上さんは見事に3位タイで銅メダルを獲得しました!


↓女子体操では1964年東京五輪団体銅以来57年ぶりのメダル!個人では史上初!

歴史的偉業きたーーーーーーー!!

村上茉愛のすごさを思い知ることができて最高の気分です!!



その素晴らしい演技のあと、村上さんの表彰式はドタバタしていました。「これどうするの?どうするの?」といった顔でキョロキョロと見回しながら、台に上がるタイミングを探っています。せっかく3位タイでメルニコワがいるのに「メダルを掛けてあげよう」はまったく思い浮かばず、とっとと自分の首にメダルを掛ける村上さん。その後、「お花は渡してあげよう」と思いついて、隣のメルニコワに手渡してあげた村上さん。いかにも楽しそうに、その「楽しそうな姿」こそが本来の村上さんだよなと思い出させるように、生涯最高の時間を満喫しています。

ポーズを決める際にはメダルの表面と裏面のどちらを見せるべきか何度も引っくり返していたり、表彰台の中央に4人が立った際にはよろけてアタフタしてみたり、セレモニーからの帰り道では投げキッスを決めてみたり、村上さんははしゃぎまくっていました。表彰式にEスコアがあればだいぶ減点は多そうなはしゃぎようでしたが、本当に楽しそうで、本当によかったなと思います。可能性としては想像しなかったわけではないですが、こんなに祈った通りになるなんて、この大会のなかでも最大の夢見心地です。



地上波で中継をするフジテレビのスタジオには親友で盟友の寺本明日香さんがいました。出場権獲りを懸けた2019年世界選手権では、腰痛で代表を外れた村上さんのぶんまで奮闘し、「任せて」の宣言通りに団体出場権を取ってきた寺本さん。東京五輪を前にして左足アキレス腱を断裂し、「体操人生終わるから、引退する。ごめん、任せたよ」と一度は引退を決意しながら、それでも1年延期のなかで再起を期してきた寺本さん。代表選出と代表落ちという形で立場はわかれましたが、ふたりは一緒にこの東京五輪を目指し、今も一緒に戦っている間柄です。

↓寺本さんは団体メンバーにお守りを渡していました!


この日も試合に向かう際に、村上さんから寺本さんに電話をしていたと言います。スタジオにいる寺本さんは「頑張ってと声をかけた」と明かし、表彰式後のインタビューに臨む村上さんは「普通の会話をして頑張ってくるねと言った」「茉愛がいい演技をしたら私も嬉しいと言ってくれた」と明かし、離れ離れの場所で互いが互いのことを話すことで、一本の電話の内容が組み上がっていきました。

寺本さんは自分への言葉が出てきたことがキッカケだったでしょうか、スタジオで大粒の涙を流していました。「やばい」「見えない」「めっちゃ嬉しい」「言葉が出ない」と感極まっていました。フェイスシールドが邪魔で涙を拭くこともままならず、流れるままに泣いていました。生涯最高の喜びの瞬間に思い浮かべる相手がいて、その人も涙を流しながら喜んでいてくれる。こんなに素晴らしい光景があるだろうかと思います。

大会前から「このふたりには幸せな結末が訪れてほしい」と思って見ていた人たちが、こんなに素晴らしい時間を過ごしている。そして、それをありがたくもテレビを通じて見させてもらっている。感謝しかありません。「開催してくださってありがとうございます」と選手たちは言いますが、こちらにすれば「目指してくれてありがとうございます」しかありません。目指してくれた人がいて、頑張ってくれた人がいてはじめて、こんなに素晴らしいものが生まれるのです。元気と勇気、そしてこの日は涙をもらいました。もらい泣きでした。本当に、よかった!



1年延期がなかったらどうだっただろうと、ふと思います。あのまま寺本さんが「体操人生終わるから、引退する。ごめん、任せたよ」の悲痛なメッセージを送ったままの世界だったら、どうだっただろうと思います。その世界でもふたりの友情は変わらなかったでしょうが、こんなに幸せな時間にまでなっただろうかと思います。

この1年があったから、寺本さんは失意の引退のなかで東京五輪を見守るのではなく、懸命のリハビリと最後の挑戦をやり遂げてから見守ることができました。及ばずながらもやれる限りを尽くして、見守ることができました。そして、村上さんも「寺本さんの無念を背負う」のではなく、傍らで支えてくれていることを感じながら、自分の演技ができたように思います。

1年延期は多くのアスリートにとって辛い時間で、その間にたくさんの誹謗中傷を生むような風潮も広がったかもしれませんが、本当に頑張っている人にとっては「1年ぶんさらに頑張った」ことでより輝く時間にできる可能性もあるもの。本当にそんなことがあるだろうかと思うとき、「ここにある」と言える出来事がまたひとつ増えました。素晴らしいものを見ました。最高に嬉しい銅メダルでした!


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寺本さんが泣いている中継の動画、ずっと大切にして何度も見返します!