NTTドコモがドコモショップを営む代理店に対し、不利な条件変更を強いたことがわかった(記者撮影)

「主要項目の営業評価が、4月までノルマ達成率120%で満点だったのに、5月から突然、220%以上取らなければならなくなった。ドコモは代理店がどう頑張ってもインセンティブを削って、多くの店を潰すつもりだ」。ドコモショップを営むある代理店幹部は、そう怒りをあらわにする。

携帯大手のNTTドコモが代理店に対し、インセンティブ(販売成績などに対する報奨金)の大幅減に直結する条件変更を通達していることが、複数の代理店関係者への取材でわかった。これによって、ショップあたり年間数千万円以上の減収になる可能性もある。

携帯大手が実施している数々の代理店施策を巡っては、公正取引委員会が6月10日に公表した実態調査報告書の中で、「優越的地位の濫用で独占禁止法違反の恐れがある」と指摘したばかり。

今回、ドコモは一方的かつ急激な変更を代理店に強いているとみられ、専門家は「明らかな独禁法違反だ」と断言する。

インセンティブの成績評価を大幅変更

くだんの条件変更は、ドコモが毎月、代理店に送る得点評価シートに基づく「営業活動インセンティブ」で実施された。このシートでは、複数ある評価項目を足すと全部で100点満点となり、90点以上ならランクA、そこから10点刻みで7段階にランク分けされ、最低評価は40点未満のランクGとなる。

ドコモはこのランクに、ショップが月間でどれだけ端末を販売したかの台数評価を掛け合わせ1カ月当たりのインセンティブ支給額を決めている。とくに重要なのはランクのほうだ。販売台数が同じでも、1つランクが落ちるだけでインセンティブは最大で月間200万円超下がることもある。

このランクを決める評価項目は8つある。100点満点のうち、最も配点が高いのが「ポートイン販売」(他社からの乗り換えや新規の通信契約を伴う端末販売)で30点。これに「マイグレーション販売」(ガラケーからスマホへの乗り換え)の27点などが続く。

ドコモはそれぞれの項目に対し、店舗ごとに実績を基にした目標数(ノルマ)を設定。その達成率によって点数が決まる仕組みだ。ドコモは5月以降、この点数獲得の難易度をいきなり大幅に引き上げた。

東洋経済が入手したドコモの内部資料によると、例えば「ポートイン」の項目は、4月は達成率120%で満点の30点、100%で20点とされていた。それが5月からは突然、220%達成でやっと満点の30点、100%〜130%だと8点しかもらえない形となった。ほかの項目でも、得点獲得の難易度が軒並み引き上げられている。

その結果、ショップは従前と同じレベルの目標達成率では獲得できる点数が下がり、つれて店舗ランクが4〜5つ下がることになる。6月には一部項目の基準がさらに厳しくなった。

この評価シートは対象月が始まる3日ほど前にドコモ側から一方的に送られてくるといい、ある代理店関係者は「前触れもなく基準を変えられると、何を基に事業計画や戦略を立てたらいいのかわからない」と話す。

コスト抑制に邁進するドコモ

評価水準の「激辛化」の背景にあるとみられるのが、コスト抑制策を進めたいドコモ側の都合だ。ドコモは2022年3月期の業績見通しで、モバイル通信収入が前年度より622億円下がると予想する。3月26日からオンライン専用の格安プラン「ahamo(アハモ)」を導入したことによる減収影響が手痛いためだという。

それでもドコモは、通信事業の営業減益幅を111億円にとどめることを計画する。売上高のマイナス分に加え、減価償却費と通信設備使用料が各200億円ずつ増える前提が示されているため、単純計算で900億円程度の増益要因がなければ、111億円の減益計画を達成することは難しい。

5月13日の決算説明会でアナリストからこの点を突かれると、ドコモの廣井孝史・財務担当副社長は、「通信事業の減収要因はコスト効率化でカバーしていく予定で、販売チャネルのデジタル化や、当社業務全般のデジタル化等がキードライバーとなる」と答えている。

つまり、モバイル通信収入の減収分を打ち返す大きな押し上げ要因がコスト削減で、代理店はそのターゲットにされているようだ。

だが、実はドコモには春先、ある誤算が生じていた。代理店関係者によると、4月は各代理店が出張販売を強化するなどした結果、高い営業成績で上位ランクを獲得するショップがドコモの想定以上に出たというのだ。そこでドコモは計画通りにインセンティブにかかる費用を抑えるべく、代理店評価の難易度を一気に上げたものとみられる。

「インセンティブ」というと、あたかもドコモが代理店に任意で出すボーナスのように聞こえるが、実態はそうではない。

ドコモは代理店に対し、iPhone12などほとんどのスマホ端末を、ドコモが決めている定価と同額で卸している。言ってみれば原価率100%であり、代理店は純粋な端末販売で利益を出せない構造だ。

そうした条件下で、代理店の利益の柱になっているのがドコモからのインセンティブだ。ドコモは代理店が稼いだ収益を一度総取りしたうえで、自社が作ったルールに従って分配している。つまりインセンティブには、本来代理店が当然に得るべきお金が多分に含まれている。

上述してきた営業活動インセンティブのほかにもインセンティブは数種類あるが、その総額は代理店の経営を大きく左右する。代理店関係者は「インセンティブを大幅にカットすれば撤退せざるをえなくなる店が出てくる。ドコモが評価を厳しくしたのは、ある程度の数のショップを閉店に追い込んでコストを減らす狙いだろう」と憤る。

フランチャイズ問題に詳しい中村昌典弁護士は、ドコモのこうした施策について、「代理店にとってインセンティブが大きな利益の源泉であることを踏まえると、評価基準の勝手な変更は一方的な対価の切り下げであり、独禁法違反の優越的地位の濫用そのものと言える」と指摘する。

ドコモ「適正な水準となるよう設計」

携帯電話は老若男女が使うインフラだけに、ドコモが厳しい評価設定を代理店に押し付けることによる現場の無理販売の誘発と、それによる消費者への不利益も懸念される。例えば「マイグレーション」の評価を厳しくすることは、ガラケー利用で十分な高齢顧客に対し、ショップが無理にスマホへの機種変更を勧めるなどの問題につながりそうだ。

ドコモ広報部の福岡真美担当部長は一連の問題に関する東洋経済の質問に対し、「一部の販売成果に応じたインセンティブについては、その水準を市場環境の変化に合わせる必要があることから、全体的な販売進捗や各店舗の平均達成率を踏まえて適正な水準となるよう設計し、評価月が始まる前に代理店向けに説明を行っている」と説明する。

だが、複数の代理店関係者は「今回の基準変更については、事前に何の説明もなかった」と異口同音に証言する。内容から見ても、ドコモが代理店の納得を得て評価水準を変更したとは考えにくい。

公取委は実態調査報告書の公表から4日後の6月14日、ドコモを含むキャリア3社に対し、代理店との取引を自主的に改善して報告するように求める行政指導を行った。だが、彼らに自浄作用があるのかは甚だ疑問だ。