人口減少が進んでいる日本では、さらに企業の人材確保競争が激化すると考えられます。内閣府の統計資料によると、2050年には65歳以上人口割合が37.7%になり、現役世代が1.4人で65歳以上の人を支えなければならないという予想も出ています。

高齢化の推移と将来推計 資料:令和2年版高齢社会白書


Citrixが行った調査「Born Digital Effect」の試算では、世界的にデジタル世代は年間1.9兆ドル(約200兆円)の利益を企業にもたらす可能性がある一方、少子高齢化でデジタル世代の人口比率が低い日本においては、250億米ドル(約2.7兆円)の機会損失があると算出されています。

この問題について、日本政府はさまざまな対策を設けています。年金給付年齢の引き上げもその一つです。また、高年齢者雇用安定法により希望者全員の65歳までの雇用を企業に義務付けるなどの高齢者の働く環境を整備する対策も施行され、2021年4月には70歳までの就業機会確保が努力義務となりました。政府が行うさまざまな将来設計の試算は、私たちが70歳まで働くことを前提に作られているのが実情です。

企業は今後ますます増加するシニア層の従業員をどう活用できるのか? そして、私たちが70歳まで活躍し続けるためにはどうすれば良いのか? 企業も個人も問われています。

働き続けることを希望するシニア層

政府の調査では65歳−69歳の高齢者の65%は「仕事をしたい」と感じている一方で、実際にこの年齢層で就業している人口割合は46.6%にとどまっています。また、現在働いている60歳以上の高齢者に「何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいか」というアンケートを行った結果、70歳以降も働くことを希望している人が8割程度いることが明らかになっています。

企業は政府の方針に従うために仕方なくシニア層を雇うのではなく、さまざまな経験や知識を持つシニア層を企業の成長につなげることが重要です。なぜなら、変化の激しいVUCA(Volatility<変動性>、Uncertainty<不確実性>、Complexity<複雑性>、Ambiguity<曖昧性>)の時代だからこそ、困難を乗り越えたシニア層の経験が生かされ、また、さまざまな変革を実際に経験してきたからこそ、現状の新技術や傾向をよりマクロの視点から分析できるシニア層は貴重な人材資源だからです。

そこで重要となってくるのが柔軟な雇用形態であり、テレワークなどを含めたフレキシブルなワーキングスタイルの定着、それを支える教育システム、そして長く働き続けてもらうために従業員の健康(Well-being)を意識した環境の提供です。

労働力人口の推移 資料:令和2年版高齢社会白書


企業が提供できる、シニア層に必要な働く環境とは?

テレワークやジョブ型雇用などを取り入れた柔軟な雇用形態の下であれば、シニアワーカーは負い目を感じることなく、通院をしたり検診を受けに行ったりする機会が与えられます。また、時差出勤が可能になることで、通勤時の負担を減らし、パフォーマンスの低下を防止できます。

テレワークがうまくいくかはテクノロジーの活用にかかっています。自宅でも職場でも同じ環境で仕事ができる仮想デスクトップやDaaSは、テレワークで大いに活躍するでしょう。画面や文字が小さなノートパソコンはシニア層に負担をかけるかもしれません。また、移動時にパソコンを持って歩くことは身体の面で負担になります。しかし、職場でも自宅でもデスクトップを使用しながら、同じ環境で仕事ができるようになると、OSの互換性や操作性などを理由に異なるテクノロジーに切り替えながら仕事をする負担から解放されます。

そして、継続的な学びの機会を与える教育プログラムや、従業員同士がコミュニケーションを取ることができる環境づくりが重要になります。女性やシニア層の活躍の場が増えることで、より多様性のある職場になるでしょう。しかし、摩擦が生まれない工夫も同時に必要です。

ダイバーシティとは、同じ空間に多様な人間が入るということです。その効果を上げるには、「あなたはそこにいていいですよ」という心理的安全性を確保する経営層からの強いメッセージや、ダイバーシティへの意識を高めるための教育や、コミュニケーションを高めお互いの理解を深めるための場所づくりなど、メッセージを裏付ける「取り組み」を並走させることが大切です。

時間や場所に制限を設けず、全員の社員が自分の働き方をカスタマイズする文化が根付けば、シニアワーカーも後ろめたい気持ちを持たず、積極的にそして心ゆくまで今までの経験に基づいた能力を発揮できます。

ダイバーシティから生まれるイノベーション

現在、顧客のニーズは多様化しています。しかし、サービスを提供する企業が多様化していないと、顧客のニーズをつかむことは難しく、新たなイノベーションは生まれません。例えば、近年躍進を続けるアイリスオーヤマ では、「シニア世代は説明書を読まない」というインサイトをもとに、説明書がなくても使用できる商品作りを心がけているそうです。これは、パナソニックを早期退職し、アイリスオーヤマに雇用されたマネージャーのアイデアです。高齢者人口が増える中、高齢者のニーズをうまく捉え、顧客を増やしている良い例ではないでしょうか?

シニア層に限らず、私たちの社会は多様性にあふれています。企業も同様に多様性を受け入れることで、社会に受け入れられるサービスの提供が可能になるでしょう。

人生100年時代、働き続けるには?

人生100年時代と言われる現在、私たちの労働年数は以前よりも長くなっています。そうした中、重要なことは健康で働き続けられるようにすることです。しかし、若い世代と同等の過度な業務を与えることで、休職や退職に追い詰められるシニア層も少なくはありません。

厚生労働省の労働者調査によると、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じると回答した労働者のうち、「仕事の質・量」と回答した人は53.8%でした。また、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業した労働者がいた事業所の割合は事業所規模が大きいほど高く、500人―999人の事業所では76.5%、1000人以上の事業所では91.9%の事業所がメンタルヘルスによる休業者と向き合っています。そして、実際に相談できる人、相談した相手として家族・友人の次に上司・同僚が挙がりました。

例えば、メンタル不調を抱える従業員をフォローするサポート役としてシニア層を雇用し企業に迎えることで、若い世代もシニア層もお互いが健康に働き続けられる期間を伸ばすというメリットがあります。長い間働き続けてもらうためにも、企業は従業員のWell-beingを考慮した働く環境を全世代向けて提供することが重要なのです。

多様な人々を受け入れるために、企業だけでなく私たち個人個人が、学び理解し受け入れる準備をする必要があります。しかしそのプロセスには、多くの発見があり、それがイノベーションにつながるのです。

著者プロフィール

○國分俊宏 (こくぶん としひろ)

シトリックス・システムズ・ジャパン 株式会社 セールス・エンジニアリング統括本部 エンタープライズSE本部 本部長

グループウェアからデジタルワークスペースまで、一貫して働く「人」を支えるソリューションの導入をプリセースルとして支援している。現在は、ハイタッチビジネスのSE部 部長として、パフォーマンスを最大化できる働き方、ワークライフバランスを支援する最新技術を日本市場に浸透すべく奮闘中。