毎回どこに食事を届けることになるのかわからないウーバーイーツ配達員の苦労とは(撮影:今井康一)

コロナ禍で以前のように外食をするのが難しくなった影響で、フードデリバリーサービスが定着しつつあります。大きなバッグを背負い、電動アシスト自転車で走り回る配達員を見かける機会も都内では増えました。配達員はどのような苦労をしているのでしょうか。ライターとウーバーイーツの配達員、「二足のわらじ」で活動する渡辺 雅史氏が上梓した『アラフォーウーバーイーツ配達員ヘロヘロ日記』から一部抜粋・再構成してお届けします。

オシャレなマンションの「トラップ」

電動アシスト付きのシェアサイクルを使っている私は、東京都の東側、中央区や江東区あたりを中心に配達している。このエリアは、平坦で坂道があまりないのが特徴で、新宿・渋谷・六本木といった繁華街と比べると、自転車のバッテリーの“持ち”がいいのが魅力。

さらに埋立地エリアは、広い土地が確保しやすいからか、シェアサイクルの貸し出しポイントが多く、自転車も大量に置いてあるので、バッテリー残量の多い自転車が確保しやすい。そんなわけで、このふたつの区を中心にウロウロしている。

このあたりは最近、住宅地としても人気で、湾岸エリアに巨大なタワーマンションが建設されたり、路地が入り組む下町を区画整理して、オシャレなマンションが建てられることもしばしば。しかし、このマンションの「オシャレ」の裏には、われわれ配達員を悩ますトラップがあふれているのだ。

オーソドックスかつ一番危険なのが、1階のエントランスで見かける2〜3段の階段。建築の知識がまったくない私からしたら、「どうしてこんなところに段差が!」と、イラッとくるやつだ。そもそもバリアフリーの観点から見ても、おかしいと思う。

しかも、こういうちょっとした段差のあるマンションに限って、照明が薄暗かったり、床に使用されている石が黒くて足元が見えにくかったり、ツルツルで滑りやすかったりと危険がいっぱい。昼間の配達ならまだしも、夜の配達での段差は、「配達員殺し」のトラップと言っても過言ではない。

宅配便の配達員は、担当エリアが決まっているので「このマンションには、段差があるから注意しないと」と意識できるが、毎回どこへ配達するのかわからないウーバーイーツの配達員は注意しようがない。

段差トラップにつまずいて、品物を何度こぼしそうになったことか……。VIP感を強調したマンションも恐ろしい。タワーマンションには低層階(1〜20階ぐらい)用のエレベーターと、高層階(21階以上)用のエレベーターが分かれているところが多く、私はエントランスに入ってから配達先を確認して、低層階用と高層階用を乗り分けている。

ところが、ごくまれにだが、低層階用のエントランスと高層階用のエントランスが完全に分離されているマンションがあるのだ。芸能人・著名人が住んでいるのだろうか、こういったマンションの高層階用のエントランスは、ちょっとした隠れ家みたいな感じになっていて、入り口を探し当てるだけで一苦労。

建物の周りをぐるりと1周しても入り口が見当たらず、地下駐車場へ通じる道の脇を入ったところにエントランスがあった某マンションは、入り口にたどりつくまでに10分以上かかった。

ゲームに出てくるようなタワマンで迷子に……

オシャレを通り越して、RPGのダンジョンのようになっていたマンションは、ある意味恐怖ですらあった。10階建ての塔のような建物が6つ並ぶ某マンションのエントランスに入り、案内板を見ると、6つの塔のうちふたつにしかエレベーターが設置されていないことが書かれている。

「は? 10階建てなのに? どういうこと?」と配達先を確認すると、配達すべき部屋のある塔にはエレベーターが当然のようにないわけだ。ここらへんで脇をツーッと汗が流れる。もしかしてまた階段かと……。

高級マンションに限って階段しかない、なんてことはないが、ややこしいのはここからだ。中庭のような場所に行き、上を見ると、上空に塔と塔を結ぶ橋がかかっているではないか。どうやらエレベーターである程度上がってから、橋を渡って隣の塔へ移り、そこから階段で目的の部屋へと向かう構造らしいのだ。

ふと疑問に思ったのだが、こんなに不便なマンションに住みたい人っているんだろうか? 大災害が来たら一体どうやって逃げるのだろうか。なんとか状況を飲み込んで、エレベーターに向かうと、そこにあったのはエレベーターの扉と、コンクリート打ちっぱなしの壁。そして薄暗い照明。早く届けないといけないので、エレベーターに乗りたいのに「▲」や「▼」のボタンが見当たらない……。

老眼が進む目を細めてよーく見てみると、カメレオンが自分の皮膚の色を周囲に合わせるかのように、壁と一体化したエレベーターのボタンを発見した。時計を見ると、マンションについてからもう7〜8分が経過している。

注文者からかかってきた電話

急がねば、注文者から催促があるかもしれない。焦った私は、配達先の階のボタンを押して向かうが、その階には橋がかかっていない。別の階へ行くと、今度は橋があるものの、配達先の部屋がある塔へと向かう橋がない。


そんなことを繰り返し「中学生のときに、ドラクエ兇離瀬鵐献腑鵑婆造辰禿喨に暮れたことがあったけど、リアルの世界でドラクエと同じ経験をするとは……」と肩を落としていると、「迷っていますよね。すみません。1階まで取りに行きます」と注文者から電話が。

優しい注文者に救われた。住んでいる人は、毎日出入りしているので慣れていると思うが、配達員にとっては、オシャレなマンションは迷路のよう。

注文の際に、注意事項として、攻略の難しいダンジョン部屋までのルートを書き込んでもらえるとありがたい。