一日二回でも一期一会!

10日、久々に癒しの時間を得た思いがしました。横浜で行なわれている羽生結弦氏も出演するドリームオンアイス公演。これを一日に2回も生中継で見られるというありがたい時間を持つことができ、大いに「元気」が沸き起こりました。隙あらば心にスーッと暗い影が降りそうになる瞬間も、それをかき消すように羽生氏の滑りが清め、心に「元気」をチャージしてくれる。ありがたいことだなと思います。

昼公演はここぞという日のために貯蔵してあるペヤングを開け、夜公演はやはりここぞという日のためのワインを飲み、贅沢に過ごした僕。その贅たるやまさに五輪貴族級のものがあるでしょう。五輪貴族だって、ここぞという日はやっぱりペヤングだと思うんですよね。ワインのつまみは生ハムだと思うんですよね。これぞお茶の間アリーナ席の特権だなと思います。

↓本日も中継よろしくお願いします!

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オープニング、日本を代表するスケーターたちの登場の最後に、トリとして登場してきた羽生氏。白いVネックのTシャツにデニムパンツという、普段着風の姿。気づく人は大したものだなと思いますが、この日着ていたTシャツは20歳の頃に福島県を訪問した映像でも同じものが映っているのだとか。リアル同じ物なのか、同じ柄リピートなのかはわかりかねますが、節制&体型の維持という面でも、変わらぬ愛着という意味でも、物持ちの良さという意味でも、またひとつ「ほぇぇ」と驚かされます。

羽生氏などわりと汗をかくほうだとお見受けしますが、白Tの維持というのは毎日を丁寧に暮らしていないと絶対に無理じゃないですか。仮に誰かが洗濯してくれるのだとしても、ついつい出し忘れたりするじゃないですか。そして一発で黄ばむという。僕などは早々に白Tの維持は諦めて「よれたり黄ばんだりしたら新しいのを買う」「一番大事な白Tは着ない(本末転倒)」というスタイルでやり繰りしているのですが、アレがリアル同じ物だとしたら最低6年も丁寧な暮らしをやり通しているわけでしょう。伊達にボールドのジェルボールを愛用していないなと感嘆します。

現地だとここまでは見えなかったであろうデニムパンツの腰回りの白いかすれなども、日常の使用感があって「至福の私服」というところがしっかりと伝わってきます。日常感をまとったままイケ散らかし、観衆とコネクトしていく姿は「会いに行ける羽生氏」といったところ。選手側からの「コネクトしたいんだ」という意志が伝わってくるのが、やけに嬉しい日でもあり、ちょっと泣きそうな気持ちにもなります。昼公演のオープニングでは「終わり」のあとのタイミングで肩をすぼめてみたり、夜公演のオープニングでは「ベルトが長過ぎるのか」「ウエストが細過ぎるのか」外れたベルトを入れ直すところが見られたり、テレビを通じてだけ楽しめる細やかな要素も堪能させてもらいます。

映画『ハイスクール・ミュージカル』の「We're All In This Together」にあわせたオープニングの群舞は、「みんなでひとつになろう」というメッセージを込めたこの曲を選んでくれたことにも、今こういうときだからこそ心温まる思いがします。そして、この群舞だけを見ても、踊りのキレや振り付けに対する羽生氏の徹底ぶりはさすがの高次元だなと唸ります。単純なことですが、手を挙げるところはしっかり挙げるとか、足を伸ばすところは真っ直ぐ伸ばすとか、そういうひとつひとつを小さな振り付けでも当たり前のようにやっているのは、まさに「お手本」だなと思います。振り付けはそれぞれが極めればよいことですが、「細部までしっかりやるんだ」という姿をリーダーが全員に背中で示すことは、日本のスケート界にとっても素晴らしいことだなと思います。メジャーリーグやサッカー欧州選手権、テニスウィンブルドンなど世界のスポーツが人々に明るい話題を届けるニュースを見守るなか、日本には羽生氏がいてくれる。いてくれることが、とてもありがたく、救われます。

↓このときに着ていたTシャツを引きつづき愛用していると!


↓よく見ると、今回着用した白Tにはラインストーンがついてるのですね!

「みんなたまには私服も見たいでしょ?」というサービス精神から生まれた「至福の私服」!

ノーメイク風メイクみたいな感じのアレですね!



今季の新プログラムを披露する選手たちがつづくなか、大トリとして登場する羽生氏が選んだ演目はToshIさんとの共演で生まれた「マスカレイド」。一日二回でも一期一会の演技をたっぷりと堪能させてもらいます。昼公演で見せたトリプルアクセルは、もしも試合だったならGOEオール+5が出たのではないかと思う出色のデキ。心なしか幅よりも高さがより強く出ているように見えるのは、4回転アクセルを目指している練習成果の表れでしょうか。「4Aへの道の途中にある3A」といった雰囲気をまとうジャンプだったなと思います。

試合では構成上見せる機会が多くないトリプルフリップや、手を挙げてタノジャンプとするディレイドアクセル、仮面の男の苦悩の表情を作る場面など、試合ではなかなか見られないような要素を備えた演目は、「癒される」系の演目ではないものの、楽しく、前向きな気持ちにさせてくれます。手袋をリンクに「びたーん」と投げつけるラストが、昼公演では手袋がいい感じにボール状になったことで「ばいーん」と遠くに跳ねていった場面もあり、ちょっと笑ってしまうような楽しい瞬間にも遭遇できました。「めっちゃ跳ねたなw」と。素晴らしい選手の、素晴らしい演技を見るというのは、やっぱりとても素晴らしいことだよなと改めて実感しました。絶対に見たいものだよなと。やる価値のあるものだよなと。

僕はテレビ桟敷なので「ほぇぇぇ」とか「ぬぅおぉぉ」とか言いながらワインを傾ける貴族スタイルですが、この演技をあの静寂で見守った現地民は大変立派だったなと思いました。あれを見せられて、すぐ目の前を羽生氏が通って、近距離から心臓をえぐってくるというのに、不動の姿勢で静寂を貫いていた姿は、「日本の観衆」の素晴らしさを改めて示すような場面でした。全世界に見せたいくらいでした!

↓この羽生氏が目の前に来たら、無発声を貫く意志があっても「ひっ」とか「あっ」とか声が漏れそう!

現地に集うために必要であるならば、しっかりとやる!

そんな観衆たちに感謝です!



演技自体はもちろんですが、もうひとつ印象に残ったのは最後のエンディングでした。出演スケーターが改めて集合し、それぞれの得意技を披露して「ご挨拶」的な感じで締めくくるわけですが、ここでも羽生氏は昼も夜も熱い感謝を届けてくれています。「エンディングの音楽すら口ずさみながら音ハメする」という一切の妥協も隙もない追求具合は、最後の最後の瞬間まで貫かれていました。

周回での挨拶を終えて舞台裏に引き上げるとき、基本的には会釈、あるいは手を広げるくらいで終わりで、ときには反転する程度でスーッと帰っていく選手もいます。挨拶はもう周回で済ませているので、それはそれでいいと思いますが、羽生氏は自分の姿が消える最後の瞬間まで「エンターテイン」を忘れません。昼公演ではかっこいいお辞儀のあとに手招きするようなイケ散らかしを見せ、夜公演ではバキューンと拳銃のポーズでイケ散らかしていきました。羽生氏はいつもそうですが、特にこの日はそういう姿が胸に迫ってくるような気持ちで、最後の瞬間を見ていました。

最初の一瞬から、最後の一瞬まで。

それが羽生結弦というスケーターであり、この困難な時代にこそより強く求められる所以だろうなと改めて思います。これぐらいでオーケー、というラインを越えた先で「本当に?」「まだできることはないかな?」「これでは満足できない人もいるのでは?」と自分を客観的に見ながら何度も磨き上げることが、生活の一部となっているのでしょう。それは演技にも当然現れますし、言動にも滲み出ています。この正解が見えない難局にすら「行き届く」心地よさがあります。

その行き届いた心地よさが、何よりも今はありがたく思います。素晴らしいなぁと思うだけで、ただただ見とれるだけでいい時間が、そこにはあるのですから。テレビでもいいですし、幸運があれば現地でも、そうやって見とれる機会を逃さないように、引きつづき健康を保ってしっかりと過ごしていきたいなと思います。未来にはたくさんの楽しみがあり、そのためにできることはまだまだあるわけですから。「4回転アクセルの歴史的証人になる」を近い未来の目標のひとつとして置き、元気に過ごしていきたいものです!


本日の最終公演も、最後の一瞬まで引きつづきイケ散らかしちゃってください!