高齢者に対する接種予約が始まった。メディアが接種を過剰に勧奨することに問題はないのか(写真:時事)

日本の医療制度、高齢者医療に詳しい森田洋之医師へのインタビューを4月に2回にわたって掲載した。『コロナ「医療逼迫」に「国民が我慢せよ」は筋違い』では、新型コロナに対する医療提供体制がなぜ整わないのかについて、『「ゼロコロナ」志向こそが人と社会を壊していく』では国民の社会活動制限は効果が薄く副作用が大きいことを指摘した。今回はワクチンについて、私たちはどのように考えたらよいのか、森田医師に話を聞いた。

――最近のテレビ・新聞の報道はワクチンを打たなければならない、ワクチンを打つことで新型コロナは収束するという方向での報道が目立ちます。政治もこれに応じようとしています。新型コロナの流行自体が1年半、こんなに短期間で登場したワクチンへの過信に、危うさを感じます。

最近のテレビはもうあおるのが普通になってしまいました。冷静にワクチンを打つことの意味を考えるべきだと思います。

臨床試験、治験どおりの効果が出るとは限らない

――まず、ワクチンの効果についてどう考えればよいのでしょうか。

ワクチンの効果はさまざまです。例えばすごく効いたワクチンの例がBCGですね。乳児期にBCGを打つことで結核菌に対する強い免疫力ができる。しかも大人になるまで効果が持続するわけです。昔は結核が日本人の死因のトップだったこともあるのに、今は結核での死者はほとんどいない。また、天然痘はワクチンによってゼロにすることに成功しました。しかし、この2つはかなり例外的です。

インフルエンザワクチンは打ってもかかるときはかかる。統計を取ると、打った人の集団は打たない人の集団よりも感染率が3〜4割下がる程度です。また、インフルエンザワクチンは毎年打たないといけない。

では新型コロナウイルスはどうか。まったく初めてのウイルスなのでわからないと答えるのが正解だと思います。例えば、ファイザーのワクチンの発症予防効果は約95%とされています。これはワクチンを打たない集団で発症した数と打った集団の発症者の数を比較すると、95%削減できたという意味です。ただ、これも、限られた治験とか臨床試験の範囲のことです。全世界に提供してみて95%減らせるのかどうかはわからない。


森田洋之(もりた・ひろゆき)/1971年横浜生まれ。医師、南日本ヘルスリサーチラボ代表、ひらやまのクリニック院長。鹿児島医療介護塾まちづくり部長、日本内科学会認定内科医、プライマリーケア指導医、元鹿児島県参与(地方創生担当)。一橋大学経済学部、宮崎医科大学医学部卒。財政破綻後の北海道夕張市で市立診療所長として地域医療の再建に尽くす。専門は在宅医療、地域医療、医療政策など。近著に『日本の医療の不都合な真実』(幻冬舎新書)、『うらやましい孤独死』(フォレスト出版)(写真:インタビュー中の画像、背景は森田医師のクリニック)

ワクチン効果ではなく「自然なエピカーブ」?

――今、イギリスやイスラエルの接種率が高く、それによって感染者数が減ったという報道が多いですが、森田さんは前回のインタビューで違う可能性を指摘されていました。

はい。データをよく見る必要があります。札幌医科大学医学部のサイトでは感染者数の推移と接種率の推移を同時に見ることができ、参考になると思います。部分接種は1回、完全接種は2回ですが、例えば、英国は部分接種率が50%を超えており、イスラエルは60%を超えています。接種率が上昇するとともに、感染者数がどーんと減っているように見えます。

ところが、ワクチンとはまったく関係のない昨年4〜6月の英国の感染の推移を見てみましょう。カーブの形状は似ているのではないでしょうか。同じように急激に増えて、急激に減っている。昨年夏から秋のイスラエルの感染のカーブも今年のカーブと似ています。つまり、単なる自然のエピカーブかもしれないのです。

――確かにそうですね。イギリスは1回の接種率が20%を超えた程度でそんなに急激に減るのかな、という感じもします。今、エピカーブのお話が出ました。感染が増えてくるとそのまま拡大を続けるという恐れを抱きがちですが、実際は、際限なく増えるわけではない……。

そうです。感染症って自然に増減を繰り返します。それを繰り返しながら、収束していきます。

それと、前回、新型コロナの発症や死亡率が欧米と東アジアではまったく違うという話をしました。人種や地域によって免疫に大きな差が出ることはよくあるという話です。実はワクチンの効果についても人種や地域によって差が出るということが想定できます。

接種率の高いアジア3国では感染者が明確に減らない

アジアで接種率の高いところを見てみましょう。例えば、ブータンは接種率が60%を超えていて、モルディブは55%、モンゴルは50%といったところです。この3国について見ると、むしろ感染者数は増えているように見えます。

人口が少ないので当てにならないという見方もあるかもしれません。ただ、ワクチンの効果を妄信していいのか、少なくともイギリスやイスラエルのような成功例が単純に日本で再現されるという保証はない、ということは言えるのではないでしょうか。単なるワクチン神話じゃないのか、という感じになりませんか?

――一時、チリは接種率が高くても収束しないという話があり、シノヴァク・バイオテック(中国)製の問題だとか、行動に問題があるとかさまざまな推測が出ました。

チリは接種率が40%を超えましたが、最近ようやく感染者数は収まってきています。ただ、それがワクチンによるものなのか、自然なエピカーブによるのかわからない。モルディブではアストラゼネカのインド製のものを使っているとのことですが、接種率が50%を超えても下がってこない。言いたいことは、現時点でデータが揃いきっていないのに、単純に感染者数が減った国だけに着目して、それをワクチンの効果だと決めつけていいのかということです。

――抗体の持続期間も6カ月とか3カ月とか、まだはっきりしません。

それもまだ、論文が出つつある状況で、わかるまでには時間がかかると思います。

――ウイルスが変異していくという問題もありますね。

変異株ではまったく効かないということもないようですが、違うワクチンが必要になることもありうるでしょうね。

――接種直後の炎症や発熱は心配ない、アナフィラキシーを起こした人もその後ほとんどが回復していると、政府も多くのメディアも安全性を強調しています。ですが、まだ、接種を早く開始した国でも半年も経っていないので、確たることは何も言えない・・・。

以前にお話ししたように、副反応はすぐに出るものばかりとは限らないことです。「長期的な副反応はわからない」というのは全世界共通です。特に今回は、mRNA、DNA、ウイルスベクターワクチンなど、まったく新しい手法で作られています。数年後にどういう副作用が出るかはわからない。これは若い人の場合はある種の賭けになります。

妊娠出産の可能性がある世代の場合、次世代に影響が出るリスクもないとは言い切れない。安全だと言われながら起きたサリドマイド禍のような最悪の薬害もありました。催奇性と薬との関係がわかるまでにも4年もかかったのです。

コロナ被害の少ない日本で賭けに出るのか?

――テレビの報道では、欧米に比べて日本の接種率が低いこと、接種の予約が取れなくて困っている人の声、さらに世論調査でコロナ感染への不安を「大いに感じる」と「ある程度感じる」が43%ずつ、合計86%だとあおる。これでは、接種に駆り立てているようなものです。世論調査の回答もメディアが脅した結果だろうと思います。実際には接種率の高い国に比べて日本は新型コロナの感染者数も死亡者数も非常に少ないのですから。

むしろ、ワクチンを検討するうえでは、新型コロナの被害との比較考量こそが本当に重要です。人口比で見た新型コロナの感染者数や死者数が数十分の1〜百分の1という大きな差です。アメリカやイギリスにおける新型コロナがゴジラだとすれば、日本など東アジアの国々ではライオン1頭くらいです。ですから、副反応のリスクがあってもアメリカやイギリスは賭けに出ている。毎日1000人単位で死者が出る状態を阻止する必要があった。しかし、日本はもともと新型コロナの被害が小さいので賭けに出る必要がない。なぜ欧米の真似をする必要があるのでしょうか。(※文末に比較表を掲載)

「ワクチンの副作用のリスクはすごく小さい」というのは、その通りでしょう。ですが、「そもそもコロナで死ぬリスクもすごく小さいんです」ということを言わない。そういう中で、長期的な副作用が出る可能性は低くても、まったくないとはいえない。賭けに出る価値があるのか、社会全体でじっくりと議論する必要があるのに、マスコミがあおって、駆り立てることで泥沼にはまってしまっています。すでに、現場では医療関係者がワクチン接種を強制されています。

――医師や専門家はメディアから問われると、さすがに、ワクチンを打つかどうかはご自身で決めてください、とは言っています。ところが、すでに医療機関や高齢者施設では事実上の強制になっていますね。

若い人は新型コロナにかかっても死なないのに、看護師さんとか実習に行く医学部の学生さんとか、ワクチン接種を断れない立場です。職を失ったり、資格を取れなかったりするわけですので。しかし、副作用が出ても病院の院長が責任取ってくれるわけではない。後々に影響を残すような副作用が出たら、補償で済む問題ではありません。また、実際には金銭的な救済制度を受けることも簡単ではありません。

私は個人で開業しているので、ワクチンを受けるつもりはないのですが、友人の医師は同調圧力に負けました、と言っていました。そうした圧力は非常に怖いことです。

――アメリカ疾病対策予防センター(CDC)が妊婦への接種を推奨対象にするとしていたら、案の定、日本産科婦人科学会も接種する利点がリスクを上回るとの提言を出しました。

日本の場合は本当に欧米に引きずられるという問題がありますね。

ワクチンファシズムが広がっている

――今の大手メディアのあおり方からすると、ワクチンを打たないのは非国民、みたいな感じになりますね。医療関係者以外でも、企業などの集団でもそういう空気が醸成されていくかもしれない。「医療全体主義」と森田さんはおっしゃっていましたが、これもそうですね。

まさに、ワクチン全体主義、ワクチンファシズムです。

――驚いたのは「ワクチン接種証明」という話が出てきたことです。

僕は本当にこれには反対ですね。効くかどうかもわからない、根拠のないものに「接種証明」なんて意味がない。個人個人で体質も違います。また、同調圧力の強い日本でそんなことを言い出したら、深刻な差別につながります。日頃、多様性を認めるべきなどと言っておきながら、新型コロナに関しては多様性を一切認めていないのが現実ですからね。

――周囲の雰囲気にのまれずに、自分で冷静に判断することが必要ですね。

若い人はコロナにかかっても死なないという話をしましたが、では高齢者の場合、どうなのか。高齢者が年を取って免疫力が低下して、認知症やがん、さまざまな病気の可能性がある中で新型コロナを怖いと思うのか、運命と思って受け入れるのかは個人の判断であるべきです。

肺炎で日本ではお年寄りが毎年12万人死んでいる。毎月1万人、1日300人以上です。新型コロナも肺炎の一つです。肺炎の原因が少し上乗せされた。これまでは肺炎で死ぬことを過度に恐れて外出を制限されることもなかったのに、今回の新型コロナだけは、出かけるな、動くなと言われ、家族も会いに来るなと言われる。遊びにも行けず、おいしいものを食べに行くこともできません。コロナ一神教でかごの中に閉じ込められて、免疫力がつくわけがありません。

新型コロナで1年半が経過して1万人しか死んでいない。そのように受け入れると、生活がすごく楽になる。全員にそう思えとは言いませんが、そう思う人がいてもいいのではないでしょうか。