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今や手頃なスポーツモデル自体が希少

text:Yoichiro Watanabe(渡辺陽一郎)editor:Taro Ueno(上野太朗)

「最近はスポーツモデルが売れない」といわれる。

【画像】売れる秘訣が詰まってる?【人気のスイフトスポーツ/GRヤリスを比較】 全159枚

1990年代までは若いクルマ好きが多く、トヨタ・レビン&トレノ、日産シルビア、ホンダCR-Xといったスポーツモデルも好調に売られた。


スズキ・スイフトスポーツ

それが今は若いクルマ好きが減り、スポーツモデルの販売台数も下がり、レビン&トレノやシルビアは廃止された。

走りの楽しいクルマの減少は、若年層のクルマ離れとセットで語られることが多い。

しかし本当にそうなのか? 若年層のクルマ離れがすべての原因か? クルマの側が若年層から離れたこともあるのではないか?

例えば30年前の1991年に発売されたAE100/101型カローラ・レビンは、直列4気筒1.6Lエンジンを搭載する1600GTアペックスの価格が187万4000円(5速MT)だった。

1988年に発売されたS13型シルビアも、1.8Lを搭載した売れ筋のQ’sが176万5000円(5速MT)だ。

1987年に発売された2代目CR-Xは、1.6LのSiが149万8000円(5速MT)であった。

当時は安全装備が乏しく、四輪ABSや運転席エアバッグすら装着されないクルマが多かったが、価格も安かった。

200万円以下で購入できるスポーツモデルが豊富に用意されていた。

最近はこのようなスポーツモデルが減り、売れ行きも下がり、車種が廃止された事情もあるだろう。

今のスポーツモデルの価格は、1.5Lエンジンを搭載するコンパクトなロードスター(ソフトトップ)のSでも260万1500円(6速MT)だ。

装備が充実する売れ筋のRSは、1.5Lでも333万4100円に達する。

この状況を逆に捉えると、運転が楽しくて価格の求めやすいスポーツモデルを開発すれば、売れ行きを伸ばせるのではないか。

そこでスポーツモデルの価格と販売台数をあらためてチェックした。

価格も魅力 スイフトの約40%はスイスポ

価格の求めやすいスポーツモデルを探すと、車種が意外なほど少ない。

前述のとおり1.5Lエンジンのロードスターでも260万円を超える。大半のスポーツモデルは、中心的な価格帯が300万円以上に達するのだ。


スズキ・スイフトスポーツ

その意味でスイフトスポーツは貴重な存在だろう。

価格は6速MTが201万7400円におさまり、なおかつ中身は本格的だ。

エンジンは直列4気筒1.4Lターボで、自然吸気のノーマルエンジンに当てはめると2.3L前後に匹敵する動力性能を発揮する。

サスペンションにはモンロー製のフロントストラットやリアショックアブソーバーが採用され、走行安定性も良好だ。

外観ではエアロパーツや17インチアルミホイールが備わり、衝突被害軽減ブレーキや全車速追従型クルーズコントロールなどの先進装備も標準装着される。

この内容で200万円少々なら買い得だ。

そのために売れ行きも堅調で、2021年1〜6月には、スイフトスポーツだけで1か月当たり約900台が登録された。

スイフト全体の40%以上をスポーツが占めている。ロードスターはソフトトップとRFを合計して1か月に約540台だから、スイフトスポーツは圧倒的に多い。

また、スイフトスポーツのトランスミッションは、6速のMTとATだが、前者の比率が60%に達する。

スイフトスポーツはコンパクトで実用的なボディにスポーティな本物指向のメカニズムを凝縮させ、6速MTも用意して、価格は200万円前後に抑えたから好調な売れ行きとなった。

それならほかの車種はどうなのか。

後席も使えることがニーズと合致?

コンパクトなスポーツモデルとしてGRヤリスも注目される。

価格は主力の1.6Lターボ+4WDのRZが396万円だから、かなりの高価格車だが、2021年1〜6月の1か月平均登録台数は800台を少し超えた。


トヨタGRヤリス

1.6Lターボの動力性能は、最高出力が272馬力(6500rpm)、最大トルクは37.7kg-m(3000-4600rpm)だから、自然吸気のノーマルエンジンに当てはめると3.5L相当だ。

この動力性能と4WDの搭載を考えると、価格が400万円近くてもユーザーとしては納得できる。

GRヤリスには1.5LのノーマルエンジンとCVT(無段変速AT)を搭載する2WDのRSも用意され、価格は265万円におさまる。

この販売比率もGRヤリス全体の約20%を占めるため、最廉価の不人気グレードではない。

GRヤリスは3ドアボディだが、居住性は5ドアと同等だから、後席は少し狭いが4名乗車も可能だ。一家に1台のクルマとして使えることも堅調に売られる理由だ。

このほか軽自動車のコペンとS660もコンパクトなスポーツカーとして注目されるが、2021年の届け出台数は、両車ともに1か月平均で260台前後にとどまった。

価格は200万円前後と安くても、2人乗りは売りにくい。

そのためかS660は、生産は2022年までおこなうものの受注を終了した。生産台数が少ないため、販売終了が発表されると、来年までの生産枠が埋まってしまった。

このほかシビックは、価格が300万円前後に達するが、販売は堅調だ。

今は新型への切り替わり時期だから登録が中断されているが、2020年には1か月平均で約600台、2019年は900台が登録された。

6速MTの比率は、タイプRを除いた1.5Lターボのハッチバックだけでも30%を超える。シビックも6速MT比率が高い。

売れる秘訣は? 素のグレードの走りもポイント

前述のとおり販売の好調なスポーツモデルには一定の条件がある。

まずボディタイプは、2シーターや後席が極端に狭いスポーツカーでは売りにくい。4名で乗車できることが条件だ。


ホンダS660

ただしセダンには高価格車が多く、保守的な印象も強いために売れ行きが低迷しやすい。ハッチバックが1番だ。

そこでスイフトスポーツを筆頭に、GRヤリス、シビックなどが人気を集めている。

スポーツモデルの人気車では、MT比率が高いことも特徴で、スイフトスポーツは前述のとおり60%、シビックも30%少々を占める。GRヤリスの1.6Lターボ+4WDは6速MTのみだ。

このような販売動向があるため、ノーマルタイプのヤリス、カローラ・スポーツ、マツダ3なども6速MTを用意する。

価格の求めやすい車種を中心に、ハッチバックにMTを選べるスポーツモデルを設定するとユーザーの共感を得やすい。

今後はノート・オーラにも、MTはないがスポーツモデルの「ニスモ」が用意される。

ただしすべてのハッチバックにスポーツモデルを設定することは難しい。

スポーツモデルに発展させるには、ベースのノーマルグレードにも、優れた走りの素性が必要になるからだ。

スイフトスポーツも、ベースのスイフトが走りの優れたコンパクトカーだからこそ、1.4Lターボエンジンやモンロー製の足まわりが良い効果を生み出した。

したがってコンパクトカーとその発展型のスポーツモデルをセットにして開発すると、スイフトのようにベース車の走りも向上して相乗効果を高められる。

素性の優れたコンパクトカーが上質なスポーツモデルを生み出す鉄則は、1975年に発売された初代フォルクスワーゲンゴルフGTDの時代から変わっていないのだ。