東京五輪に出場する、男子サッカーの登録メンバー18人とバックアップメンバー4人が発表された。

「メンバー選考は難しい作業だった」(森保一監督)のは間違いないだろうが、これまでの活動を見る限り、概ね順当な顔ぶれが並んでおり、「金メダルを獲得するための現時点でのベストメンバー」(同)がそろえられたと考えていいだろう。

 なかでも、森保監督の、そして日本サッカー協会の本気度の高さが感じられるのは、オーバーエイジ(OA)枠で加わった、吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航の3選手である。

 1996年アトランタ大会以降、日本は7大会連続で五輪本大会に出場しているが、毎回本番が近づくたびに、OAをどうするかでもめるのが通例だった。五輪はA代表の公式戦と違い、招集選手に対する拘束力がないため、所属クラブに拒否されるケースがあったからである。

 結果、OAを使わない、あるいは3枠を使い切れないという事態が起きてきた。

 ところが、今回はOA枠をフル活用。しかも、3人ともA代表のレギュラーという豪華布陣である。


「史上最強」のOAをそろえて東京五輪に挑むU−24日本代表

 過去の日本のOAを振り返っても、その時点でA代表のレギュラーと呼べる選手が加わったのは、2000年シドニー五輪のGK楢崎正剛、DF森岡隆三、2004年アテネ五輪のMF小野伸二くらいだろう。

 今回選ばれた吉田と酒井は、すでに2014年ブラジル大会、2018年ロシア大会と2度のワールドカップを経験しており(酒井はブラジルでの出場はなし)、遠藤にしても、ロシア大会では登録メンバー入りしている(出場はなし)。

 そのうえ、東京五輪開幕の1カ月以上も前からチームに合流させ、24歳以下の選手との融合を図っているのだから、本気度はこれ以上ないほどに高い。反町康治技術委員長が「(他国より)一歩リードしていると勝手に思っている」と話すのもうなずける。

 加えて、今回の3人は、そろって五輪本大会を経験していることも心強い。

 男子サッカーにおける五輪は、U−17、U−20のワールドカップに続く、U−23の世界大会と位置づけられている(東京五輪は1年延期となった影響でU−24)。

 とはいえ、"本家"のワールドカップはもちろん、U−17やUー20の大会と比べても、五輪はかなり特殊な大会だ。

 準決勝から中3日で行なわれる決勝を除き、すべての試合間隔が中2日。しかも、登録メンバーは18人。多くの大会の登録メンバーが23名であることを考えると、かなり少ない。フィールドプレーヤー16人で最大6試合を戦わなくてはならないばかりか、規模の大きな総合競技大会であるため、スタッフの人数などいろいろと制約も多い。

 それだけに、いかに心身両面でいいコンディションを保つかが重要なカギとなる。過去の経験は、若いチームにとって大きな意味を持つはずである。

 吉田が2008年北京五輪、酒井が2012年ロンドン五輪、遠藤が2016年リオデジャネイロ五輪と、それぞれが五輪世代だった時の大会に出場しているのに加え、吉田はOAとしてロンドン五輪にも出場している。つまり、今回のチームには、過去3大会の経験が蓄積されていることになるわけだ。

 OAの3人合わせて、延べ回数にしてワールドカップ5回、五輪4回という経験値は、過去の日本の五輪代表はもちろんのこと、世界を見渡しても突出したものだと言っていいだろう。

 例えば、北京五輪で銅メダルを獲得したブラジルには、OAでFWロナウジーニョとDFチアゴ・シウバが加わっていた。今にして思えば、とんでもない"豪華補強"だが、ロナウジーニョは1度の五輪(2000年)と、2度のワールドカップ(2002、2006年)の経験があったが、チアゴ・シウバは、いずれもなし。しかも、3人目のOAは使われていない(※編集部注:当初、当時レアル・マドリード所属のFWロビーニョがOA枠で招集されていたが、負傷により辞退)。

 同様に、ロンドン五輪ではウルグアイが、FWルイス・スアレス、FWエディソン・カバーニ、MFエヒディオ・アレバロ・リオスと、A代表の主力をOAに加えて臨んでいるが、3人ともワールドカップを1度(2010年)経験しているだけで、五輪の経験はなかった。

 その他にも、過去には意外なビッグネームがOAとして五輪に出場しており、アテネ五輪ではイタリアにMFアンドレア・ピルロが加わっているが、この時点でのピルロも、まだA代表での地位を確立する前の選手だった。

 もちろん、それぞれの大陸や国のレベルが異なり、単純にワールドカップと五輪の出場経験だけでOAの力を比較することはできない。そもそもヨーロッパ勢は五輪を重要視しておらず、だから大物は出場しないのだと、冷めた見方をすることも可能だろう。

 だとしても、五輪に出場するOAにこれほどの陣容を整えた例は見当たらない。今回の日本のOAトリオは、ワールドカップと五輪の出場回数だけを物差しにすれば、五輪史上最高と言ってもいいほどだ。

 そんな日本とイメージが重なるのは、アテネ五輪で金メダルを獲得したアルゼンチンである。

 吉田と同じくA代表のキャプテンでもあったDFロベルト・アジャラを筆頭に、DFガブリエル・エインセ、MFキリ・ゴンザレスというA代表の主力選手を3人まとめて招集。その内訳がDFラインの2人と、中盤のダイナモというのも、今回の日本と重なる。

 アジャラは23歳で出場したアトランタ五輪で銀メダルを獲得した経験を持ち、1998年ワールドカップにも出場(2002年は大会初戦直前の負傷で出場なし)。ゴンザレスは2002年のワールドカップに出場している。

 エインセにしても、この時点ではワールドカップ経験はなかったが、すでにA代表の主力となっており、2年後のワールドカップ(2006年)に出場しているあたりは、遠藤の歩みとダブる。

 当時のアルゼンチンは、中盤をダイヤモンド型にした3−4−3をベースとしており、アジャラとエインセは3バックの中央と左を務め、ゴンザレスは左MFとして活発な上下動を繰り返した。中盤から後ろをOAによって支えられたアルゼンチンは、前線ではFWカルロス・テベス、MFアンドレス・ダレッサンドロら、若いアタッカーがテクニックとスピードを生かして躍動。ピッチ上で繰り広げられたサッカーは、東京五輪での日本に期待されている姿に通じるものだ。

「(OAとして)完璧じゃないといけないプレッシャーが常にある。A代表でももちろん(プレッシャーは)あるが、見られ方としてプレッシャーを感じる立場であるのは間違いない。名札ではなく、自分のパフォーマンスで評価されたい」(吉田)

 五輪史上最高のOAトリオにかかる期待は大きい。