太陽節祝賀公演を鑑賞した金正恩夫妻(2021年4月16日付朝鮮中央通信)

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北朝鮮の金正恩総書記は5月5日、李雪主(リ・ソルチュ)夫人と共に、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の各大連合部隊所属の軍人とその家族による軍人家族芸術サークルの公演を鑑賞した。

言うなれば「全国部隊対抗歌合戦」のようなものだが、ただでさえ娯楽の少ない北朝鮮で、参加者たちは大盛りあがりしたに違いない。

派手な公演の裏で、ギリギリと歯ぎしりをしている者がいた。この行事に参加できなかった、両江道(リャンガンド)駐屯の国境警備隊の政治部長だ。北朝鮮ではこうした催しも、各部隊に対する思想的な評価の対象になる。部隊を思想的に取りまとめるのは政治部長の責任であり、金正恩夫妻が参加する「御前行事」ともなれば、その意味は格段に増すのだ。

現地のデイリーNK内部情報筋によれば、国境警備隊政治部は公演が行われた後、思想教育が目的の土曜学習会を行った。その場では、金正恩氏が公演の成功を高く評価し、参加者と記念撮影を行ったことが伝えられた。そして、政治部長は他の部隊の軍人家族の芸術サークルのことに言及し、「国境警備隊のどこが劣っていてそんなにダメなのか」などと怒り始めたという。

実は、国境警備隊の軍人家族芸術サークルも今回の公演の予選に参加していた。しかし決勝に残れず、平壌大劇場の舞台に立てなかったことで、政治部長は大層おかんむりだったようだ。

そして政治部長は、小隊、中隊、大隊の政治、行政、保衛、後方の各部署にいる未婚軍官(将校)にこんな命令を下した。

「未婚の独身軍官は、歌、踊りなど音楽的才能と器量を持った女性を妻として迎えよ」

敵ではなく、歌合戦で他の部隊を打ち負かすために、結婚相手を選べという驚くべき要求だ。政治部長の事細かい注文はさらに続いた。
(参考記事:金正恩氏の秘密パーティーに呼ばれる「名門女学生たち」の涙

「特出した芸術的技量のない女性を(結婚相手に)選んでは、芸術サークルの公演でトップに登りつめるのは難しい。道、市、郡の芸術団や宣伝隊に在籍して、歌が上手いだけではダメで、身長など外見はもちろん、楽器の一つも演奏できて、話術まで兼備した女性を攻略すべき」

前述したとおり、軍人家族芸術サークル公演への出場も、政治部長や国境警備隊そのものの評価につながる。そのために部下の結婚相手の選び方にも口を出しているようだ。

北朝鮮はそもそも、結婚を個人と個人の結合ではなく、革命の最小限の単位として考えており、そのためには個人の幸せなどは二の次だ。望まぬ相手と結婚させられる事例は、今までもあり、女性と栄誉軍人(傷痍軍人)との結婚を強いたこともある。