「Uber Eats」の配達で旅費を稼ぎながら、自転車で東京から沖縄まで旅した経験がある

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 ここ最近、店員からウーバーイーツ配達員への暴行トラブルをよく耳にする。4月5日には配達員がピックアップ先のラーメン店で商品を受け取ってから配達をキャンセルしたことで店主が激昂し、暴行を受けている。さらに同月17日には配達員がピックアップ先のラーメン店で渡された商品が間違っていることを店員に伝えると、その店員から暴行を受けたことを告発している。

 詳しい状況はわからないが、たとえどんな理由があろうとも暴力は絶対に許されるべきではない。よって、これらの件については完全に店側が悪い。しかし、このような攻撃的な仕打ちは店員から配達員に対してのみ行われているわけではない。配達員同士の間でも行われているのだ。

◆SNSで同業者から誹謗中傷

 僕は2020年10月から2021年2月にかけて「Uber Eats 自転車出稼ぎ旅」という企画を行っていた。ウーバーイーツ配達員をしながら自転車で旅し、それで稼いだお金だけで東京から沖縄までを目指すというものである。

 この企画の間、僕のツイッターの個人アカウントには誹謗中傷のDMが多く寄せられていた。「ウーバーの恥晒し」、「今すぐに辞めろ」、「目障りだ。消えろ」等である。そしてそれらを送ってきたアカウント名を確認すると、その多くに「@uber」等のウーバーイーツ配達員であることを示唆するような文字が含まれていた。つまり、僕を誹謗中傷してきた人々の多くは同業者だったのである。同業者から温かい応援メッセージをもらうこともあったが、それは誹謗中傷に比べるとかなり少数だった。

◆Uber Eats配達員同士のトラブル

 もっと直接的に威圧を受けることもあった。

 配達で行ったあるマンションでのことである。エントランスを抜けてエレベーターホールに行くと、そこでウーバーのバッグを背負った別の配達員がエレベーターを待っていた。彼はここがエレベーターホールという公共の場であることにも構わず、スマホで大音量で音楽をかけていた。

 しばらくしてエレベーターがやってきたので、その配達員といっしょに乗り込んだ。彼は階数ボタンの前に立つが、まごまごとしていてすぐに押さなかったので、僕は横から先にボタンを押した。

◆俺より先にボタンを押してるんじゃねえよ!

 そしてエレベーターが動き出したときのことだった。彼は僕のほうに振り向き、こう言って凄んできた。

「おまえ、ふざけてんじゃねえぞ」
「は?」
「俺より先にボタンを押してるんじゃねえよ! 俺が今押そうとしてたところだろうが!」

 突然の恫喝にうろたえてしまった。が、こんなのを相手にして揉めるのも面倒だったのでとりあえず「すみません」と言う。すると、彼は僕に背を向け、

「ふざけやがって。舐めてんじゃねえよ」

 怒りを滲ませた口調でそうブツブツと呟いた。やがて彼の目的階のほうに先に到着し、彼はエレベーターを降りていった。

 エレベーター内に静寂が戻る。が、僕はそのときもまだ呆然となっていた。エレベーターのボタンを先に押された。ただそれだけのことであそこまで激昂する人間がいるということが信じられなかったのである。そして、もし自分が客の立場であんなチンピラのような配達員に料理を運ばれたら……ということを想像してゾッとなった。

◆店やお客さんから嫌な思いをさせられたことはない

 僕はウーバーイーツ配達員をしている間、ピックアップ先の店員やお客さんから嫌な思いを味わわされたことはほとんどなかった。たまに無愛想な店員にあたることもあったが、ほとんどの人はお客さんと同様に丁寧な対応をしてくれた。

 お客さんのほうも、僕がラーメンのスープを少しこぼしてしまったときも「申し訳ございませんでした」と謝罪すると「大丈夫ですよ。気にしないでください」と笑顔で許してくれたり、「この寒い中ありがとうございました。これで温かいコーヒーでも飲んでください」とチップをくれたりと心優しい人たちばかりだった。

 嫌な思いを味わわされるのはいつも同業者のウーバーイーツ配達員からばかりだったのである。

<取材・文/小林ていじ>【小林ていじ】
バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeで「ていじの世界散歩」を検索。