EURO2020のドイツ戦でポルトガルはこのゴセンス(20番)をまったく止めることができなかった。(C)Getty Images

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 試合中に守備が破綻しかけた時、どう手を入れるか――。その判断は簡単ではない。

 単に守備の人数を増やせば、チーム全体の腰が引ける。それは90分で見た場合、致命傷になりかねない。だからといって、“肉を切らせて骨を断つ”攻撃一辺倒で相手をやり込めようとすれば、守備崩壊につながる。また、何もせずに静観し、「自浄作用」を促すのは一つの手だが、「座して死を待つのみ」にもなるだろう。

<人の役割を変える、人の配置を変える、もしくは、新しく人を入れる>

 守備の破綻があった場合、それに対応する努力をするべきだ。

<いい守備が、いい攻撃を作る>

 それがサッカーの原則だからだ。
 
 例えばEURO2020のグループリーグ、ポルトガルはドイツに序盤から押し込まれるも、敵CKを拾ってのカウンターからクリスチアーノ・ロナウドが決めて先制している。守ってカウンターというコンセプトが的中。戦略通りだったはずだ。

 ドイツは、敵陣での攻撃時間を粘り強く増やした。左右にボールを運び、しつこく相手を動かす。主に右でヨシュア・キミッヒらを中心にゲームを作って、ポルトガルの4バックを引き付ける。そこに左サイドからウィングバックのロビン・ゴセンスが遊撃兵のように入り込んだ。

 ポルトガルはカウンターが成功し、驕っていたのか。鳴り響く危険警報の中で、何の手も打てていない。右サイドバックのネウソン・セメドが中に絞ると、ゴセンスがフリーになって侵入し、危うい状況を作られていた。

 そして34分、ドイツは右サイドに流れたキミッヒの大きなサイドチェンジから、左サイドのゴセンスがフリーで合わせて折り返し、これがポルトガルDFのオウンゴールを誘う。38分にも、一度右へボールを運んでスライドさせてから、戻したボールをセンターバックが速いボールをゴセンスに入れ、そこから再び右に回ったボールが、やはりオウンゴールにつながった。

 二度のオウンゴールは、ポルトガルの守備の破綻を示していた。右アタッカーのベルナルド・シウバがゴセンスをケアするか、アンカーが下がって5バックにし、ネウソン・セメドがゴセンスにつくか、あるいはセメドがゴセンスの進路を防ぎつつ、インサイドハーフのブルーノ・フェルナンデスがカバーに入るか。守備修正の選択肢を採るべきだった。
 
 ポルトガルは後半から右サイドにレナト・サンチェスを投入し、てこ入れした。ボールポゼッションを高める“攻撃こそ防御なり”の発想だったか。しかし相手にペースを握られたまま、守備の破綻は大きくなるばかり。50分、右から左への展開でゴセンスの折り返しをカイ・ハベルツに決められ、さらに1-3とリードを許す。

 こうなると、ポルトガルは攻撃に打って出るしかない。ボランチに代えてFWのラファ・シウバを投入し、右のレナト・サンチェスをボランチに動かしたが、守備崩壊は誰の目にも歴然となる。15分にも右クロスをフリーでゴセンスにヘディングを叩き込まれ、ラファ・シウバはゴセンスの側で見守るだけだった。

 その後、ポルトガルは敵陣でFKを奪うと、1点を返した。それは攻撃姿勢が実ったが…。

<いい守備が、いい攻撃を作る>

 やはり、サッカーの真理に従うべきだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。