売れまくる「ハリアー」発売から1年後の通信簿
発売から1年が経った4代目ハリアー(写真:トヨタ自動車)
トヨタのSUVである「ハリアー」。1997年に初代がデビューし、2003年に2代目、2013年に3代目、そして、2020年6月に最新モデルとなる4代目が発売されている。
その初代がデビューした1990年代後半を知る人間の中には、ハリアーの名前に憧れを持つ人が多いはずだ。なぜならハリアーは、“新しく”、そして“高級”であったからだ。
そもそも、初代ハリアーが誕生した当時、SUVという呼び名自体が新しいものであった。
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それ以前は「クロカン4駆」「クロスカントリー4WD」と、オフロードを走る、文字通りに泥臭い印象の呼び名が普通であったのだ。
しかし、1990年代に入って、乗用車をベースとするトヨタ「RAV4」(1994年発売)やホンダ「CR-V」(同1995年)が登場することで、ようやく街乗りSUVの名称が定着するようになる。
そして、1997年に登場したのが初代ハリアーだ。そのキャッチコピーは「新ジャンルの高級車ハリアーを発売」であった。“新ジャンル”とはSUVを指す。
しかも、“高級車”としてハリアーは売り出されたのだ。その翌年となる1998年に、ハリアーはレクサス「RX」としてアメリカで販売され、今では当たり前になっているプレミアムSUVの先駆けとして、大ヒットする。
新ジャンルとして発売された初代ハリアー(写真:トヨタ自動車)
そうした当時の売り出し方や、アメリカでの売れ行き、そして現在のプレミアムSUVのルーツとしての重要さを鑑みれば、初代ハリアーに憧れを抱くのも、それほどおかしなことはないだろう。
では、最新モデルとなる4代目ハリアーは、発売から1年でいかほどに売れたのだろうか。
2021年は「昨年超え」確実か?
4代目ハリアーの発売開始は、2020年6月17日。販売目標は月販3100台。価格は299〜504万円だ。
発売1カ月で、目標の14倍を超える4万5000台の受注を達成。上々の滑り出しとなる。発売直後となる7月の新車販売ランキング(自販連)の順位は4位。その後の2020年後半も4〜8位で推移。2020年1〜12月の通年では販売ランキング13位で、6万6067台を記録している。
年を越えた2021年前半も4〜7位で推移し。トップ10内をキープ。月販5000〜1万台前後を守り、2021年1〜6月の前半戦での成績は販売ランキング5位、販売台数4万8271台を記録した。このままいけば、2021年1〜12月で8万台を突破する勢いだ。
「ハリアーであれば、これくらいの成績は当然のこと」と思う人もいるかもしれない。しかし、そんなことはない。なぜなら、過去のハリアーは、これほど売れていなかったからだ。
1997年12月25日にデビューした初代は、たしかに新ジャンルを切り拓く革新的な存在であり、憧れの存在であった。しかし、年間販売ランキングでは10位に入っていなかった。
発売翌年の1998年の販売ランキングは10位までしか発表されていなかったが、ハリアーは10位以内に入ることができずに圏外。ちなみに10位は日産「サニー」の6万6894台であった。
1999年は30位まで発表されたが、ハリアーは年間29位で3万4087台。それ以降の年は30位にも入っていない。年間で3万台も売れていなかったのだろう。2003年に登場する2代目も同様だ。
途中からハイブリッドも加わった2代目ハリアー(写真:トヨタ自動車)
発売期間中、一度もトップ10に入っていない。それどころか、上位30位に入れたのは2007年の一度だけ。しかも、30位で3万3923台という台数だった。
2代目から3代目への世代交代に10年もの長い歳月が必要となってしまった背景には、そうした販売の不調もあったのかもしれない。初代と2代目のハリアーは、イメージの高さに見合うほどは売れていなかったといえるのだ。
モデル末期まで売れ続けた3代目
2013年12月に発売された3代目となる先代モデルは頑張った。発売翌年となる2014年は年間11位に食い込み、販売台数は6万4920台と過去最高の台数を記録する。
たびたび発売された特別仕様車も魅力的だった3代目ハリアー(写真:トヨタ自動車)
そして2015年が13位で5万8991台。続く2016年は22位4万1403台、2017年は16位で5万8732台、2018年が23位の4万4952台。モデル末期の2019年でさえ、25位で3万6249台を販売した。デビューからモデルライフ最後まで、高い水準で売れ続けたのだ。
最新の4代目は、その上をゆく数字を叩き出した。2020年7〜12月の販売は5万2297台。翌2021年1〜6月で4万8271台。発売1年で、9万9954台という10万台に肉薄する数字を達成。過去最高を更新し続けているのだ。
好調の理由は何だろうか。第1はクルマのデキがよく、先代からのファンを逃さなかったことだろう。中身はTNGAのGA-Kプラットフォームを使っており、「RAV4」とは兄弟車のような関係だ。
基本的なメカニズムを共有するRAV4(写真:トヨタ自動車)
評判のよいTNGAプラットフォームがクルマの基本性能を保証しており、そのうえにハリアーならではの価値がプラスされている。コンセプトは「人の心を優雅に満たしてくれる」で、ルックスは流麗なクーペフォルムとなっているし、インテリアの仕上げもよく、上質さがある。
重厚感としなやかさを併せ持つ乗り味も上々。初代から続く「プチ高級車」を感じることができる。販売好調の基本は、そうしたハリアーならではのコンセプトが、幅広く支持されていることにあるだろう。
第2の理由は、ハリアーを取り巻く状況の変化だ。まず、SUVというジャンル自体が、初代や2代目の時代とは比べものにならないほどメジャーになった。
1990年代後半は、まだまだセダンやハッチバック車が定番で、ようやくミニバンが増え始めた時代だ。SUVが販売ランキング上位に顔を出すことなんて、考えもできなかった。
ところが、現在はハリアーだけでなく、トヨタ「ライズ」や「RAV4」、ホンダ「ヴェゼル」などのヒット車がランキング上位に顔を出すようになった。SUVが当たり前の時代になっているのだ。
今年モデルチェンジしたヴェゼルは、納期が最大1年となるほど人気だ(写真:本田技研工業)
さらに昨年は、ハリアーへの特別な追い風もあった。トヨタの“全車種併売化“だ。これまでトヨタは、販売会社を「トヨタ店」「トヨペット店」「カローラ店」「ネッツ店」の4系列に分けていた。そして、販売系列ごとに売る車種も違った。
もちろん、「プリウス」のように全販売店で扱う車種もあったが、「クラウン」はトヨペット店、「ヴォクシー」はネッツ店といった具合に、基本は系列ごとに専売モデルを取り扱っていた。
「売れる理由」が詰まっている
それが4代目ハリアーの発売直前となる2020年5月から「すべての販売店で、すべての車種を取り扱う」となったのだ。ハリアーはトヨペット店だけの取り扱いだったから、販売力は単純換算で4倍である。
しかも、トヨタが2020年に売り出した新型SUVは、ハリアーと「ヤリスクロス」だけである。SUVは今や人気ジャンルであるから、どの販売店であっても新型モデルを売りたいと思うのは、当然のこと。しかも、それが人気車種であるハリアーだ。この体制で、売れないはずはない。
正直、RAV4よりも断然売れている現状は、「少々、売れすぎではないか」と思う部分もあるが、やはりタイミングというのは大事なのだ。
また、RAV4とハリアーの価格は意外に小さく、「価格が近いならば」と高級感のあるハリアーを選ぶ人がいることも予測される。「C-HR」からの上級移行もあるだろう。
やはり、“手が届く価格”でありながら“ちょっとした高級感が味わえる”というハリアーのコンセプトが、自動車ユーザーのニーズとマッチしたのだろう。
まだまだSUVがマニアックな存在であった1997年に、その後四半世紀以上も続き、しかも世界中で流行する「高級SUV」というコンセプトを考え、実行したトヨタに脱帽するしかない。