「優秀な学生しか入れない」イメージの会社TOP20
伊藤忠商事は「優秀な学生が内定を取るイメージが最も強い企業」の調査で首位。2位以下に圧倒的な差をつける(撮影:梅谷秀司)
新卒採用を担当する人事が気にするのが「就職人気ランキング」だ。採用・就職支援を行う企業が、学生が「いい会社」と考え「入社したい」と志望する企業を調査・集計して発表しており、理系・文系、男子・女子などのカテゴリー別のデータも公開されている。願望や高望みも少なくないはずだが、「もしかしたら内定をもらえるかもしれない」という可能性のある企業に投票している。
今回紹介するのは、少し趣が異なり「あなたの志望の有無にかかわらず、優秀な学生が内定を取るイメージが最も強い企業を1社お選びください」という設問だ。自分ではなく、「優秀な学生」が内定をもらえる企業を想定してもらっている。自分が「入りたい」「入れるかもしれない」企業ではなく、「自分より優秀な学生だけが入れる」企業を問うている。この調査で、学生が考える就職難関企業が見えるはずだ。
エアラインは急降下
この調査は、HR総研が2022年卒の「楽天みん就」の会員学生を対象にして今年の3月に実施した調査の結果だ。1人1社にしか投票することはできず、1票の重みは重い。
「就職人気ランキング」企業は長期的に見ると変動するが、短期的、中期的には安定した顔ぶれだ。かつてトップグループの座に君臨していたメガバンクやマスコミ系は下降傾向にある。
強さが目立つのは総合商社、コンサル系、IT系だ。メーカー系ではソニー、トヨタ自動車、パナソニックが常連だ。また、食品・飲料メーカーの人気は高位安定している。コロナ禍以前は運輸系、とくに航空2社(ANA、JAL)の人気は絶大だったが、現在は急降下している。
「優秀な学生が内定を取るイメージが最も強い企業」も、少しこのような傾向を持っている。ただし、「就職人気ランキング」企業のすべてが「優秀学生=内定イメージ」と判断されるのではない。就職難関企業と判断される最大要因は「学歴」だと思う。実際に東大や早慶大ばかりを採用しているかはどうかはともかく、学生たちが「高学歴でなければ入れない」と思い込んでいる企業がある。
学生はどういう情報で企業の「学歴」基準を判断しているのだろうか?
まず、誰でも入手できる学歴情報が「採用実績校」だ。採用している大学の名前が、五十音順でなく順不同である場合、採用数が多い大学順にするケースが多い。先頭に有名大学、高偏差値大学が記載されていれば、高偏差値大学からの採用人数が多いと予測される。
実際の採用人数の多寡はともかく、採用したいと考える大学順ということもある。いわゆるターゲット大学を先頭のほうに記載することで、その大学の在校生からの注目を集めたいというわけである。いずれにしても企業側が有名大学や高偏差値大学の学生を意識していることがわかる。
もう1つの情報入手法が、口コミ情報が記載されている就職関連サイトだ。10年ほど前までは楽天『みんなの就職活動日記(現・みん就)』くらいしかなかったが、2010年代後半になってからさまざまな口コミサイトが登場して急成長している。その影響力は年々増大している。
エントリーシートの書き方から始まり、実際に書類合格したエントリーシートの記入例、面接の特徴や具体的な質問内容、内定時期、さらには新卒就活生の口コミだけでなく、その企業の社員や元社員の口コミなど、多彩な口コミ情報が掲示されており、企業の学歴基準や社内事情もあれこれと書き込まれている。
ランキングの上位は?
さて、これらの情報に接して企業を吟味する学生が判断した、「優秀な学生が内定を取るイメージが最も強い企業」はどこなのであろうか。
社名とともに票数に着目してもらいたい。12位までは2桁以上だが、13〜20位は1桁と、大きな差がある。とくに1位の伊藤忠商事は総合133票、文系102票、理系31票と他を圧倒している。
総合商社と呼ばれる企業は7社あり、かつては財閥系(三菱商事、住友商事、三井物産)の就職人気が高かったが、近年は伊藤忠商事が高位安定している。今回の調査では6位三菱商事(総合19、文系11、理系8)と17位三井物産(総合6、文系4、理系2)がTOP20に入っているが、票数では大きな差がある。
学生コメントでは、「高学歴」「高倍率」「学歴フィルター」という言葉が目立つ。意図的かどうかはわからないが、新卒採用市場において伊藤忠商事は、「高学歴採用の難関企業」という図式が定着しているように見える。志望する学生は自信があり、「ひとつ試してやろう」というチャレンジングな学生が多いだろう。こういうタイプは商社向きで、伊藤忠の欲しい人材タイプだと思う。
「規模の大きい商社で、高学歴の社員が多いイメージがある」(文系・早慶大クラス)
「学歴フィルターがあるため」(文系・上位私立大)
SNS上での露出が多い
2位は、外資系コンサルのアクセンチュアだ。伊藤忠商事には遠く及ばないが、総合で60票(文系43、理系17)はかなり多い。コンサル・シンクタンクでは、10位に野村総合研究所(総合11、文系5、理系6)、17位にアビームコンサルティング(総合6、文系5、理系1)がランクインしているが、アクセンチュアとの差は大きい。現在のアクセンチュアの知名度は圧倒的だと言っていいだろう。
かつては激務で知られており、高倍率、トップ校採用でも有名だ。
「外資のコンサルティングファームは、若手のうちから激務で大変そう、かつ日々の勉強が非常に求められる職種だと思うから」(理系・旧帝大クラス)
「トップ校しか採用していないイメージ」(理系・早慶大クラス)
「倍率が非常に高いことで有名であり、周囲でも目指したいが応募を諦めた友人もいる」(文系・上位国公立大)
アクセンチュアの名前はSNS上でよく見られるものらしい。同社を志望する学生のネット活動量はかなり多そうだ。
「早期選考があり、SNS上で内々定情報が出回っている」(理系・上位国公立大)
インターネットを背景に急成長を続けているGAFAは、いずれも若い企業だ。Appleは1970年代に誕生しているが、その他は2000年前後に誕生している。日本にもITとネットによって急成長した若い企業がある。3位楽天(総合43、文系37、理系6)と17位サイバーエージェント(総合6、文系3、理系3)は、1990年代後半のスタートで歴史は20数年と浅い。
楽天は楽天市場、サイバーエージェントはアメーバブログやABEMAで知られているのだろうが、実際は多角的な事業構造を持っている。そして、楽天が有名になった理由はビジネスの成功だけではない。2010年に「英語公用語化」を宣言し、実践したことが大きい。そして楽天は、グローバル企業のイメージをまとった。学生にとっては「語学力採用」に対する関心が強い。
「社内の公用語が英語だから」(文系・中堅私立大)
「グローバルに活躍できる学生が内定をもらえるイメージだから」(文系・早慶大クラス)
キーエンスは“例外的存在”
4位キーエンス(総合30、文系14、理系16)の特色は、他と比べて一般的な知名度の低さだ。TOP20の中では例外的な存在だ。工場自動機器向けのセンサーや計測機器を手がけるBtoBメーカーであり、一般人が手にする製品ではないため、この会社を知っている人は極めて少ない。学生は知っていても、その親は知らないかもしれない。
TOP20にはメーカーが多く、キーエンス以外にも8社ある。業種はさまざまだが、すべて大量にCMを流している、一般消費者にも馴染み深いメーカーばかりである。5位ソニー(総合23、文系10、理系13)、8位味の素(総合16、文系10、理系6)、9位トヨタ自動車(総合15、文系5、理系10)、10位資生堂(総合11、文系5、理系6)、13位富士通(総合8、文系6、理系2)、13位任天堂(総合8、文系4、理系4)、13位旭化成(総合8、文系1、理系7)、20位パナソニック(総合5、文系4、理系1)となっている。
こういう有名企業を押さえて、4位がキーエンスだ。ソニーよりもトヨタ自動車よりも上位である。なぜ学生には知れ渡っているのか? その秘密は給与である。
「年収が高いため優秀な人材が揃っているイメージがある」(文系・早慶大クラス)
就職に関する条件で最もわかりやすいのは「給与」だ。そして、Googleで「日本一給与が高い企業」を検索すると、「キーエンス」が表示される。ただし、昔から有名だったわけではない。キーエンスの知名度がここまで上がったのはここ数年の出来事だ。そして、一度「日本一」という評判が立つと、それが拡大再生産されていくのだと思う。
ソニーについては説明する必要はないだろう。iPodが発売された2001年まで、携帯音楽プレーヤーの代名詞がソニーのウォークマンだった。いまもソニー製品を愛好する人は多いだろうが、1980年代、1990年代までソニー製品には多くの信奉者がいた。Apple創業者でiPhoneの生みの親であるスティーブ・ジョブズもソニー製品の愛好家だった。そういう製品に対する信頼や伝説は今も健在だ。
「私たちにとっても馴染みが深く、優秀なイメージが強い。名前を目にすることが多い」(文系・中堅私立大)
広告業界には制作会社も含まれるが、広告代理店を指すことが多い。その人気は数十年前から高く、今も続いている。学生が憧れる理由は、メディアへの露出という華やかなイメージだろう。出版・新聞・テレビ業界の人気とかぶっていると思う。そして、広告業界を代表するのが「電博(デンパク)」だ。今回の調査でも6位電通(総合19、文系15、理系4)、20位博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ(総合5、文系4、理系1)がランクインしている。
広告代理店はテレビ、新聞、雑誌、インターネットなどのメディア(媒体)への広告を扱う。サイバーエージェントのようにインターネット広告に特化した広告代理店もあるし、電博のようにすべてのメディアを扱う代理店もある。
しかし、広告だけを扱っているわけではない。オリンピックのような大型イベント、大規模空間プロデュース、都市開発などのプロジェクトにも関与している。そして、広告業界の中でもとくに電通が得意とするのが、大型予算がつく未来社会開発プロジェクトだ。学生はよく理解して、電通に憧れている。
「広告業界の最大手であり、採用人数も少なく、年収も高く、世間的な評判も高いため、優秀な人材が多く集まる印象が強い」(文系・早慶大クラス)
採用活動はマーケティング
「優秀な学生が内定を取るイメージが最も強い企業」とは、学生が考える「就職最難関企業」と言ってもいい。商社や広告代理店などは昔からの難関企業だ。新興の難関企業もあり、代表格がアクセンチュア、楽天、キーエンスだ。1位伊藤忠商事の座は当面揺るぎそうにないが、アクセンチュアなどの名前も上位を占めるだろう。今回の調査では17位だったアビームコンサルティング、サイバーエージェントも常連になりそうだ。
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10年前に学生の多くが知らなかった企業が上位を占め始めた背景に、口コミ情報がある。ひとつの口コミから連鎖が始まり、消えることがない。一度話題になるとずっと話題になって知名度が上がっていくように見える。
採用活動はマーケティングでもある。学生に自社イメージを醸成してもらい、志望度を上げてもらう。これまでは採用ホームページや就職ナビのコピーやビジュアル、若手社員の人選を工夫すればよかった。しかし、学生の口コミは制御できない。採用人事の頭痛の種になりそうだ。