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東京オリンピックに参加するアスリートへの誹謗中傷が相次いで明らかとなるなか、卓球混合ダブルスで金メダルを獲得した水谷隼選手が7月31日、自身のSNSアカウントに誹謗中傷のDM(ダイレクトメッセージ)が送られてきたことを明らかにした。

水谷選手は、DMに書かれている文章をスクロールして紹介する動画をツイッターで公開。そこでは、「死ね!くたばれ!消えろ!」「ありえねぇーだろう?お前嫌われてんだよ」「迷惑をかけるゴミクズめ」といった言葉のほか、「カス」「死ね」を数十回連呼するメッセージが表示されていた。

このようなDMに対して、水谷選手は「言いたいことだけ言ってアカウントを消したみたいですが、あまりにも悪質な誹謗中傷は全てスクショしていますし、関係各所に連絡を行い然るべき措置を取ります」と投稿。必要な対応をおこなうことを表明している。

同じく卓球の伊藤美誠選手、体操の橋本大輝選手といった金メダリストにも誹謗中傷が寄せられていることが報じられるなど、看過できない状況が続いている。アスリート側はこのような誹謗中傷に対してはどのような対応が可能なのだろうか。清水陽平弁護士に聞いた。

●やっかいなDMでの誹謗中傷「対応が相当困難」

--今回のようなDMが送られてきた場合、どのような対応が考えられますか。

SNSのDMについては、実は対応が相当困難です。

まず、TwitterならDMを解放しないということで対応できます。しかし、それ以外のSNSでは、DM自体は送ることができる仕様になっています。

送られてきたDMについて責任追及をしたいと考えた場合、まずは匿名の送信者がどこの誰かを特定することが必要になります。そのためには開示請求をしていく必要があります。

開示請求に関しては、「プロバイダ責任制限法」という法律が定めていますが、この法律が予定しているのは、インターネット上で誰でも閲覧できる状況でされた中傷等の開示であり、メール、メッセンジャー、DM等、特定の人にメッセージを送るだけのものについてはその要件を満たしません。

したがって、この法律に基づいて特定していくことはできません。

--他の手段は考えられるのでしょうか。

民事訴訟法の定めに基づいて調査嘱託や証拠開示の手続きによって開示させることも考え得るところですが、これも残念ながら否定されています。

もっとも、アメリカで、「ディスカバリ」という開示手続を行って、その使用者情報を開示してもらう手続きは取り得ます。

SNSにメールアドレスや電話番号の登録がされている場合には、その情報開示を受けることで、使用者を特定できる余地があります。ただし、相応の費用と時間がかからざるを得ない手続きです。

--もし特定できた場合の法的責任はどうでしょうか。

相手を特定できた場合、当該DMによって名誉感情が侵害されたということで責任追及(損害賠償請求)をする余地があります。ただし、名誉感情侵害については賠償額はそれほど大きくならないことが多いです。

なお、DMは一般に公開されるものではない性質のものである以上、それによっていかに不快に思ったとしても、名誉毀損は民事上も刑事上も成立しないことになります。

--誹謗中傷を受けるアスリートにとっては悩ましい現状ですね。

残念ながらできることはあまりありません。法的な対応があまりできないこともあり、主催者側や競技団体などが各選手を支える仕組み作りが重要といえます。

【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省が主催する「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の構成員となっている。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第3版(弘文堂)」などがある。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp