『いらっしゃる』 は、『行く』『来る』『居る』の尊敬語です。もともとは身分の高い人に対して使う表現で、『入らせられる』が語源とされています。『いらっしゃる』の正しい使い方や言い換え表現を学びましょう。

「いらっしゃる」とはどんな言葉?

日本語には多くの敬語表現がある中で、使い方を間違えやすい敬語として挙げられているのが 『いらっしゃる』 です。一つに複数の意味があり、さまざまなシーンで使われます。

語源は「入らせられる」

『いらっしゃる』の語源は、『入らせられる(いらせられる)』です。『いらせられるが』『いらせらる』に縮まり、音が変化して現代の 『いらっしゃる』 になったといわれています。

『いらせられる』は動詞『いる』の未然形(活用形の一つ)に、尊敬の助動詞『す』と『られる』が付いたものです。

『行く』『来る』『居る』の尊敬語で、元々は身分の高い人に使用される言葉でした。現代では相手に敬意を示す語として、さまざまなシーンで使われています。

また「先生は講義をしていらっしゃいます」のように、『いらっしゃる』には『尊敬語の補助動詞』としての働きもあります。補助動詞とは本来の意味が薄まった動詞のことで、別の動詞の後に続けることで意味をなすのが特徴です。

敬語の種類は「尊敬語」

敬語の種類は、尊敬語・謙譲語・丁重語・丁寧語・美化語の五つです。『いらっしゃる』はこのうちの尊敬語に分類されます。

尊敬語とは相手または(話に登場する)第三者の行為や状態について、その人物を立てて述べるものです。

行為の代表的な尊敬語には、『いらっしゃる』『おっしゃる(言う)』『なさる(する)』『くださる(くれる)』などが挙げられます。

『お手紙』『お忙しい』『御社』のように、行為以外の状態や物事にも尊敬語があります。

謙譲語は自分がへりくだることで、相手の立場を高める敬語です。尊敬語と謙譲語は間違えやすいので、違いを覚えておきましょう。

参考:敬語の指針 P.14|文化庁

「おられる」も同義で使えるか

『おられる』は『おる(居る)』に、尊敬語の助動詞『られる』が付いたものです。

尊敬語『いらっしゃる』よりも敬意の程度は低くなりますが、「部長は会議室におられます」「〇〇さんは、以前この部署で働いておられました」というように、社内やビジネスシーンで問題なく使えます。

ただし『おる』を『「居る」の謙譲語』とする説もあるため、使用する際は注意が必要です。謙譲語の『おる』+尊敬語の『れる』が重なり、誤った用法と考えられることもあります。

本来「先生はおられますか」は誤った表現ではありませんが、誤用と捉えられる可能性もあるので、ビジネスシーンでは「先生はいらっしゃいますか」に言い換えるのがベターでしょう。

正しく使うための知識

『いらっしゃる』には複数の意味があります。使い勝手のよい敬語ですが、用法を誤る人が多いのも事実です。間違い例を挙げながら、正しい用法を確認しましょう。

「いらっしゃる」の意味は三つ

いらっしゃるには『行く』『来る』『居る(ある)』の三つの意味があります。文脈によって「誰が・誰に対して敬意を表しているか」が変わる点に注意しましょう。

目の前の相手に「展示会にはいらっしゃいますか?」と尋ねるときの『いらっしゃる』は、『行く』の意味です。「行く」というの動作の対象は「聞き手(会話の相手)」なので、聞き手に対する尊敬表現といえます。

一方「鈴木さんがいらっしゃいました」と上司に来客を伝える場合、いらっしゃるは『来る』の意味になります。この場合、尊敬の対象は会話の相手ではなく『鈴木さん』です。

ビジネスシーンでは「明日は家にいらっしゃいますか?」「田中さんは、前から2番目に座っていらっしゃる方です」など、『居る』『ある』の尊敬語として使われるケースも少なくありません。

自分や身内に使うのは誤り

『いらっしゃる』は動作をする相手を高める尊敬語です。くれぐれも自分や身内に対しては使わないようにしましょう。

特にビジネスシーンでは、社内の人間に対して『いらっしゃる』を使ってしまう人が多いようです。

商談の際クライアントに対し、「30分後に社長がいらっしゃいます」と言うのは誤りです。社長はこちら側の人間であるため、尊敬語は使えません。『来る』の謙譲語『参ります』を使いましょう。

電話をかけてきた相手に対し「部長はただいま外出していらっしゃいます」というのもNGです。「部長はただいま外出しております」と伝えましょう。

意味別の言い換え表現

『来る』『居る』『行く』を意味する『いらっしゃる』は、それぞれ別の表現に言い換えることができます。ビジネスシーンで使うにはあまり相応しくない表現もあるため、使い方の注意点も覚えておきましょう。

「来る」の意味で使える尊敬語

『来る』の尊敬語には、『お見えになる』があります。いらっしゃるよりも敬意の程度が高く、丁寧な印象を与えます。

「鈴木さんがお見えになられました」と言う人もいますが、『お見えになられる』は間違いです。『お見えになる』という言葉自体が尊敬語なので、尊敬語の『なられる』を付けると二重敬語になってしまいます。

『お越しになる』『おいでになる』『来られる』に言い換えることも可能です。

来られるは『来る』に尊敬語の『られる』を付けた敬語表現ですが、敬意の程度はあまり高くありません。ビジネスシーンでは別の表現を使うのが好ましいでしょう。

「居る」の意味で使える尊敬語

『居る』を意味する場合の『いらっしゃる』は、『おられる』に言い換えができます。「鈴木さんはいらっしゃいますか?」は「鈴木さんはおられますか?」と同じ意味です。

ただし『おる』を尊敬語・謙譲語どちらと取るかは、人によって違いがあります。「おられる」と言うと誤った敬語と見なされる可能性があることを覚えておきましょう。

『おられる』をさらに丁寧にした表現に『あられる』があります。「先生は科学者であられます」といったように使いますが、通常は王族や皇族・学者などの高貴な存在に使われる表現です。ビジネスシーンでは相応しくありません。

「行く」の意味で使える尊敬語

『行く』の尊敬語には、『行かれる』『お行きになる』『おいでになる』があります。

『行かれる』は一般動詞の『行く』に、尊敬語の『れる』を付けた敬語表現です。『来られる』と同様、敬意の程度はあまり高くありません。

『お行きになる』は、尊敬語の『お〜なる』を使った表現です。敬語の使い方としては間違いではありませんが、あまり一般的ではないため人によっては違和感を覚える可能性があります。

『おいでになる』には『いらっしゃる』同様、『来る』『行く』『いる』の三つの意味があります。どの意味にあたるのかは文脈から判断しましょう。

・週末の親睦会においでになりますか?(行く)
・明日は自宅においでになりますか?(居る)
・そろそろおいでになる頃だと思っていました。(来る)

まとめ

『いらっしゃる』には『行く』『来る』『居る』という三つの意味があります。それぞれ別の敬語表現に言い換えられますが、ビジネスシーンでは『いらっしゃる』で表現した方がしっくりくるケースが多いでしょう。

身内や社内の人間に対しては『いらっしゃる』を使えませんので注意しましょう。