2020年11月、日本郵便はメルカリ向けに「ゆうパケットポスト」を開発したが、ゆうパケットの減少は止まらなかった(写真:記者撮影)

「日本の物流イノベーションに挑戦したい」――。

日本郵便の衣川和秀社長が未来を語るウラでは、小型荷物が競合へと流出していた。

2021年4月の宅配便の取扱個数を大手宅配3社で比較すると、今年に入ってからの日本郵便の独り負けがわかる。競合のヤマト運輸は前年同月比で10.4%増の1億7219万個、佐川急便は同5.4%増の1億2000万個と堅調だった一方で、日本郵便は同13.9%減の8067万個と、前年水準を1割ほど下回った。

5月14日に開催された2021年3月期の通期決算説明会の場で、日本郵便の上尾崎幸治執行役員は「2021年1〜3月期の荷物数の伸び幅は、直前の2020年10〜12月期の伸び幅と比べて弱い。同業他社が攻勢をかけており状況は厳しい」と語っていた。

メルカリの小型荷物がヤマトに流出

とくに深刻なのが、日本郵便の宅配便の取扱個数のうち45.5%(2021年3月期)を占める「ゆうパケット」だ。「ゆうパケット」は、厚さ3センチメートル以内の小型荷物に特化したサービスで、EC(ネット通販)の荷物やフリマアプリ「メルカリ」で売買された商品の受け渡しで利用されることが多い。

2020年前半は巣ごもり需要でメルカリの利用頻度が高まったことが後押しし、ゆうパケットの取扱個数は順調に増加していた。ところが2020年10月以降、ゆうパケットの取扱個数は停滞し、2021年4月には前年同月比で21.3%減の3697万個と大きく落ち込んだ。

ゆうパケット不振の背景にあるのが、競合サービス「ネコポス」を手がけるヤマトの攻勢だ。2020年10月、日本郵便はメルカリ向け配送サービスで、ゆうパケットの配送料の値上げに踏み切った。メルカリからの荷物が足元で好調に増えていたため、多少値上げしても影響は限定的だと踏んでいたのだ。同年4月に発令された緊急事態宣言下では、メルカリの利用者が急増し、荷物を発送するために郵便局の窓口に行列をなすこともあった。

ところが、日本郵便の読みは甘かった。競合のヤマトはメルカリからの荷物を確保すべく、むしろネコポスの配送料の値下げに転じた。これに伴い小型荷物の利用者が日本郵便からヤマトに流出し、ゆうパケットは大打撃を受けた。その一方で、ネコポスは大幅に取扱個数を伸ばしている。直近の2021年4月の取扱個数は3126万個で、前年同月比で50.9%も増加した。

日本郵便の衣川和秀社長は「足元では宅配便も苦戦しているが、差し出しやすさ・受け取りやすさ、という利便性を向上させることで荷物を取り戻したい」と語る。

実際、2020年11月に日本郵便はメルカリと連携し、小型郵便を郵便局の窓口やコンビニで出荷する必要がなく、直接郵便ポストから発送できるサービス「ゆうパケットポスト」を始めた。それでも、ネコポスの価格攻勢に押され、ゆうパケットの減少は免れなかった。

小型荷物の競争が激化するなかで、日本郵便にとって頼みの綱となるのが楽天だ。2021年7月に両社は合弁で「JP楽天ロジスティクス」(出資比率は、日本郵便 50.1%、楽天 49.9%)を設立し、物流拠点の共同運営をするなど連携を強化している。

さらに、日本郵便は2025年度の宅配便の取扱個数を13.6億個と見込んでいるが、そのうち約22〜36.7%を占めるおよそ3〜5億個が、楽天から配送受託する荷物になる想定をしている。日本郵政の増田寛也社長は「楽天からの配送受託は安定しており、大きく荷物を拾っていく」と期待を寄せる。

日本郵便は業績不振が続く見通し

だが、そうした荷物が業績に貢献するのにはまだ時間がかかりそうだ。日本郵便の足元の業績も厳しく、2021年3月期の通期決算は減収減益となった。2022年3月期も柱である郵便・物流事業の減少をカバーできず、営業利益は前期比50%減の650億円で、大幅な減益となる見通しだ。

郵便物減少による事業縮小は中長期的にも避けられない。2021年5月に公表された日本郵政グループの中期経営計画によれば、最終的には業績が上向く想定の金融2社とは異なり、日本郵便だけは業績不振が続く見通しだ。郵便・物流事業は、2025年度に営業利益330億円を見込んでいるが、これは2020年度比で7割超の減益となる。

宅配便の荷物確保が進まない日本郵便は、業務効率化による収益改善を先行して進める構えだ。2025年度までの5年間で、日本郵便は約3万人相当分の業務を削減することで人件費を1600億円減らす計画を掲げている。その際、郵便・物流事業のオペレーション改革にはおよそ1000億円が投じられる。

これまでも日本郵便は、先端技術の実用化によるオペレーション改革を積極的に進めてきた。2020年6月から物流ベンチャー2社と協業し、配送業務の支援システムを試験導入。スマホ画面上で配送状況に応じた最適なルートを提案するなど、ドライバーの業務負荷低減と新人ドライバーの即戦力化を急いでいる。同システムは、2022年3月末までに最大500の郵便局での導入を目指す。

また、ロボットやドローンを活用したラストワンマイル配送も着々と進める。2020年10月には日本初となる配送ロボットの公道走行の実証実験を行い、2021年6月15日にはドローン専業メーカーの自律制御システム研究所(ACSL)と資本業務提携を発表した。

日本郵政キャピタルはACSLに約30億円を出資し、2023年度をメドにドローン配送の実用化に向けて連携する構えだ。日本郵便の衣川社長は「ドローン配送はコスト削減にも一定の効果があると思っている。ローコスト化を進めて収益向上につなげたい」と期待を寄せる。

ドローンで配送時間が半減

日本郵便とACSLは2017年から実証実験を重ねており、2019年には無人地帯で、ドローン操縦者が直接視認不可で、補助者なしの「レベル3飛行」による宅配便の配送を実現している。東京都奥多摩町で行った実証実験では、配送にかかる時間を従来の半分に減らすなど、一定の効果を得られたという。


日本郵便とACSLは郵便物や小型荷物の配送でドローン活用を目指す(写真:記者撮影)

日本郵便の五味儀裕オペレーション改革部長は「とくに人口の少ない地域では物流の担い手を確保するのが難しくなっている。配送効率の悪いエリアでドローンを活用するなどの業務改革が、郵便・物流サービスを維持するうえで不可欠だ」と語る。

とはいえ、ドローン配送などのインフラを整えても運ぶ荷物がなければ意味がない。楽天以外の顧客からも十分な荷物を確保できなければ、日本郵便の収益改善は遠のいてしまう。楽天と連携強化しつつも、それ以外の顧客を囲い込めるか。オペレーション改革以外にも日本郵便の物流事業には課題が山積している。