(写真:則武地所HPトップページより、最終閲覧日:2021年5月18日)

渦中の会社が“案の定”倒産した。東京・八王子市で発生したアパート階段崩落死亡事故の施工会社「則武地所」(神奈川県相模原市)が5月13日、自己破産を申請したのだ。

負債は債権者120名に対し約6億円。4月17日の事故発生後、ゴールデンウィーク(GW)期間中の4月29日から5月12日まで、「GW及びコロナウイルス感染症拡大防止のため営業自粛」を自社ホームページ上で公表していたが、予定の13日になっても営業再開しないまま、事業継続を断念した。

倒産のニュースが伝わると、赤羽一嘉国土交通大臣は18日の記者会見で、今回の破産事件について触れ、「責任を果たさず破産申請することはあってはならない」と述べた。

同業他社より「2割安い」低単価がウリ

則武地所の創業は2000年。本社のある相模原市とその周辺地域を営業エリアとして、賃貸用3階建て木造アパートの建築を得意とし、10〜15世帯のワンルーム用アパートの建築を主に手がけてきた。投資用不動産として個人地主からの引き合いを中心に、投資効率が高い物件として安定した受注を獲得。

2017年4月期の年売上高は約20億5100万円を上げていた。主力とする3階建て木造アパートの建築単価は、1室当たり250万円程度と、一般的な2階建て木造アパートを扱う同業他社と比べて20%以上低単価に抑えられる点をウリにしていた。

いま思えば、こうした“低単価”は杜撰な「手抜き工事」に支えられていた疑いが多分にあるが、則武地所は4月の死亡事故発生前から、業界内で「コンプライアンス面での課題が散見される会社」(取引先関係者)と見られていた。

たとえば、2020年2月に木くずや廃プラスチック等合計約3663立方メートルを産業廃棄物処理基準に従わない処分を行ったことを理由として、相模原市より廃棄物処理法に基づく行政処分を受けている。

内部管理体制にも以前から、課題が散見された。2017年12月から倒産まで代表取締役だったX氏は登記上の代表に過ぎず、実質的な経営者は「会長」と称するA氏とされていた。

2020年2月に相模原市から受けた行政処分の事案でも、市が公表した資料にA氏が実質経営者である旨やA氏の指示で基準に違反する処理を行っていた旨が明記されている。

このほか、業績が下降線をたどり始めた2018年頃から、取引先の間で工事代金の支払いが遅れているという話が飛び交った。「1年以上、未払いが続くこともザラだった」(都内の工事業者)。売上高が約9億7800万円とピーク時の半減以下となった2020年4月期中には、取引先の間で信用不安情報がたびたび出回る「倒産警戒銘柄」とすでになっていた。

取引先や調査会社の間でこれだけ悪評が流れてはいたものの、すぐに破綻が表面化することはなかった。則武地所の内情まで詳しく知らない一般個人や地主筋からは、一頃に比べて減っていたとはいえ、一定の引き合いがあったからだ。

現在は閲覧不可となっているが、倒産直後に則武地所のホームページ(HP)を閲覧すると、こんな文言が並んでいた。

トップページには「薫るヒノキ、広がる笑顔」とあり、続けて「則武地所は、工程のすべてを自社で行うことで、快適なヒノキの家を驚きの低価格でご提供いたします」とある。

何も知らない人が見たら、この会社に頼んでみようかと思っても不思議ではないほど、好印象を与えるHPだ。まさか死亡事故が発生し、警視庁から捜索を受けるような会社にはとても見えないものだった。

アパート所有者への補償は

国土交通省は13日、則武地所が手がけた集合住宅が東京都と神奈川県に計166件あることを明らかにし、自治体側に調査を求めた。則武地所の自己破産の申請代理人によれば、会社側が施工した他のアパートを点検したところ、少なくとも57の物件で階段の劣化などが確認されたという。

あわせて物件の所有者には、詳細な調査や修理を求める文書を出したというが、則武地所がすでに自己破産を申請した今、会社側ができることには限界がある。

低単価や利回りの良さなどから、則武地所に施工を依頼したアパート所有者は今後、一定の負担を強いられることになるだろう。各地のアパートで暮らす住民にとっては、施工会社ではなく、物件のオーナーに対して修繕を要求するためだ。

通常であれば、物件オーナーは施工会社に対してその費用を請求する流れになるが、破産申請した則武地所に支払原資がそこまであるとは到底思えない。今後の債権調査次第ではあるが、最終的には実際の調査や修理費用は物件所有者が負担して行う他なさそうだ。今この瞬間も、則武地所が施工したアパートには多くの住人が生活しており、オーナー側にも早急な対応が求められる。

死亡事故発生後、則武地所に関する様々な情報が飛び交っている。現場の職人は杜撰な工事にうすうす気づいていたことなどだ。現時点で警視庁が捜査中の段階であり、同社が意図的、組織的に「手抜き工事」を行っていたか断定的なことは言えない。今後、民事、刑事両面から、法廷の場で同社および経営者の責任追及がなされるのだろう。

しかし、事故発生から1カ月も経たずして破産を申し立てた同社の経営姿勢からは、アパート住民や所有者と真摯に向き合う誠実さは感じられない。会社として賠償したくないから、破産を選んだとの誹りは免れないはずだ。