発熱外来を行ってきた兵庫県の長尾クリニック

写真拡大

4月27日発売の女性自身で報じた新型コロナ変異株の脅威。大阪府ではコロナ重症患者向けの病床使用率が100%を突破。その影響で、軽症や中等症患者向けの病床も逼迫。「これからは重症化しても病院で治療を受けられず、自宅で死を待つだけといったケースが激増しかねない」という医療現場からの悲鳴を伝えていた。

だがその指摘は、すでに現実のものとなり始めている。

5月7日時点で大阪府が公表したコロナ重症病床使用率は159.4%。自宅療養患者は1万3千650人で、入院調整中の患者は3千169人にものぼるという。死者数は、過去最多の50人を記録した。

そして隣の兵庫県でも、同じような状況に陥っていた。拠点とする3病院の重症病床使用率は83%を突破。5月6日時点で入院調整中のコロナ患者は1千840人となり、自宅療養中の患者は1千743人にのぼるのだ。

そんななか、兵庫県尼崎市内にある長尾クリニックには毎日30〜40人の発熱患者が押し寄せているという。長尾和宏院長は、現在の状況をこう明かす。

「この1年、屋外で発熱外来を行ってきました。今では行列ができるほど、患者さんが訪れるように。昨日なんてあまりにも人が多すぎて、通行人に怒られました。

うちは町のクリニックですが、朝から晩まで電話が鳴りやまない状態です。またコロナの診断だけでなく、自宅療養中の患者さんへの往診もしています。

だから、スタッフのなかには精神的に追い詰められている人も出てきています。彼らのフォローをしてあげるのも私の役割なのですが、私自身が泣きたい気持ちですね。もうずっと休む暇もなく、常に気を張っています」

■涙を流しながら「先生、助けてください…」

取材中も患者からの電話が鳴り響き、対応に追われていた。それでも診療を続ける理由について、長尾さんはこう語る。

「熱があって苦しいのに、保健所のスタッフにも救急隊にもかかりつけのお医者さんにも受け入れを拒否されている。そんな引き取り手のない人たちが増えています。彼らが、私に涙を流しながら言うんです。『先生、何とかしてください。助けてください』と。そうしたら、もう診ざるをえないじゃないですか……」

これまで最前線でコロナと闘い続けてきた長尾さんは、今後の必要なことについて語る。

「私は“地域包括ケア”で立ち向かうべきだと主張してきました。

コロナで重要なのは“早期診断”と“早期治療”です。まず地域のかかりつけ医が患者を診断し、感染が判明すればすぐに治療を開始。酸素飽和度が93%以下なら、酸素も投入します。在宅医療で対応しながら入院を待つ。そのなかで重症になりそうな患者さんをピックアップして、保健所に連絡するのです。

私は400人以上のコロナ患者を診断し、100名の自宅療養者を管理してきました。しかし、看取りはゼロです。

今の保健所を中心としたやり方は、もう破綻寸前です。だから、私たち医師会と保健所のネットワークを強化して対処していく。そういう大胆な転換が必要な時期にさしかかっているのではないでしょうか」

深刻な医療崩壊現場の実態。地域で一丸となって乗り越えることができるのだろうか。

「女性自身」2021年5月25日号 掲載