イスラエル戦に登板したウォン・デイン【写真:AP】

写真拡大 (全2枚)

「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#39

「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信する。多くのプロ野球選手も加入するパフォーマンスオンラインサロン「NEOREBASE」主宰、ピッチングストラテジストの内田聖人氏は投手の“球”を独自の「ミカタ」で解説する。

 韓国は30日の初戦でイスラエルに6-5で延長10回逆転サヨナラ勝ち。日本の稲葉篤紀監督が視察する中、注目されたのは21歳のエース、ウォン・デイン投手だ。スライダーをうまく打たれた一発もあり4回途中2失点だったが、初回先頭から4者連続を含む5奪三振。すべて空振り、うち4つを奪った絶対的な武器チェンジアップを分析した。(取材・構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

 ◇ ◇ ◇

 ウォン投手のチェンジアップは本当に素晴らしい球でした。

 そもそもチェンジアップという球種について説明すると、右投手のオーバーハンドの場合、大きく分けて「変化系」「奥行き系」の2つのタイプがあると、私は考えています。

 1つ目の変化系は、文字通り球に変化が加わるタイプです。

 この中には2種類のパターンがあり、一つは指先でサイドスピンをかけ、シュートしながら落ちるシンカーのような軌道。私の大学の1年先輩である有原航平投手(レンジャーズ)がよく投げます。もう一つは挟むような握りでジャイロスピンかサイドスピンをかけ、落差のあるフォークのような軌道。これは前田健太投手(ツインズ)が投げています。

 2つ目の奥行き系はまっすぐと同じ回転で球速が遅く、打者の(前後の奥行きで)タイミングをずらすタイプ。金子千尋投手(日本ハム)が素晴らしい代表格です。

 ウォン投手はサイドスピンをかけながら球速が遅くなる、変化系と奥行き系の両方を兼ね備えている。スピンのパターンもツーシーム系の回転で横に滑り、独特の変化をする。2つのタイプが合わさって、なかなか打ちづらいタイプです。

 リリースをもう少し具体的に見ると、中指の外側(薬指側)でうまくボールを切っていることで、本来のストレートの回転よりサイドスピンが加わり、ツーシーム系の回転にしている。かなり厄介な球だと思います。

 韓国リーグの映像も確認しましたが、カウントを取りに行く場面で真ん中付近に投げたり、三振を取りに行く場面でストライクからボールになる軌道で投げたり。打者の右左も関係ない。

 フォームとしてもここまで腕を振り、チェンジアップ主体に投げる投手は、日本ではなかなか見かけません。シーム(縫い目)との相性が良く、空気抵抗で打者にとっては嫌な変化を生み出していると思います。

握りもリリースも投手でさまざま、中高生がまず意識すべきは「腕を振る」

 チェンジアップという球種は握りもリリースも投手によってさまざま。だからこそ、中高生には投げる上で意識してほしいことが一つあります。 

 それは、どんな握りやどんなリリースであろうが、「腕を振る」が一番大切ということ。当たり前ですが、それができない人が多い。チェンジアップは打者に「ストレートだ」と瞬間的に思わせてこそ、生きる球。逆にできなければ球種が分かり、狙われてしまいます。

 意識として「(ストレートとの球速差で)絶対に遅く投げないといけない」と思いすぎるのも注意が必要。小学生レベルでは、この意識が強いと球を握る力が落ち、単なるスローボールになりがちです。

 配球に関しても、ストレートとの組み合わせが基本。どんなに良い投手でもチェンジアップばかり投げたら合わせられます。今は情報が溢れ、一流投手の握りやリリースも知ることができますが、まずは腕を振るという大前提を忘れないでください。

 ウォン投手は140キロ後半のストレートも良く、制球も良さそう。今後、登板機会も十分にあります。これだけチェンジアップを軸にする投手はあまりいないので、初見だとどうなるか。日本のようなハイレベルなチームでは試合の中で合わせるかもしれないし、対応が楽しみです。

 この記事を読んだ子供たちには、その点も踏まえ、ウォン投手のチェンジアップの投げ方を注目してもらえればと思います。

■内田聖人 / Kiyohito Uchida

 1994年生まれ。早実高(東京)2年夏に甲子園出場。早大1年春に大学日本一を経験し、在学中は最速150キロを記録した。社会人野球のJX-ENOEOSは2年で勇退。1年間の社業を経て、翌19年に米国でトライアウトを受験し、独立リーグのニュージャージー・ジャッカルズと契約。チーム事情もあり、1か月で退団となったが、渡米中はダルビッシュ有投手とも交流。同年限りで指導者に転身。昨年、立ち上げたオンラインサロン「NEOREBASE」は総勢400人超が加入、千賀滉大投手らプロ野球選手も多い。個別指導のほか、高校・大学と複数契約。自身も今年自己最速を更新する152キロを記録。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)