現代では、ソーシャルメディアなどのテクノロジーが青少年のメンタルヘルスに与える悪影響が注目されています。ところが、イギリスの研究チームがテクノロジーの使用と青少年のメンタルヘルスとの関連を調査したデータを分析したところ、「テクノロジーの使用が青少年のメンタルヘルスを悪化させることを示す明確な証拠はない」との結果が明らかとなりました。

There Is No Evidence That Associations Between Adolescents’ Digital Technology Engagement and Mental Health Problems Have Increased - Matti Vuorre, Amy Orben, Andrew K. Przybylski, 2021

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2167702621994549

Relief for parents? No hard evidence of link between tech and teenage mental health | University of Oxford

https://www.ox.ac.uk/news/arts-blog/relief-parents-no-hard-evidence-link-between-tech-and-teenage-mental-health

新たなテクノロジーが若者のメンタルヘルスを悪化させたり、その他の社会問題を引き起こしたりするとの指摘は古くから行われており、かつてはテレビどころかラジオドラマの時代から、「犯罪を扱ったラジオドラマを聞くと若者が犯罪に走りやすくなる」と批判されていたとのこと。

近年では主にソーシャルメディアが若者のメンタルヘルスを低下させ、さまざまな問題行動の引き金になると言われています。そこで、オックスフォード大学でデジタル時代における幸福を研究するMatti Vuorre博士らの研究チームは、アメリカやイギリスに住む合計43万561人の青少年を対象にした3つのデータセットを用いて、テレビやソーシャルメディアの使用が青少年のメンタルヘルスに及ぼす影響を調査しました。



今回の調査で取り上げたデータセットは、アメリカの8年生・10年生・12年生(日本の教育制度で中学2年生・高校1年生・高校3年生に当たる)を対象にしたMonitoring the Future(MTF)、アメリカの9〜12年生(日本で言う中学3年生〜高校3年生に当たる)を対象にしたYouth Risk Behavior Surveillance System(YRBS)、イギリスに住む4万世帯を対象にしたUnderstanding Society(UndSoc)の3つです。実際のデータには幅広い年齢層の被験者が含まれていたものの、今回の分析では対象を10〜15歳の青少年に限定したとのこと。

いずれの調査も青少年のメンタルヘルスやテレビの視聴時間について尋ねたほか、MTFはソーシャルメディアにアクセスする頻度について、UndSocはソーシャルメディアの使用時間について、YRBSはスマートフォン・タブレット・ゲーム機などのデジタルデバイスの使用について質問しました。また、3つの調査は縦断的な調査を行っていたため、研究チームはある時点での結果だけでなく、テクノロジーの使用とメンタルヘルスの関連が時間と共にどう変化したのかを分析できたそうです。

分析の結果、「行動に関する問題」「抑うつ状態」「感情的な問題」「自殺念慮」といった青少年のメンタルヘルスの問題と、テレビ視聴やソーシャルメディアの使用における明確な関連性は示されませんでした。「抑うつ状態」はテクノロジーの使用との関連がほとんど見られず、「行動に関する問題」「感情的な問題」「自殺念慮」はテレビ視聴やソーシャルメディアの使用とわずかに関連が見られたものの、関連性は小さなものだったと研究チームは述べています。

また、特に研究チームが重要だと指摘しているのが、「テクノロジーの使用がメンタルヘルスに及ぼす影響は時間と共に変化しなかった」という点です。青少年の「行動に関する問題」や「自殺念慮」とソーシャルメディア・テレビとの関係は時間が経過してもほとんど変化しておらず、「抑うつ状態」はむしろ関係性が減少していました。「感情的な問題」だけはソーシャルメディアとの関係性が時間と共に少し増加していましたが、増加の程度は大きくなかったとのこと。

この結果から研究チームは、「『過去10年間でソーシャルメディアプラットフォームとデバイスが急速に進化し、青少年のメンタルヘルスにとってより有害なものになった』という主張は、現在のデータによって強く支持されるものではありません」と結論付けています。



Vuorre博士は、今回の結果はテクノロジーが10代にとって「完全に良い」または「完全に悪い」と断定するものではないと指摘。若者の生活におけるテクノロジーの役割について結論付けるのは困難であり、オンラインで収集されたデータの多くがテクノロジー企業によって保管されている現状では、科学者の調査にも限界があるとのこと。そこでVuorre博士は、独立した研究者とテクノロジー企業の間で、より透明性の高い研究協力が必要だと主張しました。