ヤリス・クロスとGRヤリスを含めた数字

 国内の最多販売車種は、今はトヨタ・ヤリスとされる。2020年度(2020年4月から2021年3月)には20万2652台を登録して、ホンダN-BOXの19万7900台を上まわった。

 ヤリスが国内販売の1位になった背景には、大きく分けて4つの理由がある。

1)3車の合算台数

 1つ目の理由は、日本自動車販売協会連合会の公表するヤリスの登録台数が、「ヤリス+GRヤリスヤリスクロス」の合計になることだ。

 ヤリスクロスの発売が2020年8月と遅いことから、上記3車種の条件を合わせられる直近2021年1〜3月で1か月平均登録台数を割り出すと(メーカー調べ)、ヤリス:約1万820台、ヤリスクロス:約1万580台、GRヤリス:約1130台になる。

 上記3タイプをヤリスシリーズに占める比率に換算すると、ヤリス:48%、ヤリスクロス:47%、GRヤリス:5%だ。一般的な認識として、5ナンバーサイズのコンパクトカーになるヤリスと、3ナンバー車でSUVのヤリスクロスは別のクルマだろう。

 そこでヤリスシリーズを分割して、2020年1〜3月の平均登録台数(軽自動車は届け出台数)を集計すると、ランキング順位は以下のようになる。1位:ホンダN-BOX(1か月平均2万710台)、2位:スズキ・スペーシア(1万5970台)、3位:ダイハツ・タント(1万4250台)、4位:トヨタ・ルーミー(1万3130台)、5位:トヨタ・アルファード(1万1370台)、6位:トヨタ・ヤリス(1万820台)、7位:トヨタ・ヤリスクロス(1万580台)と並ぶ。

 ヤリスシリーズの登録台数を分割すると、トップ3車は軽自動車のハイトワゴンでN-BOX/スペーシア/タントにより占められる。その次はルーミーとアルファードが入る。この後にヤリスヤリスクロスが続く。このようにヤリスは、シリーズ合計にしたことで登録台数を増やした。

トヨタならではの販売戦略がうまくハマった形になっている

2)全店全車種取り扱い

 ヤリスの販売が好調な2つ目の理由は、2020年にトヨタの全店が全車を扱う体制に移行したことだ。全車を約4600店舗が販売するから、人気車は売れ行きを伸ばす。逆に不人気車は、需要と販売力を人気車に奪われて一層売れなくなる。

 前述の4位にルーミー、5位にアルファードが入ったのも、全店が全車を扱う効果だ。ルーミーは全店扱いになって姉妹車のタンクを廃止したから、需要が集中して売れ行きが大幅に伸びた。

 アルファードもヴェルファイアの需要を奪って登録台数を増やした。その結果、ヴェルファイアは2021年1〜3月の1か月平均が約1060台(アルファードの9%)に留まり、先の改良でグレードを削った。現時点で選べるヴェルファイアは、特別仕様車のゴールデンアイズIIのみだ。

 話をヤリスに戻すと、発売された2020年2月にはネッツ店の専売(約1450店舗)だったが、2020年5月の体制変更で4600店舗に増えたため、登録台数を大幅に増やした。

3)低価格グレードの設定

 3つ目の理由は、トヨタが法人営業やレンタカーに強く、ヤリスがそれに合わせた低価格グレードを用意することだ。エンジンは直列3気筒1.5リッターのハイブリッドとノーマルタイプに加えて、ヤリスでは1リッターノーマルタイプも選べる。1リッターの価格は1.5リッターよりも14万3000円安く、最廉価の1.0X・Bパッケージは139万5000円だ。

 X・Bパッケージは安全装備の衝突被害軽減ブレーキを省いた仕様だから推奨できないが、価格が140万円以下のコンパクトカーは、パッソ&ブーンと日産マーチ程度しかない。これも注目点のひとつに含まれる。

 販売店によると「買い物など街なかの走行が中心の場合、一般のお客様でも1リッターで装備を充実させたGを選ぶことがある」とのことで、廉価版と見られやすい1リッターのグレードも需要を支えている。

4)商品的な魅力

 好調に売れる4つ目の理由は、ヤリスの商品的な魅力だ。ヤリスクロスも含めて衝突被害軽減ブレーキの機能が優れ、右左折時にも直進車両や横断歩道上の歩行者を検知して、衝突の危険が生じたときはブレーキを作動させる。

 またヤリスハイブリッドのWLTCモード燃費は35.4〜36.0km/Lだから、日本で購入可能な乗用車では、燃費数値が最も優れている。以上のような多岐にわたる特徴により、ヤリスシリーズは好調に売れている。