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コロナ禍に翻弄 切り込み隊長A3 

text:Toshifumi Watanabe(渡辺敏史)photo:Keigo Yamamoto(山本佳吾)editor:Taro Ueno(上野太朗)

アウディA3は初代から常にアーキテクチャーを共有するフォルクスワーゲン・ゴルフに先んじて登場し、投入された先駆的な技術を世に示す、ある種の露払いというか切り込み隊長というか、そういう役割を担ってきた。

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果たして4代目となる新型も、日本においてはゴルフ8にやや先んじて登場したわけだが、欧州ではゴルフ8から遅れること半年近くの昨年3月に発表されている。


アウディA3スポーツバック1stエディション    山本佳吾

本来ならジュネーブ・サロンで華々しくお披露目というプランだったのだろうが、コロナ禍でサロンそのものが直前に開催中止となり、リモートカンファレンスを段取る間もなく広報資料のみが配付されるという残念な門出となってしまった。

僕も本来であればその会場に暢気に取材に行く予定だったわけで、あの時、世の中がここまで混乱するとは本当に誰にもわからなかったわけである。

今回、欧州市場でA3のローンチがゴルフ8の後ろに回った理由は、ここ数年の認証工程の混雑でアウディ自身の発表スケジュールが混乱したことも一因だろう。

しかし、一昨年秋のフランクフルトショーにおけるフォルクスワーゲンiD.3の発表という、グループにとってはこの先の雌雄を決する最も重要なイベントの効果を最大化するために、同級モデルであるゴルフ8とA3の発表タイミングを調整したのかもという邪推も浮かぶ。

アウディらしいアプローチ

日本仕様のアウディA3はスポーツバックとセダンが同時にデビューした。

いずれもエンジンバリエーションは1L 3気筒直噴ターボに48V駆動のベルト・オルタネーター・スターター、アウディ曰くのBASを付加したマイルドハイブリッドの30TFSI、2L 4気筒直噴ターボの40 TFSIの2つとなり、いずれもミッションは7速DCT、アウディ曰くのSトロニックが組み合わせられる。


アウディA3スポーツバック1stエディション    山本佳吾

駆動方式は30TFSIがFF、40 TFSIが電子制御油圧多板クラッチを用いたオンデマンド式の4WD、つまりクワトロとなる。

駆動配分は通常時でほぼ100:0で、状況に応じて最大50:50へと可変する仕組みだ。

これに応じるかたちでリアのサスペンション形式は、30 TFSIがトーションビーム、40 TFSIがマルチリンクとなる。

トリムラインはベース、アドバンスト、Sラインの3つで、装備内容的にみれば一般的にはアドバンスト、スポーティな仕立てを好むならSラインという選択になるだろう。

注目すべきはそのSラインのシート表皮に、1.5Lペットボトル45本分をリサイクルした素材を使っていること。

他グレードでもリサイクルマテリアルはフロアカーペットやラゲッジボード、断熱材や吸音材などに積極的に展開している。

ユーザーの社会親和の意識が高そうな……というのは僕だけの見立てかもしれないが、このアウディらしいアプローチは歓迎されることだろう。

肌なじみの良さ ゴルフより秀逸

クルマ好きにとっては趣味性も託せるデイリーカーの本丸は、適度なパワーをクワトロで受け止める40 TFSIの側かもしれないが、それは秋ごろの上陸になるということで、今回試乗したA3はスポーツバックの30 TFSIで、アドバンストをベースに装備を盛るだけ盛った感のある1stエディションだった。

動的質感に影響を及ぼしそうな独自装備はSラインと同じ18インチのタイヤ&ホイールのみということで、ともあれ装備差を勘案しながら室内を品定めする。


アウディA3スポーツバック1stエディション    山本佳吾

A3の内外装の質感は、パッと見の印象として、先代以前のようにA4にも食ってかかるような下剋上的オーラはない。

背景としてはアウディ側のコストバランスの事情もあればライバルたちのキャッチアップもあるだろう。

でも1つ勘案しなければならないのは、彼ら自身が圧倒的精緻さをみせるべく、示威的なまでに作り込んでいた細かなプレスラインが大幅に整理され、塊や面の表情でみせるデザインへと指向が変わったことだ。それは直近のA4やA6をみても然りである。

アーキテクチャーを共有するゴルフ8が大胆なインターフェースのデジタル化に走ったのに比べると、A3はむしろオーソドックスな方で、空調やドライブセレクターなどは物理スイッチが残されている。

シフトセレクターなどバイワイヤー化された所も多いが、オーディオコントローラーなどはスタータースイッチと対の位置に配して右左ハンドルの作り分けを容易にしつつ、円型に沿って直感的な操作が出来るように配慮されている辺りは賢いなぁと感心させられる。

一等地に10インチ級のインフォテインメントモニターが陣取ったため、吹出口が苦しい配置になってしまったりと落ち着かない印象もあるが、使い勝手や肌馴染みの良さはゴルフ8より上だと思う。

「上質なデイリーカー」 タイヤは気になる

30TFSIに搭載される1.0L 3気筒はフォルクスワーゲンのUP!やアウディA4などでも用いられてきたユニットだが、バランサーレス設計でもここまで音/振動をすっきり仕上げられるかと感心させられる素性を持っており、A3のクラス感を台無しにしてしまうような粗相はない。

低回転域ではBASのモーターアシストがはっきりと奏功しており、小排気量や過給のラグといった弱点を見事に帳消しにしている。


アウディA3スポーツバック1stエディション    山本佳吾

中〜高回転域域に至ればモーターアシストの効果も薄れ、エンジンの生のパワーで走ることになるが、120km/h付近に至るまで速度の伸びが息つくこともない。

回して嬉しいエンジンでないことはたしかだが、きっちりと速度を高めていくサマに、昔のドイツ車の実用エンジンのような粘り気を感じる方もいるかもしれない。

フットワークは低扁平な18インチにトーションビームの組み合わせによる弊害が端々に感じられる。

コーナーではタイヤの横剛性の高さにグイグイと引っ張られる感もあり、タウンスピードでも些細な轍での横揺れが多い印象だ。

速度が高まればフラットなライド感におさまっていくが、クルマの性格や抱えるパワー、そしてゴルフ8に乗った印象も鑑みれば16インチ〜17インチ辺りが適切かなという気もする。

背後のブランドイメージもあってとかくスペシャリティ的な捉えられ方もなされるが、パッケージやダイナミクスも至って実直なA3は、多くの人に薦められる上質なデイリーカーでもある。

もし趣味性の面で物足りなさを感じたら、先述の通り後に投入される40 TFSIクワトロを待つのもいいし(個人的にはこれがベストバランスではないかと予想している)、値段は張るが素晴らしいフットワークを備えたS3を検討するのもいいかと思う。

アウディA3スポーツバック1stエディションのスペック

価格:453万円
全長:4345mm
全幅:1815mm
全高:1450mm
ホイールベース:2635mm
車両重量:1320kg
パワートレイン:直列3気筒999ccターボ+48Vマイルドハイブリッド
最高出力:110ps/ 5500rpm
最大トルク:20.4kg-m/2000-3000rpm
ギアボックス:7速Sトロニック


アウディA3スポーツバック1stエディション    山本佳吾