金正恩氏が労働党中央委員会第8期第2回政治局拡大会議を指導した(2021年6月30日付朝鮮中央通信)

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北朝鮮の金正恩総書記は、6月の朝鮮労働党中央委員会第8期第3回総会で、食糧難に喘ぐ国民に軍糧米を配給せよ、との特別命令書を発したとされている。

それに基づき各地で配給が始まっているが、人々から不満の声が上がっている。その代表例が「手に入れられない」というものだ。一体どういうことなのだろうか。

デイリーNKの内部情報筋によると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)、会寧(フェリョン)など道内各地で今月9日から配給が始まった。しかし、配給とは言え無料でもらえるのではなく、市場価格よりは安い価格で購入できるという有償配給だ。市場でコメ1キロは7000北朝鮮ウォン(約140円)で売られているが、配給では地域によって異なるが、半額かそれ以下の価格で5日から7日分を購入できる。

ところが、それすら手に入れられない、つまり買えないほど困窮している家庭が多いというのだ。会寧市の南門洞(ナムムンドン)、城川洞(ソンチョンドン)、江岸洞(カンアンドン)、遊仙洞(ユソンドン)の場合、10世帯に2から4世帯が、穀物購入を諦めたという。

中国との国境に面し、ロシア国境からも近い会寧は、合法、非合法の貿易、輸入商品の販売などで生計を立てている人が多かった。ところが、昨年1月からのコロナ鎖国で貿易が一切できなくなり、密輸への取り締まりも強化。また、市場や他地域への移動への統制も強化され、食い詰めた人が少なくないのだ。

「国境封鎖でカネが回らないのに、その日暮らしをしている人々に食料を買うカネがどこにあるのか。配給にカネを払えとはどういうことだ」(情報筋)

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

市場価格の半分での販売は、経済的困窮で買えない人への配慮という側面もあるだろうが、それでも買えないという人が少なくないのが実情だ。そんな最困窮層に対する当局の対策はなく、「やってる感の見せつけに過ぎない」との指摘も出ている。

「お上は、カネがなくコメが買えない世帯は助け合って、党の配慮が受けられるようにせよと言っているだけだ。市場より安く売っても買えないのなら、われわれ(当局)としてもどうしようもないということだろう」(情報筋)

購入にあたってはチケットが必要になるが、これを売り渡して現金化する人も現れている。チケットを買っているのは、コメを安値で買い集め、市場価格で転売し、差額を儲けようとする商人たちだ。

庶民からは「もっと安くすれば、こんな笑えない冗談のようなことは起きなかったはず」と批判する声が上がっている。また、「国が貧しいから人民を食わせられない」と嘆く声も聞かれたという。