サイバーエージェントの藤田晋社長は「ゲーム事業や広告事業など、全般的に想定を上回った」と強調した(写真は2019年、撮影:今祥雄)

ネット広告最大手、サイバーエージェントの勢いが止まらない。7月28日に発表した2021年4〜6月決算では、売上高が前年同期比70%増の1922億円、営業利益は5.4倍の445億円となった。

急成長の最大の要因はゲーム事業だ。傘下のサイゲームスが今年2月末に配信を開始したスマートフォンゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』の大ヒットが続いている。

前回の1〜3月決算では1カ月強の貢献だったが、今回は初めて3カ月分フルに寄与したこともあり、四半期のゲーム事業売上高は前年同期比2.5倍となる923億円、営業利益は5.8倍の442億円と驚異の数字をたたき出した。四半期では売上高が主力のネット広告事業を初めて上回った。

キャラや機能の追加で畳みかけ

ウマ娘は7月20日に900万ダウンロードを突破。アメリカの調査会社アップアニーによれば、ウマ娘は4〜6月のスマホゲーム課金額ランキングで世界2位だった。現状の配信国は日本のみのため、この実績からも国内での異様な人気ぶりがわかる。


育成対象キャラクターは提供開始時の25人から36人に。プレーヤー自らが主催者となりほかのプレーヤーとの対戦を開催できる機能も追加(記者撮影)

実在する競走馬の名前や特徴を表現したキャラクターを育成し、レースで競わせるのがこのゲームの仕組みだ。ゲーム人気を最大化させるため、2016年から関連するアニメやマンガを展開し、IP(知的財産)としての育成に注力してきた。

ゲームのリリース後も自社動画配信サービス「ABEMA(アベマ)」でのアニメ一挙放送、マンガやブルーレイディスクの販売も行い、8月末にはオンラインライブも予定する。

さらに、育成できるキャラクターの拡充、ほかのプレイヤーとの対戦機能の新設など、刷新も続けている。決算説明会に登壇したサイゲームスの近石愛作取締役は、「アニメやマンガファンはもちろん、(ゲームから入った)新たなユーザーにも広く受け入れられた。長く楽しんでもらえる取り組みを続けたい」と語った。

ゲーム事業の好調を受け、サイバーエージェントは2021年9月期通期の業績予想を前回決算発表時に続き再び上方修正した。年度内に2度上方修正するのは異例だ。従来は売上高6000億円、営業利益575億〜625億円という予想だったが、今回は売上高6500億円、営業利益1000億円とした。同社が年間の営業利益で1000億円を超えるのは初めてとなる。

ウマ娘の貢献は確かに顕著だが、上方修正の要因についてサイバーエージェントの藤田晋社長は「ゲーム事業や広告事業など、全般的に想定を上回った」と強調。実際、主力の広告事業や、アベマを含むメディア事業でも着実な成長を見せた。

広告事業は2020年の同時期、コロナ禍における広告主の出稿控えの影響を受けたが、この4〜6月は売上高が前年同期比27%増となる818億円で着地。通常は3月決算の広告主が期末に予算を消化するため、売上高は1〜3月をピークに4〜6月は減る。だが今期は4〜6月が1〜3月を上回った。

広告の種類別で最大の稼ぎ頭が、グーグルやヤフーなどの検索連動広告。ユーザーが検索するキーワードに応じて表示されるテキストの広告のことで、サイバーの広告事業の4分の1近くを占める。とくにグーグルの割合が大きい。グーグル自身の決算でも検索広告は2ケタ成長を続けており、ここ日本も例外ではない。

「検索広告はわれわれの強みが発揮しやすい。代理店の中でのシェアも上がっている」(サイバーのIR担当者)。同社は広告事業だけでも年間数百人規模の新卒採用を行っており、豊富に人員をかけた運用最適化を得意とする。広告効果の高い文章や画像を機械学習で自動的に生成するサービスの訴求効果もあるという。

アベマも視聴者数が約1年ぶり最高水準に

アベマを中心としたメディア事業も、4〜6月は売上高が前年同期比1.5倍の199億円となった。利益面では38億円の営業損失を計上したが、赤字幅は縮小傾向。競輪など公営競技のネット券売サービス「WINTICKET(ウィンチケット)」など、アベマの周辺事業の売上高が前年同期比10倍以上となったことが大きい。

アベマ自体の週間アクティブユーザー数は、2020年4月からの第1回緊急事態宣言中に達した1490万人をピークにやや減少傾向にあった。だが足元では、アメリカ・メジャーリーグの試合中継などスポーツコンテンツが後押しし、7月に入って約1年ぶりに1400万人台に戻った。

一方で、このユーザー数を「お金に変える」取り組みは道半ば。決算資料を見る限り、アベマの広告収入や月額課金収入は他事業に比べ伸びが小さい。会社全体で見れば、番組制作などへの投資原資は十分にある。ただ、今後の継続性に鑑みれば、事業単独での黒字化も待たれる。

ゲーム業界と広告業界というサイバーエージェントにとっての主戦場では、すでに確固たるポジションを得た。余力のある今だからこそ、アベマではより大胆な戦略が求められそうだ。