「ナッツの女王」と呼ばれるピスタチオの人気が世界で高まりつつある(写真:fcafotodigital/iStock)

成城石井の「ピスタチオスプレッド」がヒットしたり、製菓各社がアイスやチョコを発売したりと、日本でもにわかにブームとなっているピスタチオ。「ナッツの女王」と呼ばれるピスタチオの需要は目下世界でも増えている。

ピスタチオの需要が伸びている背景には、世界的な健康志向の高まりがある。アメリカの食品業界紙「キャピタル・プレス」によると、プロテインが豊富なピスタチオは植物由来のプロテイン源として消費者の関心が高まっており、食品メーカーがプロテインを使った健康食品を作ったり、高級レストランがピスタチオを取り入れたデザートや料理を売りにし始めているという。

需要に対して生産量が比較的少ない

そこに目をつけているのが、世界の投資家である。今後も製菓、料理、化粧品の分野で需要増が見込まれているのに対して(現在の世界の生産量は76万2000トンで、イラン、アメリカ、トルコの順に生産量が多い)、ピスタチオの生産量は比較的少ないうえ、栽培も容易でコスト負担が少ないとされているからだ。

こうした中、スペインでもピスタチオの栽培熱が次第に増している。現在、スペインでは3万ヘクタールがピスタチオの栽培に使われている。その最大の生産地はカスティーリャ・ラ・マンチャ州である。同州はスペインで最大量のワインを生産している地域でもある。

同州では現在、2万1500ヘクタールがピスタチオの栽培に充てられており、毎年1500〜2000ヘクタールのペースで拡大されているという。このほか、アンダルシア、ムルシア、カスティーリャ・イ・レオン、カタルーニャの4つの自治州がピスタチオを生産。しかし、生産量はカスティーリャ・ラ・マンチャ州と比べまだ非常に低い。

もっとも、栽培に手間がかからないということから、例えばバレンシア州のようにオレンジの生産が採算に乗らなくなっている地方では、ピスタチオの生産に切り換えて行く可能性は十分にある。ピスタチオが収穫できるようになるには、4、5年を要するとされるため、転換には時間を要する点がデメリットだが、いったん転換できればピスタチオの木は50年持つとされる。

バレンシア州でオレンジの栽培が儲からなくなってから柿の栽培を始めた農家が結構ある。名前の通り日本から持って来た柿である。スペイン人の間でもKakiと呼ばれている。一部の地域では語尾変化してKequiと呼ばれているところもある。ところが、用途が少なく、需要がかぎられているのが悩みの種。その点、ピスタチオは前述の通り、菓子や料理など用途の幅が広い。

ピスタチオを栽培する容易さは、気候の変動にあまり影響されないということだ。気温が冬は摂氏マイナス30度から夏は40度の高温まで耐えることができるという。また灌漑しなくても育つ。スペインのように土壌が肥沃な国ではピスタチオを栽培するのにあまり手間がかからないということだ。

経済メディア「リブレ・メルカード」によると、収穫面だと採算ベースに乗り始めるのは4、5年目からで8年目から収穫率が非常に高くなって1ヘクタール当たり2000キロを収穫できるようになるという。10年目には1ヘクタール当たり9200ユーロの収入を得ることができるようになるとしている。

また、「イベロ・ピスタチオ」は、雨量に依存するという自然灌漑だと1ヘクタールあたり7200ユーロ、灌漑を施す場合だと11000ユーロの収入が得られるようになれば利益率はよくなると指摘している。8、9年以降は、利益が成長し続けるようになるとも言及している。

ピスタチオ栽培は収益性が高い?

カスティーリャ・ラ・マンチャ州によると、目下、ピスタチオの相場はキロ当たり6ユーロ60セント、オーガニックの場合は10ユーロから10ユーロ30セント。同州は、穀類やオリーブ、アーモンド、ワインなどの栽培と比較してピスタチオの栽培は非常に収益性が高いとしている。

スペインがオリーブとワインの産地だというのは、世界的によく知られているが、アーモンドの生産も盛んだ。生産量においてはアメリカがダントツで、年間およそ200万トンを生産しているが、スペインはこれに次いで2番目に生産量の多い国で、年間で20万トンを生産している。スペインにはアーモンドを主体にした伝統料理「ヌガートゥロン」もある。

経済紙「シンコ・ディアス」によると、スペインの2019年のピスタチオの輸出額は63万2000ユーロ(8400万円)、輸入は131万ユーロ(1億7400万円)と、需要に比べ生産量がまだ追いついていない状態だ。この意味でもスペインにおけるピスタチオ栽培は伸びしろがあると言える。

冒頭のとおり、投資家もピスタチオには熱視線を送っている。例えばポルトガルの農業ビジネスへの投資を手がけるポルトガルのツリーモンドグループは、投資銀行GBSファイナンスの仲介で、ワインで知られるオズボルネグループから今年1000ヘクタールの耕地を購入。ピスタチオの栽培に充てる目的だ。またツリーモンドは、近い将来ポルトガルとスペインで6000ヘクタールの土地を購入してピスタチオの生産量の拡大を目指しているという。

また、ドライフルーツ専門のスペイン企業ボルヘスも724ヘクタールの耕地を購入してアーモンド、クルミ、ピスタチオの栽培に充てるとしている。「ピスタチオビジネス」ははたしてどこまで広がりを見せるだろうか。