ターボテクノロジーはモータースポーツの世界で磨かれた

 1980年代に本格的に普及、近年ではダウンサイジングの立役者として脚光を浴びたターボチャージャーは、大気中に捨ててしまう排気ガスのエネルギーで吸気を圧縮、多量の空気(酸素)をシリンダー内に送り込むことで、効率よく高出力を実現するシステムとして発達を遂げてきた。

 とくにターボテクノロジーが大きく発展したのは、1980年代のモータースポーツ。1500ccで1500馬力を発生したF1や、燃費と高出力を高い次元で両立させたメーカーが優位に立ったグループCカーで、ターボチャージャーは魔法の風車と呼べるほど高い潜在能力を発揮してきた。

 ただ、ターボチャージャーの場合、排気流でタービンを駆動、同軸上にあるコンプレッサーで吸入気を圧縮する構造のため、スロットルバルブを開いた瞬間から過給効果が得られるまで、反応時間に遅れが生じるクセがつきまとった。いわゆる「ターボラグ」である。市販車より先に使用されたレーシングカーの時代から、自動車のターボチャージャーはこのタイムラグとの戦いだったと言ってもよいだろう。

 実際どういうことかと言うと、ターボチャージャーによる過給過程を思い描いてほしいのだが、最初の動きが排気ガスでタービンを回すことから始まるシステムであることがカギとなる。排気ガスの流れを受けてタービンブレードが回り出すことになるわけだが、タービンブレードや同軸上にあるコンプレッサーには質量があり、排気流を受けて回転が立ち上がり所期の回転数になるまで時間を要することになる。

 これがターボラグの正体で、ターボラグを可能な限り小さく抑えようとするなら、回転の立ち上がりや回転上昇を速くする必要があり、そのためには小径タービン/小径コンプレッサーの軽量ユニットが向くことになる。回転系の質量が小さければ(軽ければ)、排気流を受けてから所期の回転数に達する所要時間は短くなる。言い換えればアクセルレスポンスに優れたターボシステムということである。

 しかし、一方で小径タービン/小径コンプレッサーのユニットは、レスポンスに優れる代わりに過給空気の絶対量が小さくなってしまう。出力の絶対値を稼げないということになる。ターボラグを嫌い、レスポンスのよいターボシステムを構成しようと小径タービン/小径コンプレッサーのユニットを使うと出力が稼げず、逆に大出力を狙って大径タービン/大径コンプレッサーを選ぶと回転系の質量が増し、今度はタイムラグを大きく感じるターボシステムとなる特徴があった。

エンジン1基に対して4個のタービンを装着するクルマもある!

 ところで、ターボシステムの基本型は、エンジン1基に対してターボチャージャー1基を装着するシングルターボだが、V型6気筒やV型8気筒のようにシリンダーが2列ある場合(直列6気筒で前側3気筒と後ろ側3気筒と分けて考えるのも同様)、それぞれの列にタービンを1基ずつ装着するツインターボシステム、さらにブガッティ・ヴェイロン、同シロンのW型16気筒のように8気筒に対してタービン2基を装備。合計4基のタービンは、低速時は2基のみが作動し、残り2基は3800回転以上になると作動。2ステージ過給によるシロンは8リッターの排気量から1500馬力を発生、最高速度420km/h(リミッター作動)を記録したというとてつもないパフォーマンスを発揮した。

 実際のところ、ターボチャージャーは排気ガスの流れ(エネルギー)でタービンを回すため、排気量の小さなエンシンでは排気エネルギーが小さく(弱く)なり、大径タービン/大径コンプレッサーを回すには不向きとなる。想定する過給圧(出力)に対し、必然的に排気量に応じた適正サイズのタービンが決まるわけだが、ある程度の排気量、気筒数の場合、タービン1基で過給するシングルターボと2基で過給するツインターボの方法が可能となる。この場合、両者のタービンサイズは当然異なり、ツインターボの場合は受け持つ排気量(シリンダー数)に見合った小型なものとなる。

 さらにこのツインターボ方式には、過給の役割が異なる2種類のタービンを組み合わせて使うシーケンシャル方式が考え出された。ひとつは直列式と呼ばれる、低回転時過給用の小型タービンと中高速回転時過給用の大型タービンを切り替えて使う方式、もうひとつは並列式と呼ばれ、低速回転時はプライマリー1基で過給、中高速回転時はプライマリーとセカンダリー2基で過給を行う方式である。

 いずれもターボラグを解消するため考え出された方式だが、出力の絶対値はシングルターボ方式が優れること、大小2基のタービン切り替え時、あるいは作動時にトルクの谷が発生し、フラットな過給特性が得られない欠点が発生する例もあった。

 ターボチャージャーは、装着され普及していく過程で、タービンそのものの改良、また過給方式、過給制御方式の進化によって、当初大きく問題視されていたターボラグの問題は、ほぼ感じられないレベルにまで解消された。また、シングルターボとツインターボは、シリンダー数、シリンダー配置、排気量に応じて使い分けられてきた、と考えてよいだろう。さらに、ダウンサイジング(排気量の引き下げ)に対しても出力を補う有効な手段と考えられ、省燃費性能の上でも有利なシステムとして活用されている。