希望の銀!美しい体操の讃え合いとなった東京五輪体操男子団体は、新生体操ニッポンが飛躍の銀でパリの金を先行予約ですの巻。
若き体操ニッポンがやってくれました。全員が五輪初出場、10代をふたり含むという未来しかないメンバーが、体操男子団体銀メダルを獲得したのです。昨年・一昨年の状況を振り返れば、メダルは獲れるだろうが色は銅かなという状況で、ロシア・中国の後塵を拝していた日本。しかし、この「+1」の一年で若者たちは大きく成長し、金メダルを狙える手応えまでもありました。
↓みんな笑顔でよかった!ありがとう若き体操ニッポン!
#体操 男子団体で #銀メダル を獲得しました 。
- 毎日新聞写真部 (@mainichiphoto) July 26, 2021
男子団体決勝の演技を終えて抱き合う谷川航、北園丈琉、橋本大輝、萱和磨。
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迎えた勝負の日。予選を1位で通過した日本は、ゆかで始まり鉄棒で終わるローテーションです。金メダルを争う相手をロシア・中国とした場合、リードできる見込みがあるのはゆか・跳馬・鉄棒、リードされるであろうはつり輪・平行棒。そしてあん馬は落下が怖い。それぞれ得意不得意があり、演技順も同じではないので、最終順位は読みづらいところですが、とにかく日本は最後の鉄棒で逆転を狙える位置につけたいというところです。
リオ五輪の際とは異なり、チーム4人から3選手が演技をして、そのすべての得点が採用されるという仕組みのため、ひとつのミスも大きな順位変動につながりますし、先行した選手のミスが後続の選手の「もう失敗できない」というプレッシャーにもなります。その意味では各種目の1番手の演技者がどれだけ安定感があって、かつ高い得点を出せるかによって、あとにつづくメンバーのやりやすさが変わってきます。ミスをせず、高い得点を狙う、そういう難しいことが要求されます。
日本のゆか、最初の演技者は北園丈琉さん18歳。初の五輪の重圧もはねのけ(※メンバー全員初の五輪ではあるが…)、トップバッター起用に応える「着地ビタビタ」の連続で14.600点。これで勢いづく日本は、つづくエース橋本大輝さんも伸びやか過ぎてラインオーバーする減点がありながらも14.600点。3人目の谷川航さんも美しい前方系の技を決めて14.500点。中国には13点台がおり、ロシアは1種目めがあん馬で得点伸びず、日本が幸先よくリードを奪います。
体操男子団体総合決勝 表彰台で銀メダルを掲げる(左から)谷川航、北園丈琉、萱和磨、橋本大輝(26日、有明体操競技場で)‖三浦邦彦撮影 写真速報https://t.co/oryxSSUc9S#tokyo2020 #東京2020 pic.twitter.com/XPGFdXTKlF
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2種目めはもっとも落下の危険が大きいあん馬。ここで日本はあん馬得意で安定感抜群の萱和磨さんが堅実な演技で14.566点とすると、2番手・橋本さんはダイナミックな開脚旋回で14.800点。3番手の北園さんは降りの難度を下げた演技になりますが手堅く14.200点。落下なく3人があん馬を終えてまずはひと安心。しかし、中国は孫煒が15点に乗せる高い得点で差を詰めてきます。別ローテーションのロシアもつり輪で高得点をあげて全体ではトップに立ちます。
3種目めはつり輪。ミスを減らしてなるべく引き離されないようにしたい種目です。1番手の萱さんは、水平支持の際にやや肩が上がり気味となって低めの14.100点。2番手谷川さんは丁寧な演技で着地までピタリと止めてライバル国にも見劣りしない14.500点。3番手橋本さんも構成は低めながら着地ビタビタで13.833点と最小限の差に留めます。前半3種目終えて日本はロシアに次ぐ2位としました。中国をわずか0,002点ですが上回ったのは悪くない前半戦。
4種目めは跳馬。日本では谷川さんがリ・セグァン2、橋本さんがヨネクラと価値点6.00の技を持っていますのでチャンスの種目。1番手北園さんは価値点5.60のヨー2で着地乱れて低めの14.166点。不穏な空気も漂いますが、ここでやらねばいつやると2番手の谷川さんがリ・セグァン2を着地まで完璧に決めて15,233点の高得点。本人は助走からガッツポーズの間の記憶がないそうで、ゾーンだったのかもしれません。素晴らしい出来栄えでした。3番手橋本さんはヨネクラを自重して価値点5.60ロペスで14.833点とします。トップのロシアとは3,472点差、中国とは0.098点差の3位に。平行棒で粘って、鉄棒で一気に逆転を狙う展開となりました。
【速報動画】
- NHKスポーツ (@nhk_sports) July 26, 2021
予選を1位で通過した #体操男子団体
4種目は「跳馬」#橋本大輝#萱和磨#谷川航#北園丈琉
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5種目めは平行棒。1番手の萱さんは美しく丁寧な演技で着地ビタビタまで決めて、ロシア・中国にも劣らない15.000点。2番手北園さんもキレイな倒立から大きなスイング、着地も決めて15.000点。3番手の谷川さんはこれが団体戦最後の演技であり、個人総合・種目別の決勝進出もないので「東京五輪最後の演技」です。谷川さんは最後大きく後ろに倒れますが、何とか踏みとどまって14.666点に演技をまとめます。苦手の鉄棒で苦しむロシアとの差を大きく詰めて1.271点差、大得意のはずの平行棒で日本を引き離せなかった中国とは0.631点差、非常に僅差で日本が得意の鉄棒に入っていきます。
6種目めは日本が得意の鉄棒。最終演技者の橋本さんは、内村航平さんが東京五輪で出せなかった幻のスコアにも匹敵するスコアを持っています。1番手萱さんは構成は低めながらも最後はチームを鼓舞するように大きく「ヤー!」と叫んで締め。予選を上回る14.200点で仲間につなぎます。2番手北園さんはカッシーナ・コールマンと難度の高い手放し技を組み込みながら美しい車輪で、着地も小さく一歩。選考過程ではこの鉄棒で落下し、五輪を諦めかけるほどの怪我を負いましたが、怖さも含めて乗り越えました。得点は14.500点、こちらも予選から伸ばしてきました。2人目まで終えたところで中国とは0.464点差。ロシアは最終種目のゆかでラインオーバーが連続で出て得点を伸ばせず0.537点差。
日本最後の演技者はエースの橋本大輝さん。点差を考えれば中国はもう射程圏です。橋本さんは雄大なカッシーナ・コールマンなど手放し技を決めて、最後は着地をビタリで15.100点という種目別でも金を狙える高得点。中国を逆転し、ロシアの最終演技者を待ちます。逆転には14.563点が必要ですが、ロシアのナゴルニーはゆか得意で15点台を出せる選手。ナゴルニーは予定の構成よりもさらに上げて、14.666点としました。わずか0.103点差。わずかの差で色はわかれましたが、日本は銀メダルを獲得です!
↓この演技をできたなら、勝敗はもはや関係ない!
【速報動画】
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予選を1位で通過した #体操男子 団体
逆転を目指す日本
最終6種目は「鉄棒」!#橋本大輝 #萱和磨 #谷川航 #北園丈琉
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↓銀には悔しい銀と嬉しい銀があるけれど、間違いなくこれは嬉しい銀!
#体操 男子団体で #銀メダル を獲得しました 。
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鉄棒の演技を終えた #橋本大輝 と抱き合う日本の選手たち。
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すごい戦いだったなと思うのは、アクシデント・大過失と呼べるものがひとつもなかったことです。もちろんラインオーバーや、着地の乱れなど細かいミスはあります。しかし、それは体操をやる以上は当たり前につきまとうものであって、「やらかし」ではありません。自分ができることを練習通りにやり、練習の範囲のミスで留めました。練習によって「その範囲で」留められるよう、咄嗟の回避などで演技を保ちました。ライバルながら美しい演技の連続には息をのみ、見事なものだと唸りました。吸い付く着地も当たり前のように繰り出されていました。
4人しかいない編成ということもあり、各国のエース格は6種目に登場し、そのなかで他国のスペシャリストにも見劣りしない得点を出してきます。しかも、難度一辺倒ではなく出来栄えもまた見事な演技でそれをやっています。難しくて、美しい演技を6種目でミスなくやっている。上位各国がそういう演技を応酬して順位をつけることは、「負けたチーム」を決める作業ではなく「勝ったチーム」を決める讃え合いでした。みんなが自分のチカラを出して、そのうえで一番上を決めたのです。恨みっこなどあるはずがありません。
決着がついたとき、この長い一日とここに至る長い5年間を讃え合う選手たちの姿は、「落ちろ」と呪い合った関係では絶対になかった。同じく観衆も「これだけの演技をする選手たちなら落ちて決着はあるまい」と納得のうえで、自分たちの選手に「より上」を求めるような気持ちにさせられました。そういう世界はたぶん日本が広めたものだろうと思います。曲芸を目指すのか、アートを目指すのかという体操の歴史の分岐において、「難しいことを美しく、全6種目をやらないとダメだよ」と示したことが、この戦いを生んだのだと思います。こういう戦いでなければ勝てないようなルールを自ら定めるように体操界に促したのだと思います。飛び道具の応酬ではない、美しい体操による決着を。
テレビで見える範囲に、その歴史の分岐点にいたはずの人はいませんでした。そこにいて、4つのメダルを首に提げさせられて写真を撮られるものだとばかり思っていましたが、そうはなりませんでした。わかっていたのかなと思います。すでにここにいる4人は大丈夫なのだと。若い頃、自分自身も「宇宙人のようだ」と呆れられながら、練習そのままに試合でも美しい体操を発揮してきたように。本当に「できる」ところまで練習しているなら、本番でも「できる」のだと。心配はいらないのだと。
本当は無理やりメダル提げの場面に対して「あなたが切り開いた世界が栄えていますよ」「おめでとうございます」と言いたかったところですが、まぁ、肝心なときにプイッといないのも「らしい」なと思います。今はただ、世界は美しい体操で満ちている、そのことを捧げて、この世界のさらなる発展を祈ります。種目別決勝では橋本大輝さんが鉄棒の金メダルを獲り、「やったら獲れてたわー」「負けてないもん」「獲れてたわー」と溜飲を下げてくれるでしょう。そのときは金メダルを提げた写真を撮らせてほしいなと思います。本人的には面白くも何ともないでしょうが、見たいのです!
その人自身が夢を見せられなくても継ぐ者が見せてくれるのなら、ほぼ同じ!
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