女優の深田恭子さんが「適応障害」と診断され、芸能活動を休養することを発表しました。適応障害についてESSE読者にアンケートをとったところ、「うつ病とはどう違うの?」「私はパニック障害と診断されたけれど、じつは適応障害なのでは?」といった疑問がたくさん寄せられました。

「適応障害とは、ある特定の出来事などで大きなストレスを感じてしまい、心や体につらい症状が出て日常生活が送れなくなるような状態になるもので、だれにでも起こりうるメンタルの不調です」と教えてくれたのは、メンタルの不調に詳しい産業医かつき虎ノ門事務所の勝木美佐子先生。適応障害の原因や治療について詳しく伺います。記事の最後にセルフチェックシートがついているので、参考にしてください。


なにかの原因があって抑うつ状態になるのが適応障害です(※写真はイメージです。以下同じ)

適応障害の症状は抑うつ、不眠や肩こりなどさまざまです



ストレスが引き起こす適応障害。大きなストレスの原因には、家庭や職場、学校などでの環境や人間関係の変化が考えられます。

会社で異動があったり、上司など関わる人が変わったり、コロナ禍でテレワークが増えるなども原因になります。

家庭では育児や介護などによって、それまでとは違う生活をしなければならなくなることもあるでしょう。進学、進級など学校の環境が変われば、子どもも大きなストレスを受けているかもしれません。

こういった出来事や環境の変化がその人にとって重要なものであるほど、つらい症状を引き起こしてしまいます。

●適応障害の症状は不眠や倦怠感、肩こり、飲酒量の増加など多岐に渡ります



具体的な症状には、不眠や食欲不振(増加することも)、全身の倦怠感や頭痛、腹痛、肩こり、ひどい疲労感におそわれるなど体に出るもの。

また、どうしようもない不安や焦り、落ち込みを感じたり、ちょっとしたことに敏感になったりパニックに陥ってしまうなど心に出るものがあります。
これまでよりお酒を多く飲む、ギャンブルに夢中になってしまうようなこともあります。

生き物は非常に大きなストレスを受けるとストレスから身を守るために心や体を一時的にマヒ状態にするので、こういった症状が出てくると考えられます。

しかし症状によって人間関係が悪化したり、家事育児が十分にできなくなる、職場や学校で遅刻、早退、欠勤が続くと、生活する上でとても困った事態になります。

●原因がはっきりしていて、原因から離れると改善するのが適応障害



医学的に適応障害とされる基準は以下のとおりです。

【適応障害の診断基準】
(a) ストレス因がはっきりしていて、始まってから3か月以内に症状が出る(※1か月とする基準もある)

(b) 症状によって(1)そのストレス因に不釣り合いな程度の症状、苦痛がある(2)社会的、職業的など生活に重要な領域の機能に重大な障害をきたしている

(c) ほかの精神疾患では説明できない

(d) その症状は「死別」によるものではない

(e) ストレス因やその結果がひとたび終結すると、症状は6か月以上持続しない


思い当たるストレスの原因があって苦痛や不調が始まり、原因になるものから離れると症状が収まったり治るのが適応障害の大きな特徴です。

●生真面目な人、頼まれると断れない人は気をつけて!



環境の変化などは自分では避けられないものですが、だれでも適応障害に苦しむわけではありません。こんな人は気をつけてほしいと考えます。



【適応障害に気をつけたいのはこんな人】
□生真面目で几帳面
□心配性
□頑固で気が強い
□責任感が強い
□完璧主義
□頼まれると断れない
□気が小さい
□周りの意見を気にする
□失敗や苦悩を引きずりやすい


「これって私かも?」と思った人は、生活に大きな変化があった時には体調の悪化に気をつけた方がよさそうです。

●適応障害とうつ病は「抑うつ」が共通しています



メンタルの不調には「抑うつ」といわれる「気持ちが沈んだ状態」が共通して多く現れます。その中に適応障害やうつ病、パニック障害などの不調や精神疾患があります。

たとえば、うつ病ではこれといった原因が思い当たらず(常にストレスに晒されていることも)、原因だと思われることから離れてみても改善しません。また、今まで楽しめていたことができなくなるとよく言われます。

一方で、適応障害ではストレスの原因から離れるとすぐに症状がなくなること、楽しいことがあれば楽しめるのが大きな違いです。職場や学校に原因があれば、休んで家にいる間は元気になったり、趣味は楽しくできたりします。
そのため、抑うつ状態にあることを「甘え」や「怠け」だと思われることもありますが、放置すると深刻な事態になるかもしれないので、注意しなければなりません。

適応障害はストレスの原因がはっきりしていて、取り除いたり離れたりするとよくなるものです。深田恭子さんがドラマを降板し、休養したのは基本的な対応と言えるのです。

●適応障害と診断されされたら、どんな治療が有効?




メンタルの不調では心療内科やメンタルクリニックを受診します。病院では、気分の落ち込みや不安(抑うつ状態)が強ければ抗うつ剤や抗不安剤を、不眠があれば睡眠導入剤が処方されます。睡眠がしっかりとれるだけで回復する方も。

薬の処方だけでなくカウンセリングによる治療もあり、「認知行動療法」が行われることもあります。
ストレスを感じるとネガティブな思考になりがちですが、認知行動療法では自分の考え方の癖を知り、状況に応じてストレスに対応できるバランスのよい心の状態をつくっていくことで治療にも再発予防にもなります。

適応障害だと診断がつくことで「甘えや怠けではなかったんだ」とホッとすることもできるでしょうし、安心して休職したり傷病手当など制度を活用することもできますから、つらい状態が続いたら心療内科やメンタルクリニックを受診するとよいでしょう。

治療中は朝起きて日光を浴びる、適度な運動をするなど生活のリズムを整えましょう。再発を防ぐためにも、家族や職場の人に悩みを話すことも大切です。一人で抱え込まずにだれかに助けを求められるようにしましょう。

●大切なのはストレスになっている原因を取り除くこと、変えること



適応障害はストレスの原因がなくなればよくなりますから、病院で症状をやわらげた上で根本的なストレスに対処していきます。
産業医の立場としては、職場に原因があるときにはパワハラや長時間労働などが背景にあることも考えられるので、ぜひ上司や人事総務、産業医に相談してほしいと思います。
産業医は時間外労働や出張の禁止、時短勤務など労働時間の負荷を減らすこと、部署異動などの業務配置転換を事業所に提案できるので、相談することで状況に対処することもできるでしょう。

また、適応障害を起こすということは、その業種や仕事が自分に合っていない可能性もあります。資格を取ったり、転職活動をして新しい仕事に就いて、体調もよくなり今まで以上に活躍するようになった患者さんもおられます。キャリアチェンジのきっかけと考えてみてください。

ストレスの原因からどうしても離れられない、取り除けないときには、前述した認知行動療法が助けになることも。
ある患者さんは休職中に自分の考え方(認知)の癖や行動パターンを考えてストレスに対応できるようになり、復職後は自分だけでなく周りの人への接し方も変わって、頼れる存在として活躍されています。

●身近な人が適応障害になったら原因追求はNG



家族や友人、職場の仲間が適応障害と診断された、適応障害かもしれないと思ったら心配ですし、なにか力になりたいですね。

「なにがイヤなの?」と原因を追求したり、「以前のあなたになろうよ」「がんばろう」と励ますのはよくありません。

原因を探したり指摘することは、適応障害になっている人にはつらいことを思い出させてしまいます。そして、そのことから逃げずになんとかしようとしているからこそ体や心が悲鳴を上げているので、それ以上焦らせたり、がんばらせてはいけません。

つらさや悲しさを「そうだね」と受け止め、その人が安心できるようにすることが大切です。

しかし親身になりすぎるとこちらも気持ちが巻き込まれてしまうこともあるので、ほどほどの距離を保つことも大切です。

●進学や進級時には子どもの適応障害にも注意




不登校のお子さんの中には、適応障害が原因になっていることもかなりの割合でみられます。
なにがつらくて負担になっているのか、お子さん自身も原因がよくわからない場合があり、話をしても親や先生が理解できずに困ってしまうケースも。

進学や進級、学期の変わり目などでお子さんの様子が変だなと思ったら、メンタルクリニックなどの受診を検討してください。

●適応障害セルフチェックシート



1〜3か月以内に大きな変化や出来事があり、以下の項目のような不調があれば適応障害の可能性があります。

【適応障害のセルフチェック】
□今まで楽しんできたことが楽しめなくなった
□食欲がない、もしくはありすぎる
□眠れない、もしくは寝すぎてしまう
□気分が落ち込んでしまう、もしくはイライラしてしまう
□お酒やタバコが増えた
□パチンコやゲームがやめられない、時間が増えた


【周りの人から見た適応障害チェック】
□遅刻や欠勤が増えた
□ミスが増えた、集中力がない
□今までできていたことができなくなったり、ひどく時間がかかる
□口数が減ってきた
□挨拶をしなくなった
□身なりや服装を気にしなくなった


まず思い当たる原因を変えられないか、あるいは離れられないかを考えてみましょう。
同時に十分な睡眠をとること、スマホやテレビなど情報源は脳を疲れさせるので遠ざけ、「なにもしない」で心身を休めることが大切です。

それでもつらい症状が続き、生活するのが苦しいようであれば適応障害やほかの病気の可能性もありますから、メンタルクリニックや心療内科の受診をおすすめします。

<取材・文/坂元希美>

●教えてくれた人
【勝木美佐子先生】



2016年勝木労働衛生コンサルタント事務所を開設。2018年株式会社産業医かつき虎ノ門事務所法人化。現在も、消化器科医としての外来診療と、20数社の嘱託産業医として、臨床と産業衛生の両立で活躍中。著書に「嘱託産業医スタートアップ
」(日本医事新報社)、「今さら聞けない産業衛生の基本」(産業保健と看護 メディカ出版)