リクナビの退潮鮮明、「就活サイト」の人気が一変
就活生が利用する新卒向け就職サイトの人気に近年異変が起きているようだ(写真:ソライロ/PIXTA)
今回は就職サイトについて考えてみたい。新卒向けの就職サイトは就活サイト、就職ナビと呼ばれることもある。
現在は多数の就職サイトがあるが、大学のキャリアセンターのガイダンスで学生に登録が推奨される代表的な就職サイトは、「マイナビ」、「リクナビ」の2つである。他の就職サイトも紹介されているが、説明文はさらっとしているのに対して、マイナビ、リクナビの説明は詳しく、どちらか、あるいは両方の登録を「必須」とするキャリアセンターが多い。
代表的存在だったリクナビが…
企業情報の掲載数の多さだけでなく、就職ガイダンスの一部をこれらの運営会社に委託していることも多く、その見返りという意味合いもあるかもしれない。また、両サイトを「就職サイトの双璧」とする記事もよく見かけた。
ところが、近年異変が起きているようだ。HR総研と楽天みん就が3月に行った「2022年卒学生の就職活動動向調査」によれば、マイナビの地位は不動だが、リクナビの退潮が明らかになった。そして、2位に躍り出たのは「ONE CAREER」だ。
現在の学生や20代の若手人事にとって、リクナビは数ある就職サイトのひとつにすぎないかもしれない。しかし30代以上で長らく新卒採用に携わってきた人間にとって、かつてのリクナビは就職サイトを代表する存在だった。その凋落に驚く者は少なくないはずだ。
就職サイトの歴史を振り返ってみよう。草創期から発展期にかけて多くの動きがあったが、繁雑なのでリクナビとマイナビを中心に書くことにする。
日本でインターネットを一般の人も利用するようになったのは1995年以降のことだ。その頃に新卒向け就職ガイド誌を発刊していたのは、新聞社を除けばリクルートを筆頭に10社もなかった。毎日コミュニケーションズ(現在のマイナビ)もその1つだったが、リクルートとの差は圧倒的だった。
両社ともに1995〜1996年に就職サイトを立ち上げたが、利用する学生はそんなに多くなかった。大学の研究室はインターネットとつながっていたが、就職課(キャリアセンターという名称はなかった)にもインターネットに接続したPCは置かれていなかったし、個人がPCでネット接続することは面倒だった。1980代後半から、主に文字情報のやりとりにパソコン通信がすでに利用されていたものの、利用者は限られていた。
2000年前後に状況は変わる。ブロードバンドと呼ばれる接続環境が普及した。接続環境の改善とともに、徐々に就職サイトが就職ガイド誌にとって代わって、新卒メディアの基幹サービスになる。
その最大サイトがリクナビ、2位がマイナビだった。他にも新卒向け就職サイトはあったが、この2つのサイトとの差はかなり大きかった。また当時は「リクナビ、マイナビ」と呼び、巨大なリクナビが最初にあり、次にマイナビというイメージがあった。
就職サイトの功罪
2010年代に入ると社会におけるネットの重要性はさらに高まっていく。
2010年頃はスマートフォンが普及し始めた時期であり、2011年の東日本大震災を契機にSNSの利用も広がった。大学の就職ガイダンスでも就職サイトの利用を推奨し、まず登録するべき就職サイトとしてリクナビとマイナビが推奨されていた。しかし、この頃でもリクナビが上位サイトとして認識されていたと思う。
また、この頃より就職サイトによる問題が顕在化していった。学生はリクナビやマイナビという巨大メディアが提供する情報に食いつき、多くの学生のプレエントリー数は80〜100社に上った。「就活は情報戦」と学生を指導することがあるが、この頃の学生は就職サイトの画一的な情報によって踊らされていたのだ。
ところが、現在のプレエントリー数は20〜30社程度へと絞り込まれている。たぶんその背景に学生の企業研究が進んだことがある。2010年のころの学生は焦って就職サイトを閲覧し、とりあえず、急いで、どこにでもエントリーしていた。現在の学生は、インターンシップ以前から企業研究を始め、インターンシップで実体験を積み、口コミ情報やエントリーシートの模範例を読んで就職活動をしている。
大学受験と似ているかもしれない。どの大学に進学するか、そのために補強すべき科目は進学担当の先生が指導してくれるし、これまでの問題集も大学別に刊行され、傾向と対策を講じることができる。就活でも先輩の成功例、失敗例を読み、自分なりの戦略を立て、戦術を実行できる。そういう情報を提供する就職サイトがこの数年に存在感を増している。
2022年卒学生が「もっともよく活用する就職サイト」としてあげたのは、文理ともに「マイナビ」が圧倒的で49%(文系)、41%(理系)となっている。
リクナビが3位に後退
従来の調査ではリクナビとマイナビがトップを争い、この数年はマイナビが優位でリクナビは理系で強みを見せていたが、2022年卒でリクナビは急落して文理ともに13%にとどまっている。マイナビの3分1以下だ。順位は文理ともに3位に後退した。
代わって2位には、文理ともにリクナビを抜いてONE CAREERが入った。特に目立つのは、旧帝大クラスにおける活用率の高さだ。
大手企業やメガベンチャー企業の情報が多く掲載されるONE CAREERの特徴がよく表れており、前年に合格したエントリーシートや内定者の体験談が人気の理由だ。今回の調査では文系と理系の順序が1〜5位まで同じである。4位は「楽天みん就」だが、この調査は楽天みん就の会員学生を対象としているので、高く評価されるのは当然だ。そして5位は「OfferBox」。近年利用学生が増えている逆求人型スカウトサイトである。
2022年卒学生が「最も活用した就職サイト」の結果から「現代就職サイト事情」がわかる。
・まずマイナビが首位を固め、2位以下との差が大きい
・次に就職メディアの王座として君臨してきたリクナビがついに凋落した
・3番目は2015年設立のONE CAREERがリクナビを抜いて2位に躍進した
・4番目は逆求人型サイト(OfferBox、キミスカ、iroots)が目立つ
・5番目は老舗就職サイトの凋落。キャリタス就活やダイヤモンド就活ナビもリクナビ、マイナビと同じくらいの歴史を持つ就職サイトだが、凋落傾向が続いている
利用する理由についてのコメントを読むと、就職サイトの強みがわかる。マイナビは、「使いやすい」「わかりやすい」「多くの企業が探せる」と操作性と企業数に対する評価が高く「適性検査の練習ができる」、「マイナビ上でエントリーができ、企業から返信も来るから、使い勝手がいい」という声もある。
また、マイナビの地位は固まっており、「いちばん有名」「いちばん信用性がある」と信頼されている。そして、「大学の就職活動準備講座で勧められ、最初にインストールしたため、そのままいちばん使っている」や「マイナビは学校から最も勧められていて、最初に登録したものであることや、通知も多く助けられているため」というコメントから、就職ガイダンスで利用を推奨されていることがわかる。
ONE CAREER・リクナビの評価
ONE CAREERを支持する学生は旧帝大クラス、早慶クラスが多い。「洗練されている」「充実している」「参考になる」と実践的な情報に対する評価が高い。
「内定者のエントリーシート(ES)やインターンシップの参加後のレビューなどが見やすくて情報が多い」、「先輩の選考経験談やES提出例、企業別特徴がまとめてあるので、大変役に立っている」、「いちばん情報が洗練されている」、「ESや面接体験談が充実している」は、いずれも旧帝大クラスまたは早慶クラスの学生のコメントだ。
リクナビに対する評価はマイナビに似ており、「使いやすい」「有名だから」「信用できる」というコメントが多い。しかし、掲載企業には違いがあり、中小企業が多い。「マイナビよりリクナビのほうが多く中小企業が載っている」、「マイナビにはない中小企業なども多く見つけることが可能だと感じた」。
「メーカーの掲載数が多いから」というコメントもあり、メーカーに強く、中小企業が多いというリクナビの特色がわかる。ただコメントには、ONE CAREERへのコメントのような熱意は感じられない。また、マイナビで目立った「大学からの推奨」という言葉は少なく、言及したコメントは1つだけ。マイナビに比べると、リクナビを推奨する大学は少なくなったようだ。
リクナビを推奨する大学が少なくなった原因は、2019年8月に問題化した「内定辞退率予測サービス」の一件にあるだろう。これはリクナビを運営するリクルートキャリアが、内定を辞退しそうな学生をAI予測するサービスを企業に提供していたもの。
2019年秋に複数の大学キャリアセンターを取材したが、リクルートに対する不快感を示す関係者がほとんどだった。
2019年11月に「いま就活生に人気の『就活情報サイト』はこれだ 『ONE CAREER』『就活会議』…新興勢力が台頭」という記事を書いている。
HR総研が「楽天みん就」と共同で2020年卒の就活生を対象に行った「就職活動動向調査」(2019年6月実施)をもとにしており、「内定辞退率予測サービス」が問題化する前の調査だ。この調査で「最も活用した就職サイト」の文系はマイナビ38%、リクナビ27%、理系はリクナビ38%、マイナビ29%だった。わずか2年前のことだが、現在のリクナビは文理ともに13%と大きく後退してしまった。
楽天みん就・OfferBoxの長所は?
4位の楽天みん就と5位のOfferBoxへのコメントも紹介しておこう。楽天みん就のコメントは楽しそうだ。「クチコミがいちばん多く学生からの意見が多い」、「同世代の声が聞けたり、ESが見られる」、「みんなの口コミなどが見られる」。学生らしいし、部活のノリのような雰囲気もある。
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OfferBoxのコメントでは「自信」という言葉が目立つ。一人だけの就活は寂しく自信を失いかけることも多い。そんな時に仲間の口コミも力になるが、企業からのオファーも自信になるそうだ。「オファーがくるので否定された気分にならない。テンションが下がらず活動できる」、「かなりオファーが来るので自分に自信がつく」。
「最も活用する就職サイト」の順位だけを見ると、支持する学生の割合しかわからないが、コメントを読むと就職サイトの個性がわかる。ここ数年の「活用した就職サイト」は激変しており、とくに今年はリクナビという名門サイトの凋落、そして個性が際立つ就職サイトの躍進が目立った。日本の新卒採用に構造的な変化が起きているのかもしれない。