当時の子どもはみんな憧れた! マンガやカー消し 1970年代後半の「スーパーカーブーム」ってなに?

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一瞬で燃え上がり、燃え尽きた「スーパーカーブーム」

 1970年代後半にかけて、一気に盛り上がり、そして、あっという間に収束したのが「スーパーカーブーム」です。

 これは1975年(昭和50年)に、雑誌「週刊少年ジャンプ」にて連載が始まった漫画『サーキットの狼』がきっかけでした。

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【画像】あのころ夢中になった「スーパーカー」を画像でチェック(33枚)

 漫画作品が人気になるだけでなく、作品中に登場するマシンを模した「スーパーカー消しゴム」などの、関連グッズが数多く発売され、また実写版の映画が製作され、さらには『対決! スーパーカークイズ』のようなテレビ番組さえ生まれました。

 さらにはリアルな場にもその影響が表れており、東京都内などでスーパーカーを販売する店には、カメラを抱えた子供たちが大勢押し寄せるようになったのです。

 最盛期となる1977年5月に、東京晴海国際貿易センターで開催された『スーパーカー・世界の名車コレクション‘77』は、4日間でなんと46万人もの来場者を集めたのです。

 しかし、そのブームは勢いこそ格別であったものの、1978年後半から1979年になると、すっかりと沈静化してしまいます。まさに一過性のブームと呼べる、一瞬の煌きだったのです。

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 では、なぜ当時、あれほど「スーパーカーブーム」は盛り上がったのでしょうか。

 じつのところ、筆者は1960年代後半の生まれであり、「スーパーカーブーム」を小学校高学年で体験しています。地方都市に住んでいたため、東京都内へカメラを持って赴くことはできませんでしたが、それでも漫画は愛読していたし、スーパーカー消しゴムのような関連グッズは、抱えるほど数多く持っていました。

スーパーカー消しゴム(通称:カー消し)。BOXYというボールペンで弾いて遊んだ(c)高桑秀典

 当時はやはり『サーキットの狼』の漫画を貪るように読んでいて、熱く友人と語っていたことも覚えています。

 そんな当時を振り返ってみると、あの頃の小学生は、テレビと漫画だけが娯楽であったように思えてきます。インターネットがないのは当然ですし、スマートフォンもなく、SNSもない。小学生向けの雑誌もほとんどありませんでした。

 子供なのでラジオも聞かないし、映画館にもめったに行くことはない。そうなると『少年週刊ジャンプ』と『少年週刊チャンピオン』を読んで、あとはテレビを見るだけ。現在と比べると、あきれてしまうほどエンターテインメントが少なかったのです。

無垢な心にクルマのカッコ良さを教えてくれた

 それでも1970年代後半は、小学生にとっても楽しいテレビや漫画、歌がありました。

 ザ・ドリフターズの『8時だョ! 全員集合』や刑事ドラマの『太陽にほえろ!』は男子の小学生はみんな見ていたはず。ドリフのギャグや『太陽にほえろ!』の刑事の殉職シーンのマネは、小学生男子の定番でした。

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 また、『秘密戦隊ゴレンジャー』や『タイムボカン・シリーズ』『宇宙戦艦ヤマト』なども見なくてはならないなど、必見の番組がたくさんありました。小学校からの帰り道では、『およげ! たいやきくん』や、キャンディーズやピンク・レディーの歌を友達と踊りながら歩いたものです。

 ここに挙げたのは、個人的な経験ですが、1970年代後半を地方の小学生といて生きた男子であれば、鉄板のメニューであったはず。なぜなら、他に地方の小学生のための娯楽はなかったからです。

 テレビと漫画だけを娯楽として生きていた、当時の小学生男子(筆者)にとって、正直なところ、クルマは興味の対象外でした。

 街で目にするクルマは四角い大衆車ばかり。ところが、『サーキットの狼』に描かれるスーパーカーは、まったく違っていました。

 流麗で、背が低く、子供心にも、カッコ良いということが理解できました。それが、必殺技を駆使しながら熱いバトルを繰り広げるのです。無垢な小学生男子が熱中してしまうのも当然のことでしょう。

 筆者は、この作品で初めて「クルマってカッコ良いんだ。速く走ることがカッコ良いんだ」ということに気づきました。同じような小学生男子は、日本中に数限りなくいたはず。だからこそ、スーパーカーブームは一気に火が付いたのでしょう。

 しかし当時の子どもとして残念だったのは、『サーキットの狼』の内容が、本当にプロのレーシングドライバーを目指して、リアルなレースの話に移ってしまったことです。

 大人であれば、それはそれで見応えがあったでしょう。しかし、クルマを運転したことのない子供としては、内容が難しすぎた気がします。個人的には、サーキット自体がイメージできませんでした。

 そんなこともあってか、あれほど熱中して読んでいたにもかかわらず、当時、小学生だった筆者は、最後まで物語を追うことはありませんでした。同じように感じた子どもも、きっと多かったのでしょう。だからこそ、ブームは、驚くほどの速さで沈静化してしまったのです。

 ですが、この『サーキットの狼』の経験によって、当時の小学生男子の心に「クルマに対する憧れ」が刻み込まれたことは間違いありません。

 クルマという存在、そして魅力を気づかせてくれたのが『サーキットの狼』であり、「スーパーカーブーム」であったのです。