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人類最速の男が決定!

東京五輪も後半戦。陸上競技では大会最大の華・男子100メートルが行なわれました。勝ったのはイタリアのラモント・マルセル・ジェイコブス。大会前の自己ベストは9秒95ということで大きな注目を集めるなかでの挑戦ではありませんでしたが、予選・準決勝・決勝とタイムをあげての金メダル獲得でした。本命不在の大会とは言われつつも、まさに「大穴」でした!



ジェイコブスさんの予選、そこにはちょっとした巡り合わせがありました。予選3組に登場したジェイコブスさんは、9秒94と自己ベストを更新する「全体トップタイム」の走りで予選を通過したのですが、同じ組には日本の山縣亮太さんが居合わせていました。山縣さんは10秒15というまずまずのタイムで走るも、準決勝進出となる各組3位には届かず、4位となっていました。

4位以下の選手もタイムで救われる仕組みはあるのですが、山縣さんのタイムは惜しくも及ばず予選で敗退となります。ただ、山縣さんのタイム以下での予選勝ち上がりも3名おり、組み合わせ運があればなという感じでの敗退でした。取り立てて強い組とは思って見ていませんでしたが、よもや金メダリストとぶつかっていたとは。組み合わせ運すらなかったとは。まぁ、これが「事実上の決勝戦」だった……そう胸を張ることにしましょう。

準決勝に勝ち上がったジェイコブスさんは、そこで素晴らしい走りを見せます。9秒84と欧州記録を更新する準決勝全体3番手のタイムで決勝進出を決めたのです。しかし、たまたま同組にはアジア記録を更新して全体トップでの勝ち上がりとなった蘇炳添と、朝原宣治さんも金メダル予想にあげたアメリカのベイカーがおり、ジェイコブスさんは準決勝3組3番手での勝ち上がりでした。

イタリアというどちらかと言えば長距離のイメージがある国籍(※ジェイコブスさん自身はアメリカ出身/アメリカ人の父とイタリア人の母との間に生まれる)、国際的には際立った実績がないこと、丸っこい体型などから、何となくスルーして見てしまっていました。競馬で言えば「前々走1着」「前走3着」「好タイム」という穴人気しそうな流れであったのに、「最後はアメリカでしょ?」と思ってしまっていました。今回は当てるのが極めて難しい大会だったなと思います。

↓直前まで見てから予想した朝原さんですら「最後はアメリカでしょ?」なのだから、予想外で当然!

「あー、1着抜けた…」
「2着、3着は買ってたが…」
「3連単ヌケヌケですね…」
「5着・3着・2着…」
「ワイドで買っときゃよかった…」



迎えた決勝。プロジェクションマッピングの演出がこの種目が特別な存在であることを印象づけます。ジェイコブスさんは胸を叩いて堂々とスタート位置に立ちます。内側から2人目、3レーンに入ったジェイコブスさんは集中しています。最初の号砲のタイミングで、笑っちゃうくらい大外れのフライングで内側4レーンのヒューズが飛び出していったのですが、他選手は号砲に合わせてスタートを切ったのに対して、ジェイコブスさんは「フライングだな」と見切って号砲が鳴ってもスタートを切らなかったのです。

スタートに使う爆発的なエネルギー、「起動」だけでも消耗があるとすれば、ジェイコブスさんはただひとり、そのエネルギーの消耗を回避していました。いくら隣で見ていたとは言え、号砲が鳴ればスタートせずにはいられないのがスプリンターの習性だろうと思うのですが、ものすごい冷静さだなと唸ります。

そして2回目のスタート、今度はキレイに決まって飛び出していく選手たち。ジェイコブスさんのリアクションタイムは0.161秒と下から2番目ですが、それでも準決勝の0.179秒よりは改善されています。中盤から伸びを見せるジェイコブスさんは、アメリカのカーリー、カナダのドグラスらを抑えてそのまま1着入線!

準決勝よりタイムをあげての9秒80はそのまま欧州新記録となる好タイム。胸を叩いて駆け抜けると、ゴール奥ではつい直前に「ジャンプオフをせず2選手同時金メダル」という形で走り高跳びを制していたイタリアのタンベリがテンション高めで待っています。走り高跳びを見ていなかった人にとっては熱量高めのファン(※このあとつまみ出される)にしか見えないタンベリさんとの抱擁は、とても微笑ましい場面でした。やがてジェイコブスさんはスタンドから投げ込まれた国旗をまとうと、ともに競い合ったライバルたちと歓喜の記念撮影。最後の7人からでも当てるのが難しい金メダリストの誕生に世界が驚き、そして祝福した瞬間でした!

↓一晩で陸上の金メダリストがふたり!イタリアお祭り騒ぎだな!


↓まさか必要になるとは思っていなかったか、ジェイコブスさんのイタリア国旗が微妙に小さい!


↓タンベリさんはコアラ抱っこされる側でジェイコブスさんを祝福!


↓タンベリさんはコアラ抱っこしてもらいすぎです!

走り高跳びで金メダルを争ったバーシムが「金銀の順位を決めるジャンプオフは止めよう」と提案すると歓喜のお姫様抱っこ!

ふたりとも悲願の金メダル獲得なので、まぁこれぐらいテンション上がっちゃいますかね!



今回も素晴らしい戦いと素晴らしいドラマとで記憶に残る10秒となりました。日本勢がこの一角に加わることも決して不可能ではなかったと思うだけに、少しの無念さも覚えますが、同じアジアから決勝の舞台に立った選手がいたことには希望も覚えます。9秒台をしっかりと狙って出せるチカラがあれば、アジア人でも決して夢物語ではないのだと、勇気がわく東京五輪でした。

陸上100メートルは五輪のなかでも特別な種目です。華がある、ということもあるのですが、とても多くの国から視線が注がれるのがこの100メートルという種目である点でひときわ特別です。陸上競技には「その国・地域の誰ひとりとして出場権を取れなかった場合、男女ひとりずつどれかの種目に参加してもよい」という特別枠があります。前回リオで猫ひろしさんがカンボジアのマラソン代表となったのもその枠を利用してのことでした。

これはさまざまな国のスポーツ発展を奨励するための施策ですが、この枠を利用する多くの国・地域は男女100メートルの種目を選択します。セントクリストファー・ネービス、ツバルから参加の各2選手は男女の100メートルにそれぞれエントリーしていますし、モーリタニアから参加の2選手もこの特別枠で男子5000メートルと女子100メートルにエントリーしています。たくさんの国が陸上を通じて、とりわけ100メートルを通じて五輪とつながっているのです。(※競泳でも同様の特別枠があり、50メートル自由形・100メートル自由形に多くの選手が集う)

世界の隅々から目指せる「走るだけ」の競技だからこそ、敷居は限りなく低く、頂点は限りなく高くなる。その頂点たる100メートルは、まさに80億の夢が輝く舞台だろうと思います。ウサイン・ボルトがいなくても100メートルは特別な舞台であり、むしろ100メートルで輝いたからこそカール・ルイスやウサイン・ボルトはスーパースターになっていったのだろうと。東京五輪でもその舞台がちゃんと行なわれ、新しい歴史が作られたことを嬉しく思います。たくさんの小さな国や地域にも光を届けられてよかったなと思います。

ぜひパリでは、日本勢からも夢の舞台に加わってもらいたいもの。

そして、「まさか日本から!?」と驚かせて欲しいもの。

そのためには今のレベルの高い日本勢同士の争いを「8割の仕上げ」で勝てるくらい、さらに抜きんでたチカラが必要なのかなと思います。誰が勝つのか予想もつかない日本選手権を勝つために、そこで勝負をかけないといけない状態では、もう一回五輪にあわせてピークを作るのが難しかろうと思いますので。強い日本勢のなかの、さらに強い代表選手。そういう存在の登場に期待です!





日本勢も国立競技場に記念の日の丸を揚げられる大会になりますように!