テレビドラマ「ドラゴン桜」(TBS系)が盛り上がっている。学力が低くやる気のなかった子が東京大学合格を目指すストーリーだが、実際に奇跡を起こしたリアル「ドラゴン桜」がいる。10人の現役東大生とその親に取材した書籍『ドラゴン桜「一発逆転」の育て方』(プレジデント社)の企画に携わった経済学部4年の西岡壱誠さんと、OBの岡崎拓実さんがそのエッセンスを語った――。

※本稿は、『ドラゴン桜「 一発逆転」の育て方』『プレジデントFamily2021夏号』(いずれもプレジデント社)の一部を再編集したものです。

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■東大合格なんて「ウチの子は関係ない」と思ってはいけない

【西岡壱誠さん(以下、西岡)】この本(『ドラゴン桜「一発逆転」の育て方』)は、一発逆転合格した東大生10人とその親に話を聞き、逆転を支えた秘密を明らかにする本です。

「東大は神童といわれるような天才が行く場所だから、うちとは関係ない」と思っている人が多いと思うんです。でも僕のようにもともと東大とは程遠かった人たちもいて、そういう学生って、たいてい個性的です。だから、どんな子でも高みを目指したいと思ったら、そのときに自分で可能性を狭めずチャレンジしてほしいというメッセージを込めています。

【岡崎拓実さん(以下、岡崎】僕たちドラゴン桜「一発逆転」プロジェクトのメンバーがコンセプトを考えました。一発逆転東大生とは、不登校、成績低迷、通っている学校や家庭の状況など、高校1年生の段階で、誰が見ても東大合格からは程遠かった子たち。

【西岡】そんななか自分でスイッチを入れて前に進んだ結果、逆転合格を手にした。そういう子を“ドラゴン桜的な東大生”だと思っています。だから今、お子さんが東大合格とは程遠いと思っている方も、何かのきっかけで、一発逆転を果たす可能性があるということです。

【岡崎】僕たちもある意味、一発逆転合格ですね。僕は高校1年生のときは、偏差値45でしたから。

【西岡】僕は偏差値35(笑)。一発逆転合格した子って、受験が成功体験になっているから、大学に入ってからも面白いことをやっている子が多いです。少し上の世代で、スタディーツアーの企画や、社会問題をわかりやすく伝えるメディアの運営をしているリディラバ代表・安部敏樹さんも、中学のときに荒れていた一発逆転合格の代表格ですね。

【岡崎】本書に出てくる一発逆転合格の子たちも、個性的な子ばかり。三重県尾鷲市の地方創生を手伝う一方で、表現者になりたいと、演劇の勉強をしている子がいたり。自身が体得した勉強法の本を執筆している子もいます

■壁を作らせのりこえさせよ!

【西岡】彼らが個性的なのは、受験を通して、めちゃくちゃ頑張ったら世界を変えられるという経験をしているからだと思うんです。そもそも一発逆転合格した子って、壁を自分で設定しているんですよ。

たとえば神童といわれて育った子や、親が東大出身者で東大が身近な存在だった子、半数以上の生徒が東大を受験するような学校の子なら、自分で壁を設定したというより、成長したら自然に東大受験があったという感じ。

でも一発逆転合格の子たちは、そういう環境がない中で、自ら東大合格という高い壁を設定した。この「壁を自分で見つけて決めたこと」が、大きな意味を持つんだと思います。

撮影=堀 隆弘
ドラゴン桜「一発逆転」プロジェクト岡崎拓実さん(写真左)と、西岡壱誠さん(写真右) - 撮影=堀 隆弘

【岡崎】僕は、一発逆転合格者が面白いことをやっているのは、親の期待のなさが関係しているんじゃないかと思うんです。進学校出身の子は親の期待が大きいと思います。子供が東大を出て大企業に就職することは一大プロジェクト。

ドラゴン桜「一発逆転」プロジェクト&東大カルペ・ディエム『ドラゴン桜「一発逆転」の育て方』(プレジデント社)

だから、「教育にお金も手間もかけてもらっているんだから、ちゃんとしなきゃ」という思いが強い。「お笑いをやりたいけれど、そんなことは言えない」とか、道を自由に選びにくい傾向があると思います。進路を選ぶにしても親の意向や世間の評価を気にしてしまい、その後悩み続けるというように。

その点、一発逆転合格した子は東大合格が突発的なことだったので、自由なんですよね。だからいろんなチャレンジができる。

【西岡】東大には“もったいないおばけ”がいるんですよ。せっかく東大に入ったんだから、官僚になるか、お金を稼げる職業についたほうがいいって思わせる。ですが一発逆転合格した子は、世間体にとらわれない。推薦入試で入って、今でも自分が東大生って信じられないという子は、教育にすごく関心が高くて、「私は今までにない仕事をつくる」って言っていますからね。世界に影響を及ぼす“チェンジメーカー”は一発逆転合格した人たちから生まれると思います。

■“やれま線”“できま線”を決めるな!

【岡崎】僕はもともとバスケットボールをするためスポーツ推薦で高校に入ったのに、けがをしてしまい2年生で部活をやめてしまった。そのあと目標を失ったことに気が付き、なんのために高校に行っているのかと、軽いうつ状態になってしまいました。周りに何かを言われたわけではないけれど、友人たちの目も気になるし、親に申し訳ないし……。

それで何かないかなって思っていたときに見つけたのが大学受験という目標。予備校のイベントで現役東大生と話す機会があって、東大生って話しづらい人たちを想像していたんですけど、話しやすいし、かっこいいなって思ったのがはじまりです。

【西岡】僕の場合は、高校の先生の言葉がきっかけでした。中高生活、何をやってもうまくいかず、いじめられっ子で、何とかしなきゃいけないのはわかっているけれど、ゲームが楽しいなって……。

学校で頭をけがして病院に運ばれた帰り道に、付き添ってくれた先生が「おまえは中途半端なやつだな」って。「人間は自分で線引きをする。それは“なれま線”“できま線”なんだ。でもその線は幻想で、おまえはその線を越えてどこまででも行けると思うよ」って言ってくれたんです。

そのときに初めて、高い目標を立ててやってみるかって思った。それで東大を目指すことにしました。その後、2度落ちて、やめようかなと思ったけれども、やめなかったのは、自分が線の内側にまだ居続けるのは嫌だなと思ったから。

【岡崎】僕らが頑張れたのは、そばに自分を信じてくれる人がいたのが大きいです。僕の場合、子供の頃から親がとにかく褒めてくれた。「スポーツ選手になりたい」と言ったとき、否定せずに「いいね!」って言ってくれる。

僕は目標がないと何もできない人間なんですけど、目標が見つかれば、頑張れる。それは、やっぱり親が褒めてくれて、自信を持たせてくれたからだろうと思います。東大を目指すって言ったときも「行けるはずがない」とは言われなかった。

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■ネガとポジ2つのモチベーションが大事

【西岡】いい目標に出合えることも大事ですよね。

【岡崎】高校2年生の僕の状況が絶望的だったから、東大がキラキラした目標に見えたというのもある。バスケをやめてしまったという劣等感を、東大に行くことでチャラにしたかったんです。

【西岡】一発逆転合格した子の話を聞いていると、岡崎さんのように「東大生ってかっこいい」などのプラスのモチベーションと、「部活をちゃんとできなかった」などのマイナスのモチベーションの両方を持っている子が多いですね。

僕の場合は親だったり先生だったり「信じてくれる人がいる」というのがプラスのモチベーションで、「今までグズグズだったのでどうにか変わりたい」というのがマイナスのモチベーション。でも両方あるほうがいい。

なぜかというと、たとえば模試の結果が出たときに「自分なら行けるかも」とプラスに思う半面、「いや、これぐらいじゃダメだな」とマイナスに思わないと馬力が出ないから。一発逆転合格するには、両方必要なんですよね。

■方向は示すけど、レールはひかない

【西岡】『ドラゴン桜』に矢島という子が出てきます。矢島の兄2人は小さいときから成績がいい。親が喜ぶから、と勉強してきた優等生タイプ。一方、本人は落ちこぼれなんですけど、桜木と出会ってスイッチが入り、自分のために勉強しはじめて1浪の末、東大に入るんですね。一発逆転合格する子は、矢島タイプで自分のために勉強する子が多いと思う。その場合、試行錯誤するので気が付くのに時間がかかりますが、スイッチが入れば急成長するんですよ。

あと一発逆転合格した子の親は、子供の人生にレールを敷くのではなく、道は示すけど荒野に放っている。「目指す方向はこっちだけど、道は自分でつくるんだよ」っていう感じですかね。そうすると、子供は最初は、あちこちぐるぐる回って遠回りもするんだけど、「あ、こっちだな」とピンときたら、そこに向かって走りだす。その“こっち”が東大の場合もあるし、それ以外の場合ももちろんあります。

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■子供と“フラットな関係”を作れ!

【岡崎】方向性は示すけど、やり方は親が決めていないんですよね。一発逆転合格する子の親は、子供のすることに肯定的。仲がいい親子が多い。

【西岡】結局、それって親子がお互いを個人として尊重しているってことなんですよね。中学生くらいになると親に上から言われる関係だと、子供は親の言うことは聞かない。親も子供の言うことに耳を貸さないと思うんです。親が子供とフラットな関係で話すことは、大事なのかなと思います。

【岡崎】いわゆる、友達親子みたいなケースが多いですよね。

【西岡】仲がいいのは、親御さんの努力かと思ったらそうでもなくて、「仲がいい状態でありたい」と互いに思っているんですよね。うちは大学受験のときに家で「もうダメだ」ってマイナスなことを言ったら、母親が「うるさい」って。

「私まで気分が悪くなるから、今からマイナスなことを言うたびにあんたの小遣いから100円ずつ減らす」って“マイナス貯金”を提案されて、なんだこれはって(笑)。たいていの親は「そんなマイナスなことを言ったら、受験に響くわよ」とか教育的なことを言いそうですけど、そうじゃなくて「私が嫌だ」って言われたんです。

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【岡崎】上からこうしなさいと言われるより、「私が嫌だ」と言われるほうがいいですね。親には親の生活がある。受験に関しても、受かっても落ちてもどっちでもいいと思うことは親しかできないって、『ドラゴン桜』にありましたね。喧嘩をしても、対等なら後から「心配してくれてたんだな」とか「言い方が悪かったな」とか、こちらも反省する。

【西岡】歩み寄りですよね。いつか自分に子供ができても、やっぱり友達のような関係になりたいと思います。

【岡崎】僕もそう思いますね。僕は、子供に東大に行ってほしいとは全然思いません。自分は東大に行ってよかったけど、子供が何に幸せを感じるかは違うから。

【西岡】ただ僕は自分が全然勉強しなかったから、「勉強はしておくと、けっこういいことがあるぜ、マジで」って伝えたいですね(笑)。

ドラゴン桜「一発逆転」プロジェクト
西岡 壱誠さん
東京大学経済学部4年。カルぺ・ディエム代表。『東大思考』『東大読書』などのベストセラー著者でもある。
岡崎 拓実さん
東京大学文学部美学芸術学専修卒。現在はフリーランス編集者として旅行雑誌などの編集をしている。

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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
東京大学経済学部4年 カルぺ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35の無名校から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中、独自のスマホ勉強術を駆使して東大合格を果たす。自身のノウハウを全国の高校生に教える傍ら、人気漫画『ドラゴン桜2』(講談社)に情報提供を行う「ドラゴン桜2 東大生チーム『東龍門』」のプロジェクトリーダーも務める。『東大式スマホ勉強術』(文藝春秋)、『東大思考』『東大読書』など著書多数。
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岡崎 拓実(おかざき・たくみ)
編集者
東京大学文学部美学芸術学専修卒。現在はフリーランス編集者として旅行雑誌などの編集をしている。永 拓実名義で著書に『大遺言:祖父・永六輔の今を生きる36の言葉』がある。
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(東京大学経済学部4年 カルぺ・ディエム代表 西岡 壱誠、編集者 岡崎 拓実 文=池田純子)