キャッシュレス決済の利用者が急増している。

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 PayPay株式会社によると、2021年3月までの1年間で決済回数は20億回を突破。前年度の8億回と比較して2.5倍に増えたという。登録者数は3800万人、加盟店舗数は215万ヶ所から316万ヶ所へと拡大した。

 キャッシュレス全体をみても利用者の数は確実に増えている。昨年3月に行われたインフキュリオンの決済動向調査によると、QRコードの決済利用者は1年間で12%から43%へと急伸。電子マネー決済の利用者も49%から60%に増加した。消費税増税のポイント還元でキャッシュレス決済に注目が集まり、その後、コロナ禍で非接触の決済を求める人が増えたことで、利用者が急拡大した。

もはやキャッシュレス決済なくして商売は成り立たない

 キャッシュレス決済に慣れてしまうと、お札や小銭を使うことが億劫になる。JCBがキャッシュレス決済の利用者に行った調査によると、「飲食店などでキャッシュレス決済が利用できないとわかって、お店の利用をやめたことがあるか」の問いに対して「ある」と回答した人は48.4%にも上った。


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「キャッシュレス決済がなくても問題ないんです。ただ、お客さんが不便で……。新規のお客さんの獲得面でも取りこぼしがあると思うので、そろそろ現金以外の決済方法を導入しようと思っています」(取材した飲食店経営者)という現場の声が象徴するように、キャッシュレス決済を拒否していた企業も、続々と白旗をあげている。

 手数料の問題で導入を渋っていた串カツ田中は、昨年7月よりQRコード決済を全店舗に順次拡大していくことを発表。サイゼリアも昨年7月のメニュー改定を機に、キャッシュレス決済を展開していくことを決めた。もはやキャッシュレス決済なくして、商売は成り立たないと言ってもいい。

業界側の「キャッシュレス化」しない理由

 このキャッシュレス全盛期に、現金のみにこだわるお店はあるのか。調べてみると、それでも飲食店はまだ比較的、現金支払いのお店も多い。理由は多々あるが、「券売機による食券制だから導入できない」「従業員が高齢だから対応できない」「一度やってみたが逆に効率が悪かった」など、オペレーションを理由にキャッシュレス決済を見送っているケースが多いようだ。

 もうひとつ、現金のみの支払いで目立った業種はスーパーだ。

 ドラッグストア、ディスカウントストアも含め、食料品やお酒を取り扱う小売業は、キャッシュレス決済を導入しないお店が多かった。

 現金支払いのみのスーパーに、キャッシュレス決済を導入しない理由を尋ねたところ、ほとんどが「手数料分をお客様に還元したい」という回答だった。激化する格安競争の中、1円でも安く商品を提供したいという思いから、現金支払いにこだわるスーパーは多いようだ。

 また、コロナ禍で巣ごもり需要が増えたことで、スーパーなどではキャッシュレス決済の導入が遅れた面もあるようだ。現金支払いを続ける飲食料品のディスカウントストアの従業員が言う。

「コロナ禍で来店客が増えて、客単価も上がっているので、キャッシュレス決済が未導入だからといって、お客様に逃げられているような感じはありません。薄利多売のわれわれにとって、手数料の数%でも大きな打撃ですから、現状であればキャッシュレス導入に無理はしませんね」

ついに訪れた「PayPay手数料有料化」の激震

 この従業員が言うように、消費者にはメリットも多いキャッシュレス決済だが、利用者が増えれば増えるほど、お店の負担は大きくなるのは事実だ。既存のキャッシュレス決済を利用すれば手数料が取られるし、独自の決済システムを導入できるのは、体力のある一部の企業に限られる。

 さらに、キャッシュレス決済の手数料が、今後、値上がりしないという保証はどこにもない。

 実際、QRコード決済市場の過半数を占めるPayPayは、10月1日から無料にしていた決済システム手数料を有料化する。キャッシュレス決済に依存していたお店は経費の負担増になり、一方でキャッシュレス決済をやめてしまうと、客離れを引き起こすというジレンマを抱えることになる。今後、キャッシュレス決済の継続か撤退かに頭を悩ませるお店は増えるはずだ。

 こうした板挟みにあうのは最初から分かっていたことである。だから、一方では最初からキャッシュレス決済を導入しないほうが踏ん切りがついていいのではないかともいえるが、他方で大手全国チェーンに顧客を捕られてしまう可能性も考えれば、苦渋の決断として導入せざるを得なくなるのが、ローカルのスーパーやコンビニの立場だ。一体、彼らにはどのような「活路」があるのだろうか。

独自の電子マネーを導入するローカルスーパー

 この状況下での「サバイバル戦略」の好例が、独自のキャッシュレスを導入したローカルスーパーチェーンだ。

 昨年の9月4日の日経MJの記事によると、広島県を基盤とするスーパー「フレスタ」の会計の構成比は、独自の電子マネーが50%、クレジットカードが10%、他社のスマホ決済が8%。現金での支払いは減ってきたものの、外部のキャッシュレス決済の事業者に対して、売上の2%弱の手数料の支払いが増えているという。

 外部のキャッシュレス決済比率が高まれば、利益を圧迫しかねないという判断から、9月1日に独自のスマホ決済アプリ「フレスタアプリ」を導入した。決済基盤を広め、手数料支払いを抑えたいという狙いがフレスタにはあるようだ。

 あるスーパーの幹部社員は、独自のキャッシュレス決済を導入するもうひとつの理由を教えてくれた。

「キャッシュレス決済をするために、お客様はスーパーのアプリをダウンロードします。そこにセール情報を流せるので、チラシを撒かなくてもお客様を集客することができるようになるんです」

 独自で決済システムを構築すると、莫大な開発コストがかかる。しかし、将来的に決済手数料を削減できて、なおかつアプリで顧客の囲い込みができれば、その初期投資はすぐに回収できる。

 匿名で取材に応じてくれたスーパーでは、独自のキャッシュレス決済を導入したことをきっかけに、チラシを撒くことを止めた。大幅に販促費を削減したのにも関わらず、コロナ禍の影響もあって売上と客数は右肩上がりだ。キャッシュレス決済のブームで、一部のスーパーでは思わぬ副産物が生まれているようである。

現金支払いのみのコンビニ 「一度も困ったことがない」

 さらに、あえて現金のみの支払いにこだわるコンビニもある。そのお店の名前は「わしの屋酒店」。群馬県の四万温泉の温泉街にある小さなお店だ。一見すると「コンビニらしからぬ」店名だが、現地に行ってみると店先には「ヤマザキショップ」の看板が掲げられており、コンビニであることは間違いない。お酒を中心にお弁当、サンドイッチの他、日用品なども取り扱っている。レジを見ると、「お支払い方法は『現金のみ』で御座います」という案内が書かれていた。

「現金決済のみで困ったことは一度もないよ。外国人のお客さんだってお札や小銭でちゃんと払ってくれるよ」(店員)

「今後もキャッシュレス決済には対応しない」

「わしの屋酒店」経営者・山田博史社長は、次のように語る。

「キャッシュレスを導入しない理由は手数料の問題が大きいですよ。QRコードの決済だって、いずれ手数料は上がりますよね。それだったら最初からやらないほうがいいと思って。現金のみの案内も、先にお客様に伝えたほうが親切だと思って掲げているだけなんです」

 今後、キャッシュレス決済のお客さんが増えたら対応するのか尋ねたところ、山田社長は「対応しないですね」と即答した。

「キャッシュレス決済は便利でお得ですが、本来の旅行の魅力とはちょっと違うと思うんです。観光地の魅力は決済方法ではないですから、それ以外のところに力を入れていきたいという思いの方が強いです」

 山田社長はコンビニ事業の他に、「四万温泉エール」というクラフトビールの製造を行っている。四万温泉はこれといった特産品がなく、少しでも魅力ある地場の商品を作ることはできないかと考えて、地元の活性化に力を注いでいる。

「日本は現金を持ち歩いても安全な国なんですよ。それが日本の良さだと考えれば、現金のみのお店も、まだまだあってもいいんじゃないかと思いますよ」

求められる「“裏側”を知った上での選択」

 キャッシュレスの利用者は今後も増え続ける。現金でモノを買うことが珍しくなり、お金を財布から取り出す行為も減っていくはずだ。

 しかし、この便利な決済機能を使うために、お店側は手数料を支払い続けなくてはいけない。取材したスーパーでは、システム手数料と販促費をうまく相殺することができたが、それができないお店は、決済手数料を支払うために、どこかで利益を削らなくてはいけない。

 もしかしたら、決済手数料を支払うために、商品の質が落ちたり、サービスが低下したりする可能性もある。たかが数%の手数料だが、場合によっては、巡り巡って我々消費者がその手数料分の負担をかぶることになるかもしれない。

 キャッシュレスが便利であることは間違いない。しかし、便利なものは必ず誰かがどこかで費用を負担しているという現実を、消費者は忘れてはいけない。

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参考
https://about.paypay.ne.jp/pr/20210412/01/
https://insight.infcurion.com/business/japan-cashless-payment-2020/
https://www.global.jcb/ja/press/2020/202008210001_others.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000426.000001049.html
https://paypay.ne.jp/store/cost/

(竹内 謙礼)