キユーピーや味の素はマヨネーズの値上げに踏み切った。キユーピーの値上げは8年ぶりとなる(記者撮影)

7月1日以降、スーパーなどの店頭に並ぶマヨネーズの値段が順次上がる。値上げの主な理由は原料価格の高騰だ。

キユーピーは、容量などに応じて出荷価格で約2〜10%の値上げを行った。 主力商品『キユーピー マヨネーズ450g』の参考小売価格(税込み)は、378円から402円と6%上がる。味の素でも、家庭用・業務用のマヨネーズ製品の出荷価格を約1〜10%値上げした。

マヨネーズの主な原料である食用油価格の高騰を受けて、2社は値上げに踏み切った。価格高騰の背景には、原料となる大豆など穀物の世界的な供給不足がある。

中国など主産地の天候不順で生産量が減ったうえに、コロナ禍による渡航制限で労働力が不足し収穫量も減少。国際商品先物市場における大豆価格の高騰も要因として挙げられる。

なお、食用油と並ぶマヨネーズ主原料の鶏卵も価格が高騰している。国内における鳥インフルエンザの感染拡大で多くの鶏が殺処分されたことなどが原因だが、今後は羽数の回復に伴い価格も落ち着くと見られている。そのため、今回のマヨネーズの値上げ理由には含まれていない。

値上げと値下げの繰返し

キユーピーでのマヨネーズ値上げは、2013年7月以来で8年ぶりのこと。前回の値上げも食用油の国際価格上昇が理由だった。当時は参考小売価格を約4〜9%値上げ。『キユーピー マヨネーズ500g』は、参考小売価格(税抜き)が357円から382円と7%上がった。

原料価格は上下するので、下がったときには値下げも行われる。キユーピーでは1925年にマヨネーズを発売。その後、戦後だけでも14回の値上げと、24回の値下げを行ってきた。ただ、1995年以降でみると、2009年に一度値下げを挟んでいるものの、価格は徐々に上がってきた。

2021年4月に公表した今回の値上げに関するリリースには、食用油の価格推移について、「前回の価格改定時期(2013年7月)を超える高値で推移し、今後も上昇する見込み」と記されている。実際、足元でも食用油の高騰は続いている。また、原油価格の上昇で輸送コストが圧迫されている。人件費も長期的には上がる一方で、今後も懸念材料は多い。

ただ、さらなる値上げについては現状、各社ともに慎重な姿勢だ。理由は消費者の価格感応度の高さにある。

企業からすると、値上げ分の利益を回収できるのは、値上げによる販売数量の落ち込みを克服した後。しかし、その間に値上げを行わなかったライバルメーカーの商品に消費者が流れてしまうリスクがつきまとう。

販売数量の回復には時間を要する。キユーピーでは2013年の値上げの際、「お客さまの値頃感が追いつくまでに一定の時間がかかった」(広報)という。

食用油を使う食品は、パンや即席麺、チョコレートや米菓、スナック菓子など多岐にわたる。スナック菓子大手のカルビーは6月30日、秋から「じゃがビー」や「フルグラ」で価格改定や容量変更を行うとを発表した。食用油だけでなく、オーツ麦やココナッツ、じゃがいもなどの原料高騰や、コンテナ不足による物流費高騰の吸収が難しくなったためだ。

これらの原料コストの上昇に悩む食品メーカーは多いが、消費者離れのリスクを恐れて値上げに二の足を踏む企業も多い。そのため、価格は据え置きするものの容量を減らして実質的な値上げを図る「ステルス値上げ」を行う企業もいる。

ある菓子メーカーでは、生産ラインの見直しなどできる限りのことをしたうえで、今夏以降にステルス値上げに踏み切ることを決断した。商品名を聞けば、誰もが知っていると言っていいほど有名な商品だ。

値上げをすると、その影響で売り上げ減少が1年ほどと長引くが、内容量の変更であれば2〜3カ月程度で済む」。ステルス値上げを選択した理由を菓子メーカー関係者はそのように明かす。

過去にステルス値上げを行ったことのある同業他社からは、その選択を擁護する声が聞かれる。「安さが魅力となっている商品の場合、値上げよりも容量減のほうが影響を最小限に抑えられる」。

ステルス値上げにはリスクがある

だが、ステルス値上げには特有の懸念がある。スーパー関係者が指摘するのは「SNSでのハレーション」リスクだ。消費者が内容量の減少に気づきSNSなどで情報を拡散すれば、食品メーカーの予想を超えて売り上げが下がってしまう。売り上げの減少はスーパーなどの小売業者も避けたいところだ。

ステルス値上げの是非についてキユーピーは「非公表にしなければならない情報とは考えない」としたうえで、「一度でも行うと、消費者から『そういう会社なんだな』と思われるリスクがある」と話す。味の素も「原則的に製品の値上げは公表する」という姿勢だ。「値上げの公表は消費者から『ステルス値上げよりはよい』との反応がある」とも話した。

原材料の高騰と消費者の節約志向。食品メーカーはこれまで以上に両者の間で板挟みになりそうだ。