「たかが身体の幅くらいの差」かもしれないが、ゴール、ノーゴールの判定が逆になることを考えれば、極めて重大なルール改正だ。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

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 来夏、サッカーのオフサイドは大きなルール改正が行なわれる予定だ。

 今まではオフサイドラインになる相手の選手(多くは最終DF)よりも、手や腕を除く身体の一部が前に出ていた場合、その選手はオフサイドポジションであると判定されてきた。しかし、ルール改正後は、手や腕を除く身体の一部が、相手の選手と同じラインに残っていれば、その選手はオフサイドポジションではない、と変更になる。

 毎年行なわれるルール改正は、文言や解釈の統一を目的とすることが多く、あまりファンに影響を与えることはないが、このオフサイド改正は違う。ルールの内容がはっきりと変わる。「たかが身体の幅くらいの差」と思うかもしれないが、この差によって多くのゴール、ノーゴールの判定が逆の結果を導くことを考えれば、極めて重大なルール改正だ。

 現在、FIFAやIFAB(国際サッカー評議会)で要職を務めるアーセン・ヴェンゲルが、昨年に発したオフサイドの新ルールに関する提案は、いささか安直というか、思いつきに近い発言だと感じたが、わずか2年程度でそのまま採用されるとは、正直驚いた。

 ただし、こうしたオフサイド改正の流れが起きること自体は、必然と言える。VARが導入されたからだ。

 基本的なことだが、審判は自分たちの目で見て、確認をしなければ、笛を吹けない。想像や周りの雰囲気、審判以外からの情報によって判定を行なうことは許されていない。それは副審も同じだ。当該選手がオフサイドポジションに居たことを、自分の目で確認しなければフラッグアップはできない。つまり、「疑わしき」に留まる場合は、プレーを流すしかなく、これはオフサイドもファウルも同じだ。

 しかし、2017年から広く導入が始まったVARシステムでは、「疑わしき」を映像で確認できるため、頭が出ていた、つま先が出ていた、といったセンチメートル単位のオフサイドを、ルールに忠実に、確信を持って見極めることが可能になった。今まではグレーのまま流した微妙な事象でも、白、黒とはっきり区別できるため、結果としてオフサイドと判定される場面が広がったことになる。

 意図せず守備優位に傾いてしまったので、だったら今度は、オフサイドと判定される場面を狭くする方向へ、ルールを調整しようと。ヴェンゲル案の妥当性はともかく、攻守のバランスとして、オフサイド緩和の動きが出るのは必然だった。

 そして、「思いつき」と揶揄はしたが、このヴェンゲル案は意外と悪くない面もある。ファンの満足度を高める可能性が高いからだ。

 今まではゴールが決まったとき、遡って、頭が出ている、つま先が出ていると、センチメートル単位のオフサイド判定により、ゴールが取り消される場面が起き、ぬか喜びをしたファンがストレスを抱えていた。
 
 しかし、新ルールの場合、頭やかかとがセンチメートル単位でも重っていれば、ゴール判定となる。

 身体がまったく重ならず、前に出ているときは、ファンからも「もしかしてオフサイドじゃないか?」と想像もつきやすいが、そこで意外にもかかとが残っており、ゴール認定となれば、同じデリケート判定でも、会場は「ワーッ!」と意外なゴールに沸くだろう。逆に、重なっておらずゴール取り消しになったとしても、映像的には「かなり出ていた」というインパクトがあり、大きな不満は出ないのではないか。 VARがデリケートな判定を行なうことは変わらないが、身体の一部の重なり、という微細な部分を全部オンサイドにしたことで、その結果がポジティブな方向、つまりゴールへ転ぶようにした。サッカーファンに満足してもらう、つまり目先の顧客満足度を高める意味では、妥当なルール変更だ。ジャンニ・インファンティーノ会長のFIFAはその点を極めて重視している。