一見シュールなおもしろ映像……と見せかけて、実は深い歴史と新しい挑戦がそこにはありました。



「おきあがりドローン仏できました」というコメントと共に、ビョン! と立ち上がりフワッと浮き上がる「仏様」。この神々しくもシュールな動画が大きく話題になっています。

動画を投稿したのは、仏師であり、仏具系ポップユニット「佛佛部」の部長を務める三浦耀山(@biwazo)さんです。

おきあがりドローン仏できました(@biwazoより引用)

おきあがりドローン仏できました pic.twitter.com/aZyPeDNAW5- 三浦耀山 (@biwazo) June 4, 2021

臨終する信者を迎えるために、阿弥陀如来が西方極楽浄土から迎えに来る「阿弥陀来迎」。歴史や美術の教科書で、またお寺で、一度は見たことがある方は多いでしょう。

この「ドローン仏」、「阿弥陀来迎図」で阿弥陀如来や菩薩たちが雲に乗って降りてくるさまを、ドローンを使って表現したものだそう。

お寺のお堂の中にあるドローン……? と思いきや


勢いよく立ち上がり、飛び立つ仏様


もう一人も合流、雲もといドローンに乗って飛ぶ様子はまさに「阿弥陀来迎図」だ


「阿弥陀来迎」を、現代的な手法で立体的動的に表現した三浦さん。そのユニークで画期的な表現方法は大きな反響を呼び、1.3万件のリツイート、3.2万件のいいねの反響が。再生回数は52万回にも上り(6月7日時点)、多くのコメントも届いています。

「太古の人類が目撃した宙に浮く仏様は、このドローンがタイムスリップしたものだったのですね……!」「すごすぎ。笑いが止まりません……」「だめだ、お二人目が浮上した瞬間に耐えれませんでした」「いっぱい飛ばして空中曼荼羅も見てみたい(笑)」

リプライ欄や引用リツイートには、感心する人もいれば、シュールな映像にユーモアを感じる人までさまざまなコメントが寄せられています。

空飛ぶ「ドローン仏」、制作者の三浦さんが作った意図とは? またこれほどの反響をどう受け止めているのでしょうか。ご本人にお話を伺いました。

○平安時代から仏師は仏像を宙に浮かせようとしていた!?

――「ドローン仏」を制作しようと思ったキッカケをお教えください。

仏教の教えに「阿弥陀来迎」というものがあります。これは、人が亡くなるときに阿弥陀如来が多くの菩薩を引き連れて、紫雲に乗って西方極楽浄土から迎えに来ることを言います。平安時代に盛んに信仰され、仏画には多く描かれました。

実際に仏像を宙に浮かすことはできないですが、昔の仏師は宙に浮いたさまを色々な表現で見立てる挑戦をしました。代表的な仏像として、京都府宇治市にある平等院鳳凰堂の「雲中供養菩薩」があります。

――「雲中供養菩薩」は、雲に乗った仏像がお堂の壁の高いところに掛けられている菩薩像です。あたかも宙に浮いているように見える、これはこれで迫力があってスゴい表現ですね。

正確には、平等院鳳凰堂の雲中供養菩薩については「阿弥陀来迎」ではなく、極楽浄土の様を再現した仏像ですが、これを作ったのは"定朝"という日本を代表する平安時代の仏師です。それ以降も仏像を宙に浮いているように見せる表現はいくつもなされてきました。

――「仏様が空を飛ぶ」というのは歴史ある表現なんですね。

「ドローン仏」のアイデアは「仏像を宙に浮かしたい」という昔からの仏師の思いを、現代だったらどう表現できるだろうという考えから生まれました。

写真:町田益宏


「ドローン仏」を考案したのは2018年です。この頃からドローンがネットショッピングなどでも気軽に手に入れられるようになり、「仏像をドローンに乗せてみたらちゃんと飛ぶんだろうか」という気持ちから実験を始めました。

――飛び立つ前に起き上がるギミックも注目されています。取り入れたのはどんな理由なのでしょう?

「起き上がる様子」にはカラクリがあって、実はこの動画、逆再生の動画なんです。

「ドローン仏」の飛行を撮影していて着陸した際、偶然仏像の下の両面テープが剥がれ、後ろに倒れてしまいました。映像を編集する際に逆回しして再生したところ、仏像が起き上がってから飛び上がるように見え、非常に魅力的な映像になったので「おきあがりドローン仏」と名付けてアップしました。

まさかここまでバズるとは思いませんでしたが……。

――逆再生だったのですね。後から横に入ってくる仏様のお名前を教えていただけますか?

後から上がってきた仏像は「勢至菩薩」です。

ドローン仏「勢至菩薩」 写真:町田益宏


――動画には大きな反響がありましたが、率直なご感想をお教えください。

この「ドローン仏」、2018年に初披露した際も、撮影した方のツイートがバズった経緯があります。その後、3年かけて改良を重ねたものが再度バズってとても嬉しいです。

目標は26体の「ドローン仏」を一斉に飛ばすことなので、それに向けての大きな励みとなりました。ただ起きあがりの部分に注目してくださった方には申し訳ありません。映像作品として楽しんでいただければと思います。

写真:町田益宏


一見、ドローンという最新技術を使ったトリッキーな表現に見えましたが、背景には深い挑戦の歴史がありました。

ドローン仏の最終目標について、「阿弥陀二十五菩薩来迎図の立体的再現」を掲げる三浦さん。一番の難易度は、プログラミングによるドローン26体の群体飛行だそう。三浦さんの挑戦はまだ始まったばかり……!?

おきあがりドローン仏できました pic.twitter.com/aZyPeDNAW5- 三浦耀山 (@biwazo) June 4, 2021

ドローン仏の最終目標は阿弥陀二十五菩薩来迎図の立体的再現です。現在阿弥陀如来、観音菩薩、勢至菩薩の3体が完成しています。あと23体。。。一番の難易度はドローン26体のプログラミングによる群体飛行です。だれかドローン業界に詳しい、または属してる方、ご協力ください!!写真:町田益宏 pic.twitter.com/sSwR5VLEO5- 三浦耀山 (@biwazo) June 6, 2021