誰のために何のために書くかをハッキリさせましょう(写真:Greyscale/PIXTA)

「仕事で何か文章を書いても反応が鈍い」という声をよく聞きます。「仕事で」ということは何らかの宣伝要素があるでしょうから、読み手からすれば、そんな下心のある文章は避けるのが普通で、よほど自分に役立つ内容でもなければ、なかなか読む気にはならないでしょう。

この場合、読まれるための工夫として記事のSEO対策、更新頻度や拡散手段、メジャーなプラットフォームへの転載、メディア内の回遊率を上げる仕掛けなど、サイト自体を強化することも大切ですが、それ以上に効果的なのは記事自体の魅力を高めることです。「仕事で書く文章」を「読まれる文章」にするために知っておきたいこと。『anan』元編集長、能勢邦子氏の著書『なぜか惹かれる言葉のつくりかた』の内容を一部抜粋、再編集してお届けします。

タイトルをパッと見ただけで伝わるか

あるウェルネス系webメディアの立て直しに参加した時のことです。どの記事も読んでみると悪くないのに、タイトルがわかりにくいなぁと思っていました。

・走るべきか、走らないべきか、それが問題だ
・そうだ、筋トレのメニューを変えてみよう!
・メンタルは鍛えるのではない、整えるのだ
・美味しい食べ物たちが体を作ってくれている

後日、担当者に会ってみると、30代の真面目な男性Nさんで、すべての記事タイトルを自分でつけているとのこと。「キャッチコピー50の技術」的な本に照らして、うんうん唸りながら頑張っていると自慢気に話してくれました。

最初のタイトルは「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」というハムレットの台詞のパロディ。2つ目は「そうだ 京都、行こう。」というJR東海のキャッチコピーの真似。3つ目は「否定からの肯定(断言)で強める対比」の技術。4つ目は、食べ物の擬人化。
しかし技術を駆使はしているものの、肝心の内容は全然伝わってこないと思いませんか。

「強く短いコピーがいいんですよね」とNさんは言いますが、残念ながら、その道の権威に取材した記事なのか、有名人のインタビューなのか、理論なのか、はたまたエッセイなのかさえわかりません。

しかも、技術が生きていないのです。

「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」と、生と死の対比を使った壮大な表現に、走ることと走らないことの対比では弱く感じます。「走るべきか、泳ぐべきか、それが問題だ」「有酸素運動か、無酸素運動か、それが問題だ」なら、まだ対比に足るでしょう。壮大な表現は、ふさわしい時に使ってこそ生きるものです。

結局、Nさんにはタイトルの基本的な考え方を3回に分けてレクチャーすることにしました。今ではとてもいいタイトルをつけられるようになりました。

Nさんにレクチャーしたのは、キャッチコピーの技術はいったん忘れて、まずは記事をしっかり読み込むこと。その記事で「伝えたいこと」は何か、一番の“売り”を考えること。それだけです。

誰に何を伝えたいのか確認する

世の中には、ものをつくる人がいて、それを広告する人がいます。メーカーと広告代理店といえばイメージしやすいでしょうか。「読まれる」「売れる」言葉を考える時に、そのほとんどが後者の広告視点、つまりマーケティング発想から始まっています。

私たちが目にする情報の量は1996年から10年間で530倍、特にインターネットの情報量は2000年から20年間で6450倍にも膨れ上がっているとか。この恐ろしいほどの情報量のなか、どうすれば読者の目に止まるか、買ってもらえるか。そのノウハウばかり追いかけて、しのぎを削るうちに、内容とフィットしない言葉が溢れてきたように思います。

内容にフィットする言葉でなければ魅力は伝わりません。

つくるものをコンテンツと言い換えてもいいでしょう。記事であれ、モノであれ、コトであれ、サービスであれ、言葉にして初めてコンテンツになる。つまり、言葉にするまでがものづくりです。

いま、世のなかで目にする言葉は、ものづくり視点とマーケティング発想の比率が2:8ぐらいでしょうか。それぐらいマーケティング発想が行き渡りました。

ですが私は、ものづくり視点が8、マーケティング発想は2が理想だと思います。なぜなら、コンテンツをつくることと見せること、どちらが大切かといえば、つくることだからです。

Nさんの件をきっかけに改めてwebコンテンツを見てみると、同じことがたくさん起きているように感じます。「コンテンツマーケティングだ!」「それっ、メルマガだ!」「 週3回更新だ!」ととりあえず書き始めてしまいます。配信しながら、コンテンツの見せ方やキャッチコピーの技術に走ってしまう。でも仕事で書くなら、なおさら書く前の準備が重要です。なんのために書くのか、誰に読んでもらいたいのか。

準備は、会社や商品のコンテンツ化から始まるといってもいいでしょう。どういう会社(商品)で、どういう特徴があって、売りは何なのか。どんなメディアで、どう伝えていくか。その全体像のなかの、どの文章を書くのか、それによって、なんのために書くのか、誰に読んでもらいたいのかは決まります。

外部の書き手が文章を書く時にも、どういう会社の、誰に向けた、どういうメディアなのかを共有します。コンテンツというのは、小さなコンテンツ(たとえば記事ひとつ)も大きなコンテンツ(たとえばコーポレート・アイデンティティ)も綿密に関連しあって、ひとつのうねりをつくるものです。

タイトルは「伝えたいこと」ズバリ!が基本

インタビューにしても、コラムにしても、何を書くにも、まず、「伝えたいこと」を明確にします。「伝えたいこと」というのは、その人にインタビューして一番感動したことです。コラムなら、読者にぜひ主張したい自分の意見です。

「惹句(ジャック)」という言葉がありますが、書き手が一番惹かれたことを訴える言葉には力があり、その力は読者を惹きつける武器になります。マーケティング発想で、どうしたら「読まれる」か「売れる」かという読者の行動を求める前に、書き手の熱い思いが詰まった「伝えたいこと」がないと、読まれるものにはなりません。それが、ものづくり視点で考えようという所以です。

文章を書く前に、この空欄に言葉を入れることをお勧めします。

私は今回この記事で[   ]を伝えたい。

この[   ]に入る言葉を明確に。そして、ひとつに絞る。

「伝えたいこと」が明確になったら、文章の構成を考えます。「伝えたいこと」を伝えるために、説得力のある理由や具体的なエピソードを根拠として挙げていきます。「伝えたいこと」→根拠A→根拠B→根拠C→再び「伝えたいこと」という流れを基本にするといいでしょう。

「上手い文章を書こう」とは思わないこと

ここまでが準備です。あとは、書くだけ。一文につき言いたいことひとつを原則に、一文一文、端的に重ねます。事前に決めた構成に沿って、ただただ、読者がわかるように説明していきます。「上手い文章を書こう」とは決して思わないことです。


タイトルも、ひとつに絞った「伝えたいこと」ズバリがおすすめです。ただし、タイトルは「伝えたいこと」がきちんと伝えられているかどうか、言葉ひとつひとつを吟味する作業も必要です。ありふれた言葉や常套句では、「伝えたいこと」が伝わりません。何パターンかつくって、比べてみるといいでしょう。

文章を書く目的や読者を明確にする。「伝えたいこと」を整理する。それを誠実に言葉にしていく。

どんなに素晴らしいコンテンツも、人に届かなければ意味がありません。当然、「読まれる」「売れる」ものにしたいわけですが、誰に読まれるのか、が問題です。野次馬がいたずら半分に拡散させバズることか、そのコンテンツに共感を抱きファンになってもらうことか。マスメディアの力が弱まりメガヒットが出にくい時代、これからは、コンテンツのファンを強固に繋ぐ言葉のほうが必要とされるのではないでしょうか。

熱い思いをもって「伝えたいこと」を誠実に文章にする惹句こそが、結果として、「読まれる」「売れる」言葉にたどり着く近道なのです。