新型コロナウイルス感染症の流行が続く中で、変異株の流行拡大が新たな懸念材料となっている。その1つであるブラジル由来の変異株(以下、ブラジル変異株)は、感染力や病原性が高くなる可能性だけではなく、現行ワクチンが効かなくなる恐れも指摘されており、変異前の新型コロナウイルスに感染して回復した人も再感染するリスクが想定されてきた。だが東京大学らの研究グループは18日、従来株による抗体が一定の効果があり、現行のワクチンが有効であることが判明したことを発表した。

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 今回の研究では、モデル動物としてハムスターを用いてまず従来株とブラジル変異株の比較を実施。結果、鼻や肺などの呼吸器における増殖力は両者ともにほぼ同じであることが判明した。つまり、ブラジル変異株の感染力や病原性は従来株と大きく変わらないことが示唆される。

 また、現行のコロナウイルスワクチン(ファイザー社製)のブラジル変異株への効果も、従来株に対するそれと大きく変わらないことが確認された。実験ではワクチン接種者から採取された血清および血漿を用いて、中和抗体価を測定。結果、従来株とブラジル変異株とで中和抗体価には大きな違いは見られなかった。

 さらに、従来株の感染から回復したハムスターの、ブラジル変異株に対する抵抗性の有無も調査。ブラジル変異株を再感染させたハムスターの鼻から少量のウイルスが検出されたものの、肺からは全くウイルスが検出されなかった。このことから、従来株回復者のブラジル変異株への再感染の可能性はあるものの、重症化が起こりにくいことが示唆された。

 これらの研究成果は、行政機関がブラジル変異株のリスクを評価する上で重要な情報となる。新型コロナウイルス感染症の流行拡大抑制とともに、経済活動再開のタイミングを決定する上で参考となることが期待される。

 今回の研究成果は17日付の「Proceeding of the National Academy of Sciences of the United State of America」オンライン版に掲載されている。また今回の研究は、東京大学、ウィスコンシン大学、ミシガン大学、国立感染症研究所、国立国際医療研究センターが共同で行ったものである。