日本における女性社長の比率は拡大しているが、資金調達などの面でのハードルは高い(写真:ふじよ/PIXTA)

労働人口が減少の一途を辿る中、女性を戦力化できない日本企業に未来はない。女性従業員の活躍推進のみならず、企業における女性リーダーの拡大も大きな課題だ。

『週刊東洋経済』6月7日発売号は、「これが世界のビジネス常識 会社とジェンダー」を特集。組織のトップである「社長」となると、国内における女性比率はわずか8%と圧倒的に少ない(帝国データバンク調べ、2020年4月末時点)。大企業における社内昇格で女性社長が誕生するのは数えるほどで、起業をする場合でも、男性の起業家と比べて女性の廃業率は高い。女性社長の活躍を阻むボトルネックは、いったいどこにあるのだろうか。

「女性社長.net」を運営し、女性経営者・個人事業主の事業継続サポートを行うコラボラボの横田響子代表に聞いた。

女性社長のバックグラウンドは多様

――日本の女性社長の割合は1割未満と、男性に比べると圧倒的に少ないのが現状です。

確かにまだ少ないのですが、ここ10〜15年の間の推移を見ると、女性社長の比率は倍増し、層が厚くなりました。今、女性社長は、個人事業主も含めると国内で150万人ほどおり、そのバックグラウンドは男性に比べて多様です。社内昇格はまだ少ないのですが、企業でバリバリ働いたすえに独立した人、主婦から一念発起して起業した人、子どもを育てながら長年大企業の管理職を務め、子どもが大学に入って親元を離れたことをきっかけに「組織論の中で動くのではなく、純粋に仕事がしたい」と起業を決断した人などです。


活躍の場にもバリエーションがあります。ベンチャーキャピタルから巨額の資金調達をして、大きな会社を作る人だけが成功者ではない。たとえば、地方で社員数名の企業を経営しながら、地域社会への深い知見を買われて地元の審議会で貢献している人がたくさんいます。

そして5年ほど前からは、資金調達に成功して事業をスケールさせていくような女性起業家もかなり増えてきました。こうした女性たちが、他社の社外取締役として経営能力を生かす機会も多くなってきています。

――活躍の場が広がった背景とは?

端緒となったのは、2000年頃になってインターネットが一般にも普及し始めたことです。これにより、多額の資金が手元になくても起業が可能になりました。ちょうどそのころ、女性のための起業塾も始まって、普通の女性が「起業っていう選択肢もあるんだ!」と気がついた。


横田響子/よこた・きょうこ●1976年生まれ。お茶の水女子大学卒業後、1999年にリク ルート入社。6年間、人材部門を中心に営業・新規事業立上げ・事業企画を経験し、30歳 のときに退社。2006年に株式会社コラボラボ設立。女性社長を紹介する「女性社長 .net」、女性社長300名が集結するイベント「J300」、女性社長の逸品を販売する 「Wooooomen's!(ウィーミンズ)」などの企画を運営。著作に『女性社長が日本を救う !』(マガジンハウス社)(撮影:今井康一)。

もう1つの変化が起きたのは2010年頃。地方自治体などで、女性の起業に向けた講座の提供が始まったんです。ただ、その結果として男性経営者向けのサポートと女性向けのサポートが分断してしまった。たとえば、女性が地域の商工会などに起業相談に行っても、鼻で笑われて、しょげて帰ってきてしまった、といったことが山のようにありました。

そこで5年前には、経済産業省が女性の起業家支援ネットワークを構築しようと動き出しました。男女で分断されたネットワークを連携させ、女性特有の多様なバックグラウンドに配慮しつつ起業のフェーズごとに支援のやり方を変えていく方向へシフトさせるのが目的です。さらに、東京都では、女性起業家の資金調達を支援するような、本格的な取り組みが行われるようになりましたね。いろいろなところで、サポート体制が整い始めた、というのが現状です。

あきらめ気味の空気すら感じられる

――諸外国と比べると、日本の女性起業家支援は進んでいるといえるでしょうか。

遅れていますね。先進国のみならず、アフリカなどの経済が発展している国でも、女性が自然に起業しています。日本の場合は、女性起業家のポテンシャルを甘く見ている。

海外の女性活躍支援に関するカンファレンスに参加すると、女性の起業支援が一大トピックとして扱われます。一方、日本で開催される場合は、大企業の女性リーダーを育成する話が中心で、起業家については焦点が当たっていない。マイナーなトピックです。若干、あきらめ気味の空気すら感じられます。

――「あきらめ気味」、ですか。

いくら女性の起業支援が重要だと主張しても、たとえば企業からは「いや、うちにはまだ(女性の)部長だっていないから」と言われてしまう。企業では、コーポレート・ガバナンスコードという「黒船」によって、女性の役員比率といった形を整えるところにまずは奮闘しています。

国としても、現在の女性支援は、企業内でのリーダー育成と貧困対策の両輪に振っていて、「女性起業家はまだ根付いていない」というのが結論のようです。

ただ、社内昇格と起業のどちらがより重要か、というのは本質的ではありません。日本が女性経営者を育てるには、この2つを同時進行で支援していく必要があります。それに加えて、女性が社外取締役として外部の組織の経営に関与する。この3つをうまくリンクさせていくことで、女性経営者の土壌が育まれていきます。

ここで社外取締役をあえて挙げたのは、いくら企業内で女性を昇格させていくことが重要だからといって、適任者がいないからといって課長の女性をいきなり取締役にするわけにはいかないからです。そこでまずは、女性起業家など、すでに経営の経験がある女性を社外取締役として招くという選択肢があります。大企業を経験したあとに起業した女性もいますから、企業にとっても、彼女たちとの親和性は低くないはずです。

すでに、大企業を経験し、自分でも起業をし、かつ社外取締役も務めている――そんな女性がちらほらと出始めています。

企業とのマッチング支援が必要

――男性と女性の起業家とで、事業領域に違いはありますか?
 
女性の場合、消費者向けのサービスを展開しているケースが多い。最近なら、(女性が抱える健康問題をテクノロジーで解決できる製品やサービスを指す)フェムテックのスタートアップで女性社長はどんどん増えています。それから、マーケティングやコンサルティングといった、起業にあたっての資金が少なくて済むもの。保育園や介護関連なども、男性に比べると女性が起業するケースが多いようです。

女性独自の観点が生かされる消費者向けの事業が多い一方で、それは課題でもあります。一般的に、BtoCとBtoBを組み合わせたほうが、経営の安定性は高まりますよね。女性の起業家の中には組織で働いたことがない人も少なくないため、BtoB、対企業の事業を展開する、というアイデアがなかなか生まれない。

政策として女性起業家を支援するのであれば、起業そもそもの支援をするだけではなく、まさにこの部分――企業とのマッチング支援に力を入れるべきです。

――起業後の収益基盤作りに、女性の起業のボトルネックがあるということですね。

そう。そもそも、従前の女性の起業は、主に人脈と資金においてアドバンテージがないため、男性の起業よりも廃業率が高いのが現実です。また資金調達面も、以前よりはハードルが低くなったとはいえ、“マッチョ系”の組織だけを経験した男性のベンチャーキャピタリストが審査をするのであれば、不利な部分もある。アメリカなどでは、男性のVCによる女性起業家に対するセクハラが問題になっています。女性のVCがもっと増えることを期待します。

一方、事業が一度立ち上がりさえすれば、女性のほうが経営の安定性は高いという調査結果も出ています。

たとえば不況のときには女性が経営者の企業のほうが、倒産しにくい。リーマン・ショックのときも、アメリカでは女性経営者の企業のほうが男性経営者の企業よりも倒産する確率が低かった、というデータがありました。さらに、創業4年目を超えると、黒字の企業は女性経営者の比率のほうが高くなる。

背景には、女性の企業のほうが無駄な投資をしていないことに加え、これまでのしがらみにとらわれず、堅実な判断ができる傾向にあることが指摘できそうです。

たとえば、サキ・コーポレーションの創業者である秋山咲恵さんは、リーマン・ショックにより業績が悪化すると判明すると同時に、オフィスを駅ビルから町工場へと移すことを決断したと仰っていました。男女関係なく、秋山さんが優秀な経営者であるという要素もあるでしょうが、こうした堅実性は女性起業家の特徴です。

夜の会食に対する女性経営者の事情

――女性の起業家たちは、妊娠・出産や、女性が中心に担うことの多い育児、介護などのケア労働と経営とにどのように折り合いをつけているのでしょうか。

女性の就労率を語る用語として、「M字カーブ」というものがありますね。出産や子育てを機に退職をする女性が増える30代が底になって、20代と40代は上がる。

一方、個人事業主にはM字カーブがありません。みなさん、子どもを生んでも2週間や1カ月で仕事に復帰している。これは、良しあしがあって、つまり個人事業主の場合などは育休を取っても手当が支払われないから、復帰せざるをえないんですね。ですから、子どもを育てながら仕事をするのは当たり前のことです。

代表者のメリットといえるのは、自分で仕事のペースやルールを決められること。子連れ出勤を提唱している方もいれば、会社の中に保育所を作ってしまったところもある。

ただ、男性よりも女性のほうが、家事労働の負担が重いのは経営者でも変わりません。したがって、夜の会食に誘われると大変だ、という声はよく聞きます。

ある女性社長の場合は、親から会社を継いだこともあって古い取引先との会合に顔を出していたそうです。ただ、ご飯を用意して、お子さんに食事をさせてからバタバタとでかけていくので、開始時間に遅れてしまい、相手から怒られたことがあったとか。

ただ、最近は夜の会食を断れる雰囲気に、段々となってきました。前述の女性社長も、最近では会食なしでも仕事は進むことがわかって、よっぽど重要なもの、自分が行きたいものに絞って、あとは子どもがいることを理由に断れるようになった、と語っていました。

今は、子どもがいる女性のみならず、若い世代も会食文化にノーを突きつけ始めている。会食がすべて悪いとは言いませんが、重要な意思決定がされる際、こうした場が機能する余地がない、ビジネスのネットワークの透明化が求められるということでしょう。

『週刊東洋経済』6月12日号の特集は「これが世界のビジネス常識 会社とジェンダー」です。東洋経済では、あなたの身の回りのジェンダー問題についての情報提供を募集しております。「会社でこんな女性差別的待遇を受けた」「男性育休を推奨しているが、休業中にも業務メールが絶えない」など、お心当たりのある方は、以下の投稿フォームまでご意見をお寄せください。https://form.toyokeizai.net/enquete/tko2104b/