母が相続した亡父の賃貸不動産「家賃収入」横取りの兄に妹激怒

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人生折り返し地点を過ぎると、定年退職や介護、相続など様々なイベントや問題が発生します。しかし、事前にトラブルの対処法を知っておけば安心です。今回は、よく起こりがちな「相続争い」とその対処法について事例を交えて解説します。※本連載は、横手彰太氏の著書『老後の年表 人生後半50年でいつ、何が起きるの…? で、私はどうすればいいの??』(かんき出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

「相続争い」は、母親の死亡時のほうが勃発しやすい

「母さんの通帳は俺が管理するから大丈夫!」(※写真はイメージです/PIXTA)

相続争いは「兄弟間の戦争」といった状況にまで発展することがあります。ただ意外かもしれませんが、相続争いは、財産を築き上げた父親が亡くなった時には発生することはほとんどありません。争いは母親が亡くなった時こそ勃発しやすいのです。

父親が亡くなった時は、たいてい初めての親の相続となります。悲しみに暮れる間もなく、長男が中心になって、税理士と協力して相続手続きを進めていくケースが大半です。淡々と終わることも多々あります。

一方で、母親が亡くなった時に争いが勃発する可能性が高い事例を一つ紹介します。

まず父親が、莫大な財産を遺して亡くなります。母親は財産に興味がなくよくわからない様子で、長女と次女は忙しかったせいか、相続の手続きはすべて長男に任せていました。それと、遺言もなかったので、母と子どもたちで話し合って財産の分け方を決める遺産分割協議書を作成することに。

しかし、子どもたちで分け合う遺産のほとんどを、長男が相続していたのです。

毎月40万円程の家賃収入がある賃貸不動産で、その問題が発覚。長女と次女は、当然母親の口座に家賃収入が入っているものだと思っていました。でも長男は、母親に相談もなく定期的にお金を利用していたのです。次女が長男に対して通帳を母に戻してほしいとお願いしても、「自分が管理するから大丈夫」の一点張り。

さらに驚いたのは、相続が発生してから1年以内に、母親は孫である長男の子どもたちに対して、教育資金贈与の手続きをしていたのです。孫二人で総額1000万円も。いつ贈与をしたのか母親に聞いても、手続き自体を覚えていないと言います。しかも母親は認知症の疑いもあるため、今さら遺言を用意することもできません。

「お母さんが亡くなった時には埋め合わせする」と長男は言うも、長女と次女の怒りはおさまらないでしょう。

相続トラブルを回避するには「遺言」が有効

こうした争いを回避するためには、遺言が有効です。ただし、認知症の疑いがある中での手続きは、かえって相続争いを招きかねません。

遺言の有効性を争う際には、「遺言無効確認訴訟」を行います。この裁判では、遺言した際に判断能力があったかどうかが焦点として争われます。

この「判断能力の有無」を証明することは容易ではありません。実際、筆者のお客様でも相続が発生してから遺言無効裁判で、解決するまで5年かかった方がいます。これは自筆遺言に限らず、公証役場で公証人の立ち合いのもとに作成したいわゆる公正証書遺言であっても争いになります。公証人も争いに巻き込まれることを嫌がるので、裁判に証人として出廷(しゅってい)しないこともあります。

筆者がお手伝いした案件でも、地方の公証役場で遺言の手続きをする際に、ビデオカメラで記録を残すことが条件のところがありました(ちなみにカメラ撮影は、法的義務にはなっていません)。トラブルに巻き込まれた時の説明資料として、この公証役場が独自に判断して決めたことです。

医師の診断書に加えて、本人の意思能力があった証拠をビデオカメラで残すことが、認知症の疑い、または認知症初期の段階では必要とされるケースが増えているのです。というのも、トラブルが多発しているから。

こうした相続争いのトラブルを防ぐためには、相続の専門家の協力を得ることが有効です。相続の専門家といえば、税理士や弁護士を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

ただ、税理士や弁護士だからといって、それだけで相続のエキスパートとは限らない点は注意が必要です。医師が内科や外科、眼科、耳鼻科など専門が分かれているのと同じで、弁護士や税理士の中でも得意とする分野、苦手とする分野があります。

「相続税の節税だけが目的のアパート所有」には注意!

相続対策というと、節税ばかりを気にする人がいますが、節税だけを相続対策の一番の目的にすると、残された家族が「負の財産」を引き継ぐことになりかねません。この相続対策で盛んに行われているものがアパートの所有。そもそもの節税の仕組みは次のようなものです。

現金が1億円あった場合、相続税を計算するための元になる相続税評価額は額面の1億円となります。でも、この1億円を使って収益不動産であるアパートを購入もしくは建設すると、アパートの相続税評価額はおよそ3分の1程度に圧縮できるのです。

借金で購入した場合は、さらに相続税の節税メリットがあります。プラスの財産から借金額を差し引いて評価額を算出することができるからです。

確かに計算上では、相続税は大幅に節税できることになります。しかしアパート経営の本来の目的は、家賃収入を継続して得ること。不動産賃貸業として成立している必要があります。

ただ、実情は節税メリットだけを追求して、賃貸需要のないエリアにアパートが乱立するといったケースが珍しくありません。

あなたも地方や郊外でドライブをした時に、田んぼや畑の真ん中になぜアパートが建っているのか不思議に思ったことがあるのではないでしょうか。これらはほとんどの場合、節税目的のアパート。

不動産会社は、空室リスクに対処するといって借り上げ保証であるサブリース契約を進めていますが、約束された家賃の額が永続的に変わらないわけではありません。契約書には数年後に家賃の見直しを行う条項が記載されており、不動産会社は保証家賃の値下げを迫ってくることがあるのです。

さらに、10年も経過すれば建物の修繕(しゅうぜん)コストもかさむでしょう。将来の金利上昇リスクも考える必要があります。賃貸需要のないエリアでの節税ありきのアパート建築は、相続対策で失敗するパターンの王道です。絶対に手を出してはいけません。