Image: Andrew Liszewski/Gizmodo US

ほぼすべてのヘッドホン、イヤホンを上回る体験と。

Sennheiser(ゼンハイザー)から、国内価格16万2800円(税別)のフラッグシップ有線イヤホン「IE 900」が発表されました。6万超えのAirPods Maxに躊躇してるような庶民には縁遠いお値段ですが、それだけの価値を感じられるんでしょうか? 米Gizmodoの有線イヤホン派、Andrew Liszewski記者がファーストインプレッションを伝えていますのでどうぞ!

音質を求めるなら有線

今や毎月どこかしらの会社が新しいワイヤレスイヤホンを発表し、バッテリーライフ向上とか音質向上、ノイキャンアップグレードで世界をもっとシャットダウン、とかを喧伝しています。Bluetoothイヤホンはもうゴテゴテした不完全なワイヤレスではなくなり、コンパクトで真にワイヤレスな、ほぼ耳の一部的存在へと進化を遂げました。

でもどんなワイヤレスイヤホンにも、共通の欠点があります。それはBluetooth、つまり高音質のオーディオストリーミング向けではいないワイヤレスプロトコルを使ってることです。

Bluetooth技術の標準化団体、Bluetooth Special Interest Group(Bluetooth SIG)は、さまざまな音質面の問題を解決するという新ワイヤレスプロトコルを策定していますが、それはまだ使えません。現状のBluetoothもそんなにダメじゃなくて、比較的短距離でデバイスをワイヤレス接続するには便利なんですが、帯域が限られているので、SpotifyやApple Musicといったネット上のサービスからストリーミングするためにただでさえ圧縮されている音源が、イヤホンに届くころにはますます押しつぶされてしまうのです。でも、多くの人は今、音質よりワイヤレスイヤホンの利便性・快適性を選んでるわけです。

だけど自分はそっちじゃない、圧縮アルゴリズムに音質を壊されたくないんだという人のために、ゼンハイザーは有線イヤホンを作り続けています。しかもただ古い技術を焼き直してるだけじゃなく、オーディオを愛する人たちのために進化させたイヤホン、IE 900を発表したんです。その音は当然ながら、この世のものじゃないかのようです。問題はその音質のために1,300ドルも払いたいか?ってことです。

アルミ削り出しのイヤーピースがミソ

IE 900のイヤーピースは内も外もひとかたまりのアルミからの削り出しで、削り跡が特徴的。
Image: Andrew Liszewski/Gizmodo US

IE 900の一番印象的な特徴は「トリプルレゾネーターチャンバー」なる構造で、それはまずアルミのブロックからイヤーピースを削り出すところから始まります。イヤーピースはピカピカの鏡面仕上じゃなく、削り出しの跡をあえて残し、それがプロっぽさ、価格感を演出してます。

IE 900のトリプルレゾネーターチャンバーと、新開発のドライバーを構成するコンポーネントの展開図。
Image: Sennheiser

素材がアルミなのは戦略的です。イヤーピース内部の3つに分かれた「特許取得済みアブソーバーシステム」が「ノズルに削り込んだアコースティックヴォルテックス」と組み合わされることで、音響マスキング(音量の小さい高音が大きな低音にかき消される現象)を相殺する、とされてます。イヤーピース内部は低音のエネルギーを適度に吸収して微かな高音をかき消さず、低高のバランスが適切になるよう設計されています。

アルミのハウジングは、新開発のメンブレンフォイル(振動板)を使った7mmのTrueResponseトランスデューサーと相まって歪みを最小化し、音量をどんなに上げてもバランスの取れた音を作り出します。IE 900は5Hzから48,000Hzまでの周波数を再現するとされてますが、人間が聴き取れる音のほとんどが20Hzから20,000Hzの間なので、ほぼやりすぎなくらいです。

アクセサリはミニマルでも充実

IE 900にはシリコンとメモリフォームのイヤーチップが計2セット、各3サイズずつ付いてきます。
Image: Andrew Liszewski/Gizmodo US

掃除用のプレシジョンツールが付属するイヤホンは、記者が知る限り初めて。
Image: Andrew Liszewski/Gizmodo US

付属のケースは硬く、安全に収納できます。ここまで極めたガジェットだから、ぐしゃっとポケットに入れたくないですね。
Image: Andrew Liszewski/Gizmodo US

IE 900に付属のアクセサリには余計なものはなくて最小限ですが、ちゃんと使えます。硬いキャリングケースはジッパーで閉じられるのでIE 900をしっかり保護できるし、イヤーチップは硬いシリコンと柔らかくフィットするメモリフォームの2セット、各3サイズ入っています。さらにこの耳かきみたいなロゴ入りの棒は、細かな汚れをかき取るためのものです。

ケーブルは3種類付属。ひとつはスタンダードな3.5mmのもの、ふたつはノイズを除去してバランスを整える大きめのもの。
Image: Andrew Liszewski/Gizmodo US

オーディオケーブルは3種類付属してきます。ひとつめは一般的な3.5mmのコネクタが付いたアンバランスケーブルで、こちらは普通の民生用デバイスで使います。あとのふたつは2.5mmまたは4.4mmのコネクタが付いたバランスケーブルで、プロや愛好家用のオーディオ機器で使います。おじいさんの家とかで古いステレオセットを立ち上げると最初にヴーン…という音が鳴ったものなんですが、それはバランスケーブルでつないでなかったからなんですよね。

フレキシブルなワイヤーが耳の上を通り、よりしっかりフィットする構造。でもこれ着けてランニングする気分かっていうと違うかも。
Image: Andrew Liszewski/Gizmodo US

ここにしかない音質

気になるのは、1,300ドルの有線イヤホンは音質に違いがあるのか、それとも単にゼンハイザーがオーディオマニアの耳に快いことを言ってるだけなのか、ってことですよね。が、良くも悪くも、違いはやっぱりあります。僕は長年ワイヤレスイヤホンに抵抗し続けてて、今でも150ドルの有線イヤホンを使ってるんですが、IE 900はそれをはるかに超えてきました。高音が驚くほどくっきりと聴こえます。僕の聴力は超人並みじゃないですが、それでも僕が使ったことのあるあらゆるイヤホンよりはるかに広範囲な音を表現していることがすぐにわかりました。

低音のパフォーマンスも素晴らしく、それはIE 900のドライバーが7mmしかないことを考えるとすごいことです。比較のために言うと、僕はソニーの安価なワイヤレスイヤホン、WF-XB700sの低音がすごく好きなんですが、そこで使われてるドライバーは12mmです。でもIE 900のほうがずっと良い音で、低音を出すために頑張っている感じがしません。音量を快適に聴ける限界まで上げても、低音が歪み出したり、音質がくぐもったりすることはありませんでした。

とはいえ、有線イヤホンに1,300ドルも払って上質な音の極致を体験したいなら、パソコンとかスマホのヘッドホンジャックに直接つないで聴くんじゃないほうがいいです。僕は200ドル(国内価格2万4880円)のヘッドホンアンプ、RazerのTHX Onyxにつなぎ、TidalのHiFiオプション(多くの曲をスタジオマスタークオリティで聴ける)で聴いてみました。

するとその音は、今まで聴いたほとんどのオーバーイヤー型ヘッドホンをも上回る最高の音質でした。音量を快適な範囲で最大にしても(その音はデバイスで出せる最大音量の半分くらいでしたが)歪んだりくぐもったりしません。キラキラしたクリアな音は、まるでバンドが演奏するステージに一緒に立っているかのようです。

IE 900は6月1日に正式発売予定ですが、誰もが飛びついて買うべきかっていうと、もちろんそんな代物じゃありません。たしかに音質は素晴らしいですが、ワイヤレスイヤホンのほうが便利で機能も豊富で、しかもたいていIE 900より10万円以上安いです。でも、もし移動中にも至高のオーディオをポケットに忍ばせたいって人がいたら、IE 900さえあればもう巨大なヘッドホンを持ち歩く必要はありません。