南アフリカ、メキシコ、フランスときてニュージーランド戦だ。絶対に負けられない相手になる。

「相手がニュージーランドに決まって、普通にやれば、勝てるという雰囲気を危惧していた。そこだけ気を緩めないように気をつけて......。ボクたち選手はタフな試合になると想像していましたし、気持ちの準備はしていたので......。後ろ(守備陣)がよく耐えたなと思います」と、試合後、テレビのインタビューに答えたのは、キャプテンの吉田麻也だ。

 しかし、実際のピッチに描かれていたのは、吉田の分析とは異なっているように見えた。 


ニュージーランドにPK戦で勝利し準決勝進出を決めたU−24日本代表

 筆者には、キックオフから1分、2分が経過した瞬間、閃くことがある。何試合かに一度なのだが、パッとその後の試合展開がイメージできる瞬間がある。思いのほか接戦になる。番狂わせの可能性あり。予想と異なる展開になりそうだ......。そう感じた時に特にピンとくるのだが、このニュージーランド戦がまさにそれだった。閃いたスコアは0−0、延長、PK戦。運が悪ければ敗れるぞ、と。

 キックオフしてから、ボールがピッチの各所にくまなく回るまで、かかる時間がだいたい1、2分だ。選手全員がボールに触れないまでも、反応はする。開始直後のピッチは、さながら競馬で言うところのパドック、あるいは返し馬に相当する。そこで選手の動きに目を凝らし、試合の流れを予想するわけだが、この日の日本選手は、ボールに対する反応が悪かった。動きも重たそうだった。気合いのノリ、覇気も感じられなかった。フランス戦と比較すれば、それは一目瞭然だった。

 過去3戦、出ずっぱりの状態にある吉田も例外ではなかった。。

 もっとも、筆者が予想したのは日本がニュージーランドを押し込む展開だった。引いて守る相手に、圧倒的に押し込みながらも決定打を奪えず、PK戦に持ち込まれてしまうという姿である。まさか内容的にも接近した好勝負を挑まれようとは。読みが甘かったと言われても仕方がない。

 PK戦。それが採用に至った経緯に従えば、抽選と同義語だ。もっと言えばクジ。その勝利はラッキー以外の何ものでもない。結果オーライで済まされる問題ではない。

 日本に好勝負を挑んだチームに、こんなことを言うのは失礼ながら、ニュージーランドは格下だ。日本はそんな相手になぜ大苦戦したのか。

 選手がどうしたら高いモチベーションを維持したままこの試合に臨めるか。これが勝負を分けるポイントだと考え、スタメンに目を凝らした。

 モチベーションは、これまで不動のスタメンとしてプレーしてきた選手(吉田、遠藤航、久保建英、堂安律、田中碧など)ほど低いように見えた。冒頭で記した「普通にやれば勝てる」という吉田のコメントは、世間がそう認識していると言わんばかりの口調だったが、それを皮膚感覚で熟知しているのは他ならぬ当事者たちだろう。ニュージーランドと対戦しても、モチベーションを高く維持できそうな選手は、吉田たちではなく、もっと出場時間の少ない選手になる。

 相手が格下でも何でもいいから、とにかくスタメンを飾り、活躍したいと、出場したくてうずうずしている選手たちだ。

 そうした選手をスタメンにどれほど組み込めるか。吉田、遠藤、久保、堂安、田中のうち何人をスタメンから外せるか。

 いわゆるサブがスタメンに多く並ぶことが、戦力ダウンに繋がると捉えれば、この選択には勇気が必要になる。だが、前戦のフランス戦では、交代カードをフルに使い、吉田以外の4人(遠藤、久保、堂安、田中)をベンチに下げながらも、よい終わり方ができた。筆者はそこにニュージーランド戦へ向けた希望の光を見た気がした。

 フランス戦で、終了の笛を聞いた選手をニュージーランド戦の頭からそのまま使い、1人でも多くの主力を休ませる。あるいは試合途中から投入する。準々決勝でそれができれば、準決勝のスペイン戦に向け視界良好となる。チームにエネルギーが漲(みなぎ)った状態で臨ませることができる。

 ニュージーランド戦にモチベーションの高い選手を送り込むことは、森保一監督が狙う金メダル獲得に向けて、一挙両得の作戦となる可能性を秘めていたのだ。

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 苦戦しそうなムードを、筆者はキックオフの1、2分後に直感したと先述したが、それはスタメンを見た瞬間から抱いた不安だった。ニュージーランドがよかったというより、日本がダメだったと言うべきだろう。ニュージーランドの長所を、日本が引き出してしまったとの見立てもできる。

 吉田に加え、前戦フランス戦からスタメンに復帰した冨安健洋も本来の力が発揮できていないように見えた。フル代表でもスタメン候補の2人。日本ではビルドアップに長けたセンターバック(CB)として通っているが、この日は単なる"守り屋"に終わっていた。ラインコントロールもいまひとつだった。試合中盤のあるときから、ピッチの中盤には広大なスペースが広がることになった。試合のレベルが低いことが鮮明になった。

 そのしわ寄せが一番に及んだ先は、守備的MFの2人(遠藤、田中)。1トップ下の久保がMF的ではない動きをするので、この2人にかかる負担はもともと大きかった。守備的MFでありながら、同時にゲームメーカー役もこなす必要があった。

 それが今日的な守備的MF像だと言われればそれまでだが、この連戦だ。現実的には負担増となって現れている。ゲームがコントロールできていたかと言えばノーである。CB2人の援護もないため、なにより展開力という点に大きな問題を抱えていた。

 ニュージーランドは第1戦の南アフリカ同様、5バックで後方を固める守備的サッカーを展開してきた。後半の途中から中盤ダイヤモンド型の4バックに切りかえてきたが、こちらも4バックにあっては守備的な中盤ダイヤモンド型4−4−2だった。にもかかわらず、ボール支配率は53%対47%にとどまった。安定した支配ができなかったことも苦戦を招いた原因だ。

 トップにボールが収まりにくいサッカーであること。さらに、サイドを有効に活用できていないことも輪をかける。守備的な相手をどう攻略するかについては、南アフリカ戦後の原稿にも記したとおり、外攻めになる。サイドから丹念に、薄紙を剥ぐように崩していくことがセオリーとされる。

 だが、南アフリカ戦に続いて、この日もそれが徹底できなかった。サイド攻撃を意図的にすることはできなかった。攻撃は、久保、堂安の感覚を最優先にする、出たとこ勝負の即興的なプレーに委ねられていた。決まれば鮮やかだが、簡単には決まらない難易度の高いプレーである。

 延長戦に入って左ウイングに三笘薫という交代の切り札を投入しても、彼のドリブル力を意図的に活かそうという狙いは、共有されていなかった。コンビネーションプレーは発揮されず終い。単独プレーに偏ることになった。

 選手交代も5人止まりだった。枠(延長は6人)をフルに使わないままPK戦に突入した。交代の遅さも気になった。90分間で代えた選手はわずか2人。延長戦を日本側から希望するかのような采配だった。

 準決勝のスペイン戦は8月3日。コートジボワールと対戦したそのスペインも、延長戦に及んでいた。日本がニュージーランドに90分で決着をつけることができれば、格上スペインに対してコンディション的に優位に戦うことができた。だが、森保監督は、延長戦突入を望むかのような采配をした。

 森保采配に決定的に欠けているのは、出場時間を分け合う概念だ。目標を金メダルに掲げながら、6試合目(決勝戦)から逆算して考えることができていない。

 主力の吉田、遠藤、田中、久保、堂安は、フィジカル的に限界に近づいている。そうした状態で大一番を迎えることになった。格上に対しあと2勝し、金メダル獲得を目論もうとすれば、問われるのはチームとしての余力だ。

 それは監督の力とも多大な関係がある。ニュージーランド戦でエネルギーの使い方を間違えながら、辛くも勝利した森保監督は、次のスペイン戦に、どんなメンバーで臨むつもりなのか。番狂わせが期待できそうなフィジカルとモチベーションの高い11人を、スタメンに並べることができるのか。雲行きは怪しくなっている。