「2050年の中国」フランスの予言者が見据える未来
中国は世界の覇権を握るのか(デザイン:池田 梢)
7月1日に創立100周年を迎えた中国共産党。足元では米中対立が強まるなど、中国と世界との溝は深まりつつある。同国が「次の100年」と位置づける「2049年の建国100周年」に向けて、今後も経済、軍事、テクノロジーなどであらゆる面で強国化を進める考えだ。
『週刊東洋経済』7月19日発売号は「2050年の中国 世界の覇者か落日の老大国か」を特集。GDPでアメリカを追い越す一方、高齢者5億人に迫る少子高齢化の実情など、30年後の中国の未来像を展望した。
またジャック・アタリ、大前研一、ジョセフ・ナイ、ダニエル・ヤーギンなど世界の10賢者へのインタビュー、「ポスト習近平」の後継人事、インドを巻き込んだ地政学、台湾侵攻の具体的シナリオ、米ウォール街が狙う中国年金マネー、デジタル人民元の行方、日中関係への提言など、最新データとともに中国の実情と今後に迫った。
膨張する巨大国家と世界はどう付き合えば良いのか。日本の歩むべき道は。ソ連崩壊やトランプ政権誕生、イギリスのEU(欧州連合)離脱など、人類史に残る数々の出来事を予言してきたフランスの学者、エマニュエル・トッド氏に中国の行方を聞いた。(本記事ではトッド氏へのインタビューの一部を抜粋、全文は7月19日発売の『週刊東洋経済』に掲載)
中国共産党の唯一の正当性はナショナリズム
──7月1日に中国共産党が創立100年を迎えました。
中国共産党の成功には多くの理由があり、共産党の正統性というのが、第2次世界大戦後の中国国家の独立と関係していることなどが挙げられる。
エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)/1951年フランス生まれ。ソルボンヌ大学で歴史学を学んだ後、英ケンブリッジ大学で博士号取得。各国の家族制度や識字率、出生率、死亡率などに基づき現代政治や社会を分析し、ソ連崩壊やアラブの春、トランプ米大統領誕生、英国のEU離脱などを予言。『経済幻想』『帝国以後』『シャルリとは誰か?』『グローバリズム以後』など著書多数(週刊東洋経済編集部撮影)
今日まで共産党という名称は変わっていないものの、その意味は変遷してきた。そもそも共産党は、中国の家族文化そして社会文化に内包されている平等という価値観に基づいていた。
やがて官僚制度的な側面を強め、指導者グループを選択するマシンとなっていった。今日では共産党に入党するというのは、革命的な思想からではなく、あくまで社会階層を上り詰めるためである。
このような意味において、今の中国における共産党の根本的な価値、またその唯一の正統性はナショナリズムだ。中国共産党は中国ナショナリズム党ともいえる。
──専門の家族構造から見た、中国社会の特徴とは。
家族構造の専門家として、これまで中国の民主化をまったく信じてこなかった。中国の家族構造は、強い権威に基づいた共同体家族構造であり、同時に強い平等の価値観も持っている。同じ家族構造カテゴリーに属するほかの国などと比べても、中国はその特徴を強く備えている。
また、権威と平等の価値観は共産主義の基本的な価値観でもある。そのため、中国で共産主義が成功した。
この家族構造があるからこそ、中国では権威主義と、「ネオ・全体主義」と私が呼ぶものが生き延びたと考えられる。
「中国が世界を支配するというのはありえない」
──50年までを見据えたうえで、中国について考えられるシナリオを教えてください。
まず、中国が世界を支配するというのはありえないと思っている。また、中国の高齢化はさらに深刻化していくだとか、それに伴って生産年齢人口が減少する、成長にもブレーキがかかる、などというのは一般論としては簡単に言える。
しかしそれを超えたところでの予見となると、中国にはまだまだ不確実な側面が多すぎる。中国が直面している、少子高齢化という人口危機が、いったいどれほど深刻なものになるのかはまだわからないというのが正直なところだ。
日本やドイツなどが人口減少という危機に直面したとき、日本は生産の一部を中国などに移したり、ドイツは移民を受け入れたりしてきた。しかし中国のとてつもない人口規模を踏まえると、同じような解決策は通用しない。
──巨大な人口規模のため、社会が変化に柔軟でないと。
不確実にしている要素として、中国の社会システムの硬直化、権威主義的な側面の台頭、そしてある種の愚かさが挙げられる。
あるイギリスの経済学者がロシアの社会システムについて、「構造的に導き出される愚かさ」と表現したことがある。中国を脅かすものは人口の落ち込みに加え、全体主義的で権威主義的な官僚システムという構造自体がもたらす、規模の大きな愚かさでもある。
しかし、この点を数値化するのは非常に難しい。だから今は謙虚な態度ではっきりと、「中国の将来についてはわからない」と言うべきだと思っている。
『週刊東洋経済』7月24日号の特集は「2050年の中国」です。