ソフトウェアアップデートも月額利用料金に含まれる「GRヤリス“モリゾウセレクション」(写真:トヨタ自動車

ついにトヨタが、クルマの商流を根本的に変える大仕事に着手する。新車から中古車、そして廃棄されるまでの“クルマの一生”をメーカーが管理する資産運用体制が、今後トヨタを筆頭に本格化しそうだ。

具体的にどのようなことなのか、直近のトヨタの正式発表事項から紹介する。

2021年6月7日、“トヨタとKINTO、「人に寄り添って進化するクルマ」に挑戦〜GRヤリス “モリゾウセレクション”をKINTO限定で取扱い開始〜”というオンラインでの記者発表があった。


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KINTOはトヨタが2019年2月に始めた、いわゆるサブスク(サブスクリプションモデル)で、保険や税金を含んだ定額の月額料金で新車を販売する、これまでの“売り切り型”とは異なる新車販売の手法だ。

また、「GRヤリス」は世界ラリー選手権(WRC)に参戦するラリー競技車から技術的なフィードバックを受けた少量生産のハイパフォーマンスカーで、“モリゾウ”は豊田章男社長が車両開発ドライバーやレーサーとして活動するときの愛称である。

クルマも「ソフトウェアアップデート」の時代へ

この発表で注目されるのは、クルマのソフトウェアを顧客の運転特性に応じてアップデートすること。専門の「GRガレージ」で、担当者がユーザーと協議しながら話を進めるというメニューだ。

この話は、レースやサーキット走行といったクルマ好きに向けたサービスだけにとどまらず、「(将来的には)安心安全を実現するため多様なモデルでの展開を視野に入れている」(トヨタ幹部)という。


「GR」はトヨタのスポーツカーブランドの名称。その販売店を「GRガレージ」と呼ぶ(写真:トヨタ自動車)

クルマに関連したデータ管理については、2010年代から自動車業界とIT・通信業界の間で、コネクテッドカーという領域で議論が進んできた。

一般的に、スマホなどパーソナル通信機器が1〜2年で新型化するのに対して、クルマのフルモデルチェンジは6年前後で、車歴でみれば10年を超える。そのため、自動車メーカーとしてハードウェアのアップデートは難しくても、ソフトウェアを最新化することで最新サービスを顧客に提供できるという仕組みだ。

こうしたクルマのソフトウェアアップデートには、「新車売り切り型よりKINTOのほうが相性がよい」とトヨタは見る。KINTOでのクルマの所有権は、トヨタ直系のサービス提供企業である株式会社KINTOに帰属している。

顧客に対して個人情報保護を明確にしたうえで、新車を売り切り型にしないほうが、市場に出回るクルマの情報を自社でコントロールしやすいからだ。

さらに、この記者発表の中で、新車または中古車として市場に出回ったクルマの内外装のカスタマイズについても、KINTOとしてさらなる検討を行う旨の発言があった。これは、2020年1月から実験的に始めた、中古車版「KINTO ONE」の応用との印象を持った。

中古車を新車製造ラインに流す、重大な意味

前述の会見の4日後、トヨタの製造部門の統括者による“未来を拓く大切なものづくり”というオンライン会見があった。

この中で、「KINTOで取り扱う中古車をリノベーションし、ワクワクするような車に仕立て直して提供することにトライする」、また「中古とは思えない質感、あるいは他にはない外観や内装の提供など、お客様にとって自分だけの1台をお届けすると同時に、循環型社会にも貢献していきたい」という、自動車メーカーとしてこれまで経験のない領域へ本気で踏み込む姿勢を明らかにした。

記者との質疑応答では、トヨタ側は中古車リノベーションをする場所について販売店、または新車の「最終組立工場内にサブラインを設置する可能性がある」と説明した。


トヨタの新車製造ライン(写真:トヨタ自動車)

新車の製造ラインに“中古車が出戻ってくる”ことは、メルセデス・ベンツやマツダなどが“旧車レストア“として新車とは別工場で対応する事例はあるが、新車製造ラインとして見ればこれまでの自動車産業界の商流では“ありえない話”であり、販売店にとしては“極めて重大な事案”として捉えている。

なぜならば、自動車商流の根源である“製販分離の終焉”につながりかねないからだ。

改めて商流として自動車産業を見てみると、自動車メーカーは自動車部品メーカーに対して部品の開発や生産を依頼し、またボディの原料である鋼板などを仕入れ、最終組立工場でボディ(板金)、溶接、塗装、組み立て、検査という製造ラインを通じて新車を製造。新車は最終組立工場から出荷され、国内や海外の新車正規販売店で卸売り販売される。


最終組立工場から出荷される新車(写真:トヨタ自動車)

新車正規販売店は、日本の場合、マツダやスバルなどメーカーが直接資本を投じる形式が多いメーカーもあるが、近年は地場企業が主体の傾向が強まっている。トヨタの場合、東京中心部を管轄する「トヨタモビリティ東京」がトヨタの直接資本である。そのほか、海外では各メーカーとも、地場企業による販売店経営が主流だ。

さて、日本のトヨタ大手ディーラー経営者が「トヨタの顧客は我々販売店だ」と言い切るように、メーカーは文字通り製造専業社であり、その販売部門は正規販売店向けの卸売り事業にとどまる。

顧客が新車購入する際に対面するのは、あくまでも販売店であり、メーカー直接ではない。中には販売店と顧客情報を共通するシステムを有するメーカーもあるが、基本的に顧客情報は販売店に帰属する場合が多いのが実情だ。筆者が自動車メーカー各社幹部らと定常的な意見交換をする中で、そのように解釈している。

このように新車の製造と卸売り・小売りとの間には大きな壁があり、一般的に“製販分離“と呼ばれる。この常識が、前述のKINTO新事業によって崩れる可能性が出てきたのだ。


KINTOのみで販売する特別仕様も用意される(写真:トヨタ自動車)

繰り返して説明するが、KINTOでも新たな取り組みはメーカーが新車を製造した後、メーカー直属企業が資産として新車を保有し、経年劣化した後はリノベーションした中古車として再びサブスク化するという商流サイクルの創出だ。そして、商流の中でのデータ管理を定常的に行う。

こうした新しい商流により計画的な生産体制も可能となり、結果的に生産台数は減少傾向に転じる可能性があるが、メーカーが販売サービスに直接関与することで、メーカーが関わる事業はトータルで拡大し収益性も高まる。さらに、LCA(ライフサイクルアセスメント)の観点でのCO2排出量の管理もしやすくなるという利点がある。

そうなると、困るのは新車正規販売店だ。販売店の事業形態は販売・修理業からサービスプロバイダーへの転換といわれて久しいが、多くの販売店は、いまだに旧態依然とした業態から脱却するための明確な方向性は示すことができていない。

販売は「オンライン」が当たり前に

さらに、販売店にとっては“EVシフトにおけるオンライン販売”という大きな時代の変化にも直面している。

例えば、ボルボは2030年までにグローバルで全モデルをEV化するとし、日本市場では2021年秋発売予定のEVの「C40 Recharge」を完全オンライン販売とし、販売店はそのサポート役にまわると発表した。

また、日産は2021年6月4日にEVの日本仕様「アリア limited」予約販売開始を発表した際、アリアにおいてもオンライン販売を積極的に展開することを示唆している。


国内の予約注文が10日間で約4000台に達したと発表された「アリア limited」(写真:日産自動車)

EVは駆動用バッテリーの経年劣化の管理や充電インフラとのマッチングなど、データ管理の重要性が高い面もあり、オンラインによるサブスク販売との相性がいいと考えられる。

コネクテッド技術の開発とEVシフトによって、自動車産業の製販分離の解消が数年以内に一気に進むのかもしれない。今後の業界動向を注視していきたい。