フランス人俳優オマール・シー主演の世界ヒット作『Lupin/ルパン』シーズン2も高評価を得ている(写真:Netflix)

Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

日本のマンガで「ルパン」を理解できた

非英語圏のNetflixオリジナルドラマ最大のヒット作である『Lupin/ルパン』のシーズン2が6月11日に世界配信されました。シーズン1で配信された5話の続きを、首を長くして待つこと半年。新たに5話が追加されたシーズン2もヒットの要素がたっぷり詰まっていました。いったい何がフランス発ドラマの『Lupin/ルパン』を成功へと導いたのでしょうか。

まずはシーズン1と2に共通する作品の見どころから説明します。主演はオマール・シー。超メガヒットの恐竜SF映画「ジュラシック・パーク」シリーズにも出演、フランス映画『最強のふたり』で世界的にブレイクし、フランス国内で好感度ナンバーワンの呼び声が高い俳優です。アフリカ移民2世というシー自身の生い立ちと重なるように、劇中ではパリで育ったセネガル移民の子・アサン役を演じています。この役柄の説明からは想像しにくいのですが、日本人であればタイトルから予想がつくあの人物に扮し、汚職にまみれた大富豪相手に父親の敵を討つという話が展開されています。シー演じるアサンは現代版「怪盗紳士ルパン」なのです。


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ちなみに、シーはNetflix公式インタビューで日本が生んだモンキー・パンチの『ルパン三世』について触れています。シーにとって、多くのフランス人の子どもがそうだったように、小説家モーリス・ルブランの推理小説シリーズ「アルセーヌ・ルパン」の主人公「ルパン」は幼少期の「ヒーローの一人だった」そうです。

ただし、原作以上に「ルパン」というキャラクター性を深く理解したのは「日本のマンガだった」と言及しています。役作りにあたって、原作から関連映画を見直したことも明かしていますから、宮崎駿監督によるアニメ映画『カリオストロの城』などからも着想を得たのかもしれません。劇中で見せるクールで、女性に優しいキャラクターからも推測できます。そういう意味でキャラクターの理解度が高い日本人にも十分楽しめる要素があるのです。


変装のギミックは現代版も健在。オマール・シーは日本の『ルパン三世』も愛読していたという(写真:Netflix)

シーズン2の劇中にフランスのシンガーソングライター、ジャック・デュトロンが歌う『怪盗紳士ルパン(原題:Gentleman Cambrioleur)』が流れるのですが、その歌詞で描かれるルパン像もまさにドラマ『Lupin/ルパン』に通じるものがあります。

“その男は大泥棒で生粋の紳士。大切なものを奪うが、武器は使わない。女から盗んだ時は代わりに花を残す。その男は怪盗紳士。誇り高き人物”

ダークヒーローながら高い倫理観を持った愛されキャラクターを確立しているのです。

一方、「怪盗紳士ルパン」をオマージュした作品ですから、ジェームズ・ボンドのような派手なアクションは期待できません。巧みな知恵とユーモアあるトリックで盗みを働きます。さらに、イギリスBBCのドラマ『シャーロック』が世界でウケたように、現代版のアレンジにも成功しています。Uber Eatsの配達員に変装したり、人の声をデジタル化して合成技術を駆使したりと、現代風のトリックで、子どもから大人まで家族で楽しめる内容です。

シーズン1は28日間で全世界7000万世帯が再生

シーズン1は2021年1月8日に世界配信されると、リリース後28日間で全世界の7000万世帯が再生するという大ヒットを記録しました。日本でも好評だったアニャ・テイラー=ジョイ主演の『クイーンズ・ギャンビット』よりも初動再生数を上回り、発表情報から調べた限りでは非英語圏のNetflixオリジナルドラマとしては最速のヒット記録でしょう。これまで、スペイン発の『ペーパー・ハウス』やドイツ発の『ダーク』など非英語圏のヒット作とされるものは、おしなべて口コミで徐々に人気が広がっていったのですが、『Lupin/ルパン』はこの傾向を覆しました。

フランスをはじめブラジル、アルゼンチン、ドイツ、イタリア、スペイン、ポーランド、ベトナムなど世界数10カ国でリリース後28日間以内に「TOP10(総合)」で1位を獲得。さらに、世界で最もNetflix人口が多いアメリカでも同時期に2位をマークしました。その頃リリースされたアメリカドラマ界のレジェンド、ションダ・ライムズプロデュースによる『ブリジャートン家』と同等の反響を、非英語圏のNetflixオリジナルドラマが得たのは特筆すべきことです。

期待が高まるなか、配信されたシーズン2も出だしから高評価を得ています。アメリカの辛口映画レビューサイトで知られる「Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)」ではプロの批評家による満足度平均は95(6月15日現在)という高い数値。シーズン1の満足度平均98には届かずも、肯定的なレビューが並んでいます。

シーズン2のはじめの1、2話は、シーズン1から続くストーリーが展開され、追跡劇が中心。「ルパンとガニマール警部」「ルパン三世と銭形警部」の関係を彷彿とさせるシーンは楽しめるポイントですが、トリックの見せ場が激減していることが残念な点です。その辺りがシーズン1を下回る評価につながっているのだと思います。

とはいえ、3話からは一気にラストに向けて伏線が張られていきますのでご安心を。シーズン1で味わった謎解きの楽しさが復活します。Netflixによる「(日本の)今日の総合TOP10」にもリリース後にランクインされ、注目度の高さがうかがえます。

イギリス人の脚本家が選んだパリのロケーション

成功要因の決定打はロケーション選びに尽きるでしょう。凱旋門にシャンゼリゼ通り、セーヌ河といった、わかりやすいイメージのパリの街並みが映し出されています。それだけでなく、場面を効果的に見せるための設計力に非常に長けています。

シーズン1の最も重要な導入のシーンでは、世界最大級のルーヴル美術館を舞台に視聴者の関心を最大限に引き寄せ、視聴者を最後まで引っ張っていく必要があるシーズン2の最大の見せ場では歴史と伝統のあるシャトレ座を使い、高揚感を高めています。このほかにも、ロマンチックなシーンではセーヌ河に架かる橋「ポンヌフ」を登場させ、レオス・カラックス監督のヒット恋愛映画『ポンヌフの恋人』(1991年)をオマージュ。お熱い雰囲気を膨らませています。


ルーヴル美術館やシャトレ座など、パリの名所が次々とシーンを彩る(写真:Netflix)

この巧みなロケーション選びはシナリオ段階で行われたシナリオ・ハンティングがカギとなっています。『Lupin/ルパン』の製作そのものは世界最古の映画制作会社で、フランス最大手のゴーモングループが手掛けていますが、実は脚本家はフランス人ではありません。イギリス人のジョージ・ケイです。サンドラ・オー主演のイギリス製作映画『キリング・イヴ/Killing Eve』やNetflixオリジナルの『クリミナル』など、国際感覚に優れた犯罪スリラーものが得意な脚本家を起用しています。

ただし、脚本家のケイはパリの街そのものについては熟知していなかったのです。そのため脚本に手をつける前にいろいろ巡った場所が脚本に落とし込まれているそうです。もしかしたら、パリに住んでいるフランス人だったら選ばないような場所もあったかもしれません。客観的な視点で選ばれたロケーションが効を奏したと言えます。意図せず、このコロナ禍で飛行機を飛ばしてパリの街までたどり着けない世界中の視聴者に旅行気分を味わわせ、そんなタイミングも味方につけたのです。

製作メンバーにはリュック・ベッソン監督の『レオン』や『フィフス・エレメント』に関わったスタッフもいます。ワールドヒットのノウハウを知る布陣をそろえて、確実に世界の視聴者を狙いにいく『Lupin/ルパン』は製作続行が決定しています。時期は未定ですが、シーズン3の配信まで、気長に待つファンも多いのではないでしょうか。