1位の江戸城(東京都)

 日本の城はおもしろい。防御力に秀でた城もあれば、反撃特化型の城や、権力者の威光を示す豪華絢爛な城もある。立派な天守だけではなく、櫓や石垣、城内の構造など見どころは無数にあるのだ。

「基本的に日本の城は専守防衛ですから、防御力が高めに設計されています。重要なのは広さと高低差。攻めにくい地形に築かれている城ほど、戦闘力は高い。また、城主の実力も大事。将軍や有名大名の城ほど、強い城といえます」

 そう語るのは、歴史研究家の小和田泰経氏(49)。今回、小和田氏に城の「戦闘力」を示す防御力、反撃力、城主の実力の3項目から、最強の30城を選んでもらった。

 1位は江戸城。日本最大級の広さと、将軍の威光で造られた城は、戦闘力も日本一だ。

「総構(そうがまえ)といって、今の四谷見附や赤坂見附あたりまでがすべて江戸城で、その外側の防衛線も突破しないと中に入れない強靭な防御力です。

 また、武蔵野台地の突端に築かれているので、じつは大手門の内と外では、相当な高低差があります。立地もよく考えられて造られています」

 総構とは城と城下町一帯も含めて、その外周を堀や石垣、土塁で囲い込んだ構造のこと。高低差を感じるには、桜田門や半蔵門のあたりから、今の皇居を望むとわかりやすい。

 2位は、織田信長が築いた安土城だ。「天守が豪華だったのと、高石垣で造られているのが特徴です。

 背後に観音寺城という山城があり、いざとなったらそちらに逃げ込むこともできるし、琵琶湖に面しているので船での脱出も可能です。ただ、反撃はしにくい構造です」

 かつては、五重七階の豪華な天守が存在していたが、原因不明の火災で消失。近世城郭の祖型として、天守台礎石群などが残っている。

 3位は大坂城(明治以前はこの表記)。豊臣秀吉が贅の限りを尽くして完成させた名城だ。現在、我々が目にしているのは3代目天守である。

「秀吉時代の大坂城を評価しての3位です。総構に守られ、豪華な天守で経済力を見せつける効果もありました。

 上町台地の突端にあり、北側は川、東と西は断崖。大坂冬の陣では、敵が攻めてくる南側に真田丸が造られ、防御力と反撃力は高かった。出丸は攻撃の足がかりになるんです」

4位の熊本城(熊本県)

■震災の被害を受けるも今月末から天守を公開

 4位は、熊本地震で大きな被害を受け、約5年に及ぶ改修工事がおこなわれていた熊本城。4月26日から復旧した天守の特別公開が始まる。

「敵の侵入経路を折れ曲がったものにさせるため、縄張が非常に複雑。

 本丸の天守に入る前に御殿の下を通らなくてはいけなかったりと、なかなか突破できない。あとは高石垣。石垣が高いと、侵入しにくいのです」

 縄張とは、曲輪の配置や大きさや形状、天守や櫓の門の位置、形式など全体の設計プランのこと。熊本城はくねくねしていて、攻め込みにくい縄張が採用されている。

 同じく4位は名古屋城。将軍家、徳川氏の城である。

「現状は何も残っていないんですが、本丸の周りを多門櫓という屋根つきの櫓で囲んでいるので、それを突破しない限りは侵入できません。

 反撃に関しては、外に出にくい構造ですが、空堀から討って出たり、通路にすることもできる。空堀と水堀をうまく使える城です」

 6位は広島城。原爆により倒壊したが、1958年に五重5階の望楼型天守が再建された。

「櫓の数が多く、周辺をしっかり守れますし、中州に造られているため川にも守られている構造。防御力は高く、籠城戦に向いた造りです」

 7位は彦根城。「山頂に建てられており、山全部が城であるのと、登り石垣といって、山を登っていく感じの石垣に囲まれ、敵がほとんど城内に入り込めない。城主も譜代筆頭の井伊家なので、実力があります」

 同じく7位は国宝・姫路城。「外郭が広いのと、連立式といって大天守1つに小天守が3つもあります。

 そこを突破して中庭に入らないと、天守を攻略できません。内部の縄張も複雑で、天守自体の防御力なら日本の城のなかでいちばん高いかもしれません」

●小和田氏おすすめは湿地帯にある “浮き城”

 9位は、広大な小田原城。
「総構が大きく、周囲は9kmと城の敷地自体が広大なため、兵士を多く配置でき、反撃力も高い。幕末には3基の砲台まであったくらいです」

 10位は岐阜城だ。
「天守まで麓から高低差が300メートルほどあるので、なかなか攻めにくい城です。歴代の城主に信長や、その孫がおり、鉄壁の防御力を誇った城です」

 ベスト10入りの城は、「どれがトップになってもおかしくない」と、小和田氏は語る。

「大事なのは立地で、台地や川の地形を利用したり山頂に建てるなど工夫されています」

 ほかに、攻防一体型で隙がない11位の会津若松城や、16位の今治城などを挙げる。

「会津若松城は石垣が高く堀に幅があり、出丸があるので外にも討って出やすい。本丸を3つの郭で守っていて縄張も実戦的。総構で防御力も高い。

 城主も松平一門ですしね。今治城は、海から水を引いて堀を造っている城です。堀幅が広く、なかなか侵入されにくい。海城ですから城の中から軍船の出入りもできて、攻守にバランスがいいですね」

 防御特化型では、20位の福山城の評価が高い。
「櫓が多くて守りが堅い城です。西国の大名を抑えるために幕府が築いた城なので、堅牢な造りになっています」

 また、湿地帯に囲まれ、防御力が高い25位の忍城は、小和田氏おすすめの城。
「『浮き城』と呼ばれ、湿地帯に囲まれていたため非常に攻めにくい城でした」

 26位の柳川城や、29位の佐賀城も湿地帯や水路に守られ、防御力の高い城だという。

 現地に足を運び、この城をどう攻略するのか、どうやって守るのか、と思いを馳せるのも城巡りの醍醐味のひとつといえる。

おわだやすつね
1972年、東京都出身 歴史作家、歴史研究家。父は静岡大学名誉教授の小和田哲男氏。静岡英和学院大学、早稲田エクステンションセンター講師。2017年NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』に資料提供者として参加。歴史関連の著書多数

※次ページから、30城の詳細をまとめます。

●1位 江戸城(東京都)
日本最大の広さと将軍の威光

◎ココを見よ!
4月、皇居・東御苑の「三の丸尚蔵館」の建て替え工事にともなう発掘調査で、新たな江戸城の石垣が発見された。400年前の江戸時代初期にあたる、慶長期後半から元和期のものとみられる

築城主/太田道灌、徳川家康、秀忠、家光 
主要城主/太田氏、小田原北条氏、徳川氏
防御力 10+ 
反撃力 8  
城主力 10+

●2位 安土城(滋賀県)
信長の絶頂期に築かれた豪華絢爛な天守

◎ココを見よ!
幅6mの石段が、約180mほど一直線に伸びている大手道に圧倒される。その両側には、家臣団の屋敷があったとされ、石段や石垣の組み方を眺めているだけで、当時の栄華が偲ばれる

築城主/織田信長 
主要城主/織田氏
防御力 10
反撃力 7  
城主力 10+

●3位 大坂城(大阪府)
贅の限りを尽くした天下統一の象徴

◎ココを見よ!
大阪城公園京橋門に鎮座している枡形の巨石「肥後石」。高さ5.5m、横幅は11.7mと巨大。小豆島産の石と推定されており、岡山藩主だった池田忠雄が、担当大名を務めたとされている

築城主/豊臣秀吉、徳川秀忠 
主要城主/豊臣氏、松平氏、徳川氏
防御力 10
反撃力 7  
城主力 10

●4位 熊本城(熊本県)
震災から5年の時を経て再建

◎ココを見よ!
熊本城には非常に複雑な縄張が。本丸には大天守と小天守を建て、5基の五階櫓が並んでいた。西南戦争で、本丸の大部分が消失したが、1960年に天守が再建された

築城主/加藤清正 
主要城主/加藤氏、細川氏
防御力 10
反撃力 6  
城主力 9

●4位 名古屋城(愛知県)
空堀と扇勾配の石垣が敵を阻む

◎ココを見よ!
名古屋城の空堀から扇勾配の石垣を眺めたい。空堀は深さが命といわれ、台地の上に深く掘り、敵の侵入を阻む役割を担っている。天守台の石垣は、城造りの名人とされた加藤清正が担当

築城主/徳川家康 
主要城主/徳川氏

防御力 9
反撃力 7
城主力 9

●6位 広島城(広島県)
川に囲まれた中州に築かれた名城

◎ココを見よ!
川に守られている広島城。太田川河口の三角州に建てられ、地盤が弱いのを埋め立てる「島普請」といわれる大規模な工事がおこなわれた。完成まで10年の時を要したという

築城主/毛利輝元 
主要城主/毛利氏、福島氏、浅野氏
防御力 9
反撃力 7
城主力 8

●7位 彦根城(滋賀県)
現存天守で最も多い破風が特徴

◎ココを見よ!
太鼓丸と呼ばれる、曲輪の入口に架けられた天秤櫓。櫓の左右に二重櫓を配しており、その形から天秤櫓と称された。中央を開けるように橋が架けられ、城内に入る門を設けている

築城主/井伊直継、直孝 
主要城主/井伊氏
防御力 10
反撃力 5
城主力 8.5

●7位 姫路城(兵庫県)
白鷺城は世界遺産にも登録された

◎ココを見よ!
別名・白鷺城と呼ばれる名城の石垣、水堀、天守が素晴らしい。天守群の美しさと、複雑な縄張、広い敷地はさすが世界遺産であり、国宝・重要文化財に指定されるだけの美しさを誇っている

築城主/羽柴(豊臣)秀吉、池田輝政
主要城主/豊臣氏、池田氏、本多氏、松平氏ほか
防御力 10
反撃力 5.5
城主力 8

●9位 小田原城(神奈川県)
東海道を守った広大な敷地の堅城

◎ココを見よ!
寛永10年(1633年)に築かれた本丸の石垣は元禄16年(1703年)の元禄地震により被災。修復されたが関東大震災で滑り落ちた。江戸時代の小田原城の石垣の姿を残す

築城主/大森氏、北条氏、稲葉氏
主要城主/大森氏、小田原北条氏、大久保氏、稲葉氏
防御力 9
反撃力 8  
城主力 6

●10位 岐阜城(岐阜県)
山全体が城塞と化した峻険の城

◎ココを見よ!
鎌倉時代に、二階堂行政が築城したとされているが、詳細は不明である。斎藤道三が山城と城下町を整備した。山頂に建つ天守は非常に高い位置にあり、ここを攻めるのはきわめて困難

築城主/二階堂行政、斎藤道三、織田信長
主要城主/二階堂氏、斎藤氏、織田氏
防御力 10
反撃力 4.5
城主力 8

●11位 会津若松城(福島県)

築城主/蘆名直盛、蒲生氏郷、加藤明成
主要城主/蘆名氏、蒲生氏、加藤氏、松平(保科)氏
防御力 8
反撃力 8
城主力 6

●12位 金沢城(石川県)

築城主/佐久間盛政、前田利家
主要城主/佐久間氏、前田氏
防御力 9
反撃力 5.5 
城主力 7

●13位 福井城(福井県)

築城主/結城秀康
主要城主/結城氏、松平氏
防御力 9
反撃力 5  
城主力 7

●13位 松山城(愛媛県)

築城主/加藤嘉明、蒲生忠知
主要城主/加藤氏、蒲生氏、松平(久松)氏
防御力 9
反撃力 6  
城主力 6

●15位 津山城(岡山県)

築城主/森忠政
主要城主/森氏、松平(越前)氏
防御力 9
反撃力 5.5 
城主力 6

●16位 今治城(愛媛県)

築城主/藤堂高虎
主要城主/藤堂氏、松平(久松)氏
防御力 9
反撃力 8  
城主力 3

●16位 松本城(長野県)

築城主/石川数正、康長
主要城主/石川氏、小笠原氏、戸田(松平)氏ほか
防御力 7
反撃力 8  
城主力 5

●16位 和歌山城(和歌山県)

築城主/羽柴(豊臣)秀長、浅野幸長、徳川頼宣
主要城主/羽柴(豊臣)氏、桑山氏、浅野氏、徳川氏
防御力 8
反撃力 5
城主力 7

●19位 小倉城(福岡県)

築城主/細川忠興
主要城主/細川氏、小笠原氏
防御力 7
反撃力 7
城主力 5

●20位 福山城(広島県)

築城主/水野勝成
主要城主/水野氏、松平(奥平)氏、阿部氏
防御力 8.5
反撃力 3  
城主力 7

●20位 萩城(山口県)

築城主/毛利輝元
主要城主/毛利氏
防御力 7
反撃力 3.5
城主力 8

●22位 川越城(埼玉県)

築城主/太田道真、道灌、松平信綱、輝綱
主要城主/上杉(扇谷)氏、松平(大河内)氏、松平(松井)氏ほか
防御力 3
反撃力 8  
城主力 7

●23位 篠山城(兵庫県)

築城主/徳川家康
主要城主/松平(形原)氏、青山氏
防御力 2
反撃力 9  
城主力 6

●24位 土浦城(茨城県)

築城主/菅谷氏
主要城主/菅谷氏、松平氏、土屋氏ほか
防御力 7.5
反撃力 8  
城主力 1

●25位 忍城(埼玉県)

築城主/成田氏
主要城主/成田氏、松平(東條)氏、松平(奥平)氏ほか
防御力 7
反撃力 7  
城主力 2

●26位 柳川城(福岡県)

築城主/蒲池治久
主要城主/蒲池氏、立花氏
防御力 9
反撃力 2  
城主力 4

●27位 洲本城(兵庫県)

築城主/安宅氏
主要城主/脇坂氏
防御力 8.5
反撃力 4  
城主力 2

●28位 盛岡城(岩手県)

築城主/南部信直、利直、重直
主要城主/南部氏
防御力 6
反撃力 2.5 
城主力 5

●29位 佐賀城(佐賀県)

築城主/鍋島直茂、勝茂、吉茂、直正
主要城主/鍋島氏
防御力 7
反撃力 1  
城主力 5

●30位 岡山城(岡山県)

築城主/宇喜多秀家
主要城主/宇喜多氏、小早川氏、池田氏
防御力 5.5
反撃力 1  
城主力 6

※防御力、反撃力、城主力の数値は小和田氏が決定

(週刊FLASH 2021年5月4日号)