やたら自信過剰で、自分の実力をひけらかしたり、SNSで幸せそうな様子をオーバーにアピールしたり……。一緒にいる人のエネルギーを奪うその人、もしかすると“マニック・ディフェンサー”かもしれません。マニック・ディフェンサーを見抜くポイント、自分が疲れない方法を精神科医の井上智介先生に伺います――。
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■一緒にいると、どっと疲れる……

「自分は何でもできる」「あの時うまくいかなかったのは、本気を出していなかっただけ」……、やたら自信満々でミスをしても認めない、あなたのまわりにも、そういう厄介なタイプの人はいませんか。その人こそ“マニック・ディフェンサー”の可能性があります。

マニック・ディフェンサーというのは、“マニック・ディフェンス(躁的防御)”をしている人。苦しさや不安がわきあがったとき無理に心の中で抑え込み、それを表に出さないように、躁に近いようなハイテンションで、活動的にふるまう人です。

マニック・ディフェンサーと一緒にいると、どこか居心地が悪くて、そわそわするような感覚になったり、一緒にいる時間を楽しく過ごせたとしても、家に帰って一人になると、どっと精神的に疲れたりします。

マニック・ディフェンスを引き起こすのは「急性的」と「慢性的」の2パターンあります。急性的なパターンは、身内の死別など、突然ストレスがかかったときにあらわれます。お子さんが事故で亡くなると、なぜか親がハイテンションになるといったことです。

■増加する慢性的なマニック・ディフェンサー

最近増えているのは、慢性的なパターン。今の時代、SNSなどで他の人の活動や活躍が見えやすく、自分と比較しやすくなりました。他者に比べて自分が劣って感じられると自信がもてなくなり、自分は社会で役に立っているのか、必要とされているのか、果ては何のために生きているのか……、いわゆる“実存の不安”が慢性的に続きます。その不安がどんどん大きくなって、やがて抱えきれずマニック・ディフェンサーになってしまっているケースが多いのです。

そうすると根拠のない躁的な万能感から、冒頭でもお伝えしたような「自分はできる人間だ」「誰にも劣ることがないから大丈夫」という言動が前に出過ぎて、他人とトラブルを起こしてしまうのです。本当は不安を抑えているだけなのですが……。

■マニック・ディフェンサーを見抜くポイント

マニック・ディフェンサーは、自分の能力や実力に不安を抱えている人がなりやすい傾向にあります。特に自己肯定感が低い人ほど反動でなりやすく、人が変わったような状態になって周囲を驚かせることがあります。

マニック・ディフェンサーの特徴は次の2つ。

ひとつは「自分が誰かよりも秀でていることをアピールする」こと。たとえばSNSに、いつも旅行やイベントを楽しんでいるところや、無理して買ったブランドもののアイテムをアップするといったことです。

写真=iStock.com/Urupong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Urupong

また仕事ができるというアピールも成功実績などの現実に即していないため、同僚は「は?」という状態になります。

マニック・ディフェンスが起きると、自分がどれだけ価値のある人間かを周りに示していかないと不安を抑えきれなくなるので、こうしたアピールが激しくなるのです。

もうひとつの特徴は「弱みを見せない」ことです。弱っているときや疲れているときも、それを表情からも言動からも察知させないようにします。たまたまミスやできていないところを人から指摘されると、不機嫌になったり怒ったりします。

たとえば、会社の繁忙期で忙しくて、普通なら週末は家でぐったりしているはずなのに、なぜかその人だけ大勢で遊びに行っている写真をSNSにアップしているなど、明らかにずれた行動をとっている。そのあたりが、マニック・ディフェンサーを見抜くポイントになるでしょう。

■4つのNG行動

正面から向き合ってもエネルギーを奪われるだけなので、むやみに近づかないのがいちばんのポイントです。うっかり近づくと、自分の万能感や有能感をアピールする材料に使われたり、敵とみなされたりすることもあります。「お前よりは上だよ」と示すので、攻撃的な言葉をぶつけてくることもあります。

関係上、どうしても近くにいなければいけないときは、「はむかう」「注意する」「なだめる」「変えようとする」のは禁物。それが上司だと、自分がちょっとでもできることをアピールすると、かみつかれてしまうので、ひたすら相手をおだてて、表面的には自分の負けを認めて逃げるが勝ちとするのが、自分を守る最善策です。そうやって心の距離をきちんととっていきましょう。

■自ら気づくしかない

マニック・ディフェンサー自身にとっては、自ら気づくことしか解決法がありません。自分自身がこれまでの生活を振り返ったときに、必ずストレスフルな状況があり、そこで自分の能力や存在を自分で認められていないことに気づくこと。そもそもつらさや不安を感じてはいけないととらえ、それを抑えるために、こういう症状が出ていますから、僕たち精神科医は、自分の素直な気持ちをストレートに感じていいというのをわかってもらうことから始めます。

SNSがなかった時代は、身近な人に自分のすごさをひけらかして、だんだん周囲から孤立していくことで、自ら気づくことができましたが、SNSが登場してからはアピールしやすくなったうえ、アピールを垂れ流しても孤立することはなく気づきにくくなりました。スルーされてもそういうものかと終わりますし、誰も止めません。本人はずっと気づかず暴走していくのです。

ただマニック・ディフェンサーは、いずれエネルギーが枯渇します。自分は楽しく充実している時間をアピールしなきゃいけないけれど、体がへとへとになってできなくなる。それができなくなることで、さらに落ち込んで、やっぱり自分はダメな人間だと、心もまいってきます。

毎週末、旅行やイベントの写真がSNSに上がっていたのが、パタッと消えたら、そのサインです。エネルギー補給したら、また復活して同じようなものが上がってくるというパターンが多いですね。

■自分を認めることが最大の予防策

誰もがマニック・ディフェンサーになる可能性はあります。それを防ぐには、ふだんから「毎日頑張っている」「役に立っている」と、自分で自分を認めてねぎらうことですね。人から評価される前に、自分で自分のことを評価してあげること。それがマニック・ディフェンスを防ぐ何よりの手立てになります。

ですから、自分が何かおかしいと思ったときは、きちんと休むこと。自分一人で過ごせる時間をちゃんととって、心も体もいたわらないといけないですね。それからスマホやパソコンはオフにして、SNSは見ない。SNSで他人の生活や人生が見えると、不安がわきおこってきますから。時には「知らぬが仏」も大切だと知っておいてください。

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井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務
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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)